食事の前の運動により血糖値低下効果はあるのか?

先日、運動と血糖値に関するコメントをいただきました。

連投で申し訳ありませんが、昨夜ちょっとした実験をしてみたら、意外に面白い結果が出ましたのでご報告いたします。

目的は運動と(お付き合いを想定して外食時の)食後血糖値の関連性の確認です。
n=2で私と連れ合いです。

私は出かける直前に10kmのランニングを最大心拍数の88%平均(LT走レベル)の強度で行い、その後ちょうど1時間後に二人で徒歩にて5km(約1時間)、連れ合いはこの往復合計10kmの徒歩(早歩き)のみの運動です。従って私は10kmランニング+5km徒歩(以上食前)+5km(食事開始一時間後から開始)ということです。

一年前の1月7日に行ったのと同じインドカレー店に到着、当時とほぼ同じメニューを注文しました。
たまたまその日の記録が残っていたのを見つけたので、急遽思い立って1年ぶりに”フツー”の食事を恐る恐る食べてみた次第です(笑)
ざっと内容は、ペースト状のカレー、半分以上チーズじゃないかというぐらいのチーズナン(手のひらサイズより大きいぐらいを四枚)、シシカバブ(大きなちくわ一本分ぐらい)照り焼きっぽいチキン(唐揚げのもも肉程度)二個、ミニサラダとスープ、それからとどめにめちゃくちゃ甘い(と感じた)ラッシー(ヨーグルト風ドリンク)です。
摂取糖質量は皆目見当がつきませんが、すくなくともフレッシュネスバーガーよりはずいぶん高いでしょう(笑)

連れ合いの血糖値変遷は以下の通りで、

食前   79
一時間値 168
二時間値 121
三時間値 109

と本人曰く、食前の血糖値は平常と同じか若干高いぐらいで、一年前の記憶ではピーク時は200を超えていたと言うことです。
また、連れ合いは糖質制限前は頻繁に機能性低血糖と思われる症状に悩まされていました。どうやらそもそもインスリンの反応が遅い体質のようです。
が、今回はピーク値も昨年より低く、時系列に従って順調に低下していて、前後のウォーキングはそれに寄与している可能性はあるかと思います。

私の方はと言うと、

食前   95(恐らく70-80ぐらい)
一時間値 100(96)
二時間値 93(150)
三時間値 132(129)
四時間値 117(128)

となりました。カッコ内は昨年の数値です。
食前の95は私の平常値からは30ほど高いです。最近の空腹時血糖値は60前後が多いので。
二時間値のみが激烈に低いです(笑)。三時間値で再上昇したのは結構ショックでしたが、ある程度以上の運動強度(特に休憩無しの連続運動)ではリバウンド効果があるらしいので、それかもしれませんね。
また、二時間値の測定は帰宅して徒歩終了直後でした。
一年前はまだランニングを始めておらず、日常的な運動は全く行っていませんでしたが糖質制限開始からは3ヶ月経過していました。

連れ合いの数値変遷とは明らかに傾向が異なっていますが、これが個人差なのか、事前のランニングによる効果なのかは私にはよく分かりません。
分かりませんが、少なくとも食前あるいは食後、もしくは両方の運動が血糖値の上昇を抑える効果があると言うことは、私たちの体に対しても確認できたのではないかと思います。

まずは奥様のデータからです。奥様は5kmウォーキングして、インドカレー店で食事をして、また5km歩いたということでしょう。

食前   79
一時間値 168
二時間値 121
三時間値 109

食前値も問題ありませんし、ピークが1時間にあります。正常です。しかし、以前はピークは200以上であったということなので、今回のピークの低下が、食事前のウォーキングによるものなのか、それとも糖質制限でインスリンの感受性が高くなったのかどちらかは判定できません。次回にウォーキングなしで同じ食事をしてみないとわかりません。

では、ご主人の方は?カッコ内は昨年の値だそうです。

食前   95(恐らく70-80ぐらい)
一時間値 100(96)
二時間値 93(150)
三時間値 132(129)
四時間値 117(128)

今年のデータは10kmラン+5kmウォーキング、その後食事して、5kmウォーキングという状態です。食前は10kmランという激しい運動直後ですから交感神経系が活発なので、いつもよりも高めは当然でしょう。しかし、その後の1時間値2時間値は通常の推移とは異なります。1時間値がほとんど変動しないのは、運動によりGlut4が細胞の表面に出てきて、グルコースの取込みが促進されている状態が持続している可能性は考えられます。通常運動によるGlut4の細胞表面への移動は運動後も2~3時間程度持続すると考えられていますが、このことは動物の実験での話であり、人間では確かめられていないのでは?と思います。しかし、恐らくは数時間は持続するのではと思います。また、運動後にGlut4が表面に出てくる効果が消失した後も、しばらくはインスリンの感受性が上がると考えられています。そして今回の場合食後にもウォーキングしているので、2時間値までがその影響を受け血糖値が上昇しなかったとも考えられます。

しかし、別の考えが浮かびます。10kmランが激しい運動であり、それにより消化吸収能力が低下したとも考えられます。そこで昨年のデータを見ると、ピークは2時間値です。しかも4時間値もまだかなり高いです。普通であれば4時間値はベースラインに戻ります。しかも、1時間値がそれほど高くないのです。

健康な状態では食事内容により異なりますが、ピークは1時間値またはそれよりも前になります。糖尿病とかなら1時間値も高く、2時間値はさらに高い状態です。

しかし、この方の昨年の1時間値はそれほど高くなく、2時間値でピークとなりその後もダラダラと低下するという状態です。

吸収が非常にゆっくりである?可能性はありますが、もう一つの可能性は血糖値に対して適切なインスリン分泌がされていない可能性です。まだ血糖値が下がっていないのにインスリン分泌が低下してしまっていたのではないかと思います。

そのような背景のある状態で、今年のデータを見ると、1時間値や2時間値が上昇していないのも、インスリンの分泌の仕方が通常とは違うのではとも思えます。同時にインスリン値を測定できると面白いデータが得られるのではないでしょうか?

運動によるGlut4が表面に移動してきて、グルコースの取込みが増加するということですが、狩猟採集生活や糖質制限の状態を考えると、糖質過剰摂取者とはちょっと異なる気がします。筋肉や肝臓のグリコーゲンはそれほど多くはないので、通常の日常生活や低強度の運動でGlut4を呼び出してグルコースをエネルギーにしていてはすぐに枯渇してしまいます。ですから脂肪酸やケトン体がメインエネルギーでしょう。そして、できる限り脂肪酸をメインエネルギーのままにしていないと、いざというときにグルコースを使うことができません。糖質過剰摂取では運動強度が50%程度でグルコースがメインエネルギーになるようですが、ケトン体質になっていれば、運動強度も増していってもかなりの強度まで脂肪酸をメインエネルギーにできます。また、狩猟採集生活では空腹状態で活動することが多かったはずなので、Glut4は敵から全速で逃げるような状況でしか、表面に出てこなかったのではとも思えます。

そうすると、糖質制限をしている場合、ウォーキング程度の運動ではGlut4がそれほど登場願わなくても良いのではと考えます。しかし、糖質制限をしている人が急に糖質たっぷりの食事をした場合の運動でのGlut4の動向は、血糖値を低下させるために表面に出てくるのか、インスリン分泌を促すのかはよくわかりません。糖質制限を継続している限り、運動によるGlut4効果は気にする必要はないでしょう。

まとまりのない文章になりましたが、糖質制限をしている場合、運動によるGlut4効果は恐らく、血糖値も上がらないのでウォーキング程度の強度では認められず、血糖値を上げるような食事の後の運動では、ウォーキング程度でもGlut4が出てくるのではないかと思います。

しかし、フルマラソンなど過酷な運動後では話が異なります。以前の記事「フリースタイルリブレを使った人体実験その4 スポーツドリンクは危険なドリンクか?」で示したグラフのように、液体の糖質にも関わらず、フルマラソン後のスポーツドリンクで血糖値の上昇は30分後でも現れず、ピークはなんと2時間30分後でした。そしてベースラインに戻るまで5時間という時間がかかっています。

つまり、激しすぎる運動後では吸収も悪いし、インスリン抵抗性が非常に増加しているのではと推測できます。ただ、Glut4効果で30分値が低かった可能性も否定できません。激しい運動をするほどグリコーゲンが減少するので、グルコースの取込みは増加するはずですが、フルマラソン後では逆にグルコースを取り込まないようにしているように見えます。炎症を起こしている筋肉にグルコースを入れないようにしているのかもしれません。

(上の図はこの論文より)上の図はエリートのアスリートが、高糖質のドリンクと、低糖質のドリンクを3時間の運動前後に飲んだときの、血糖値(A)とインスリン値(B)の推移です。ランの90分前に体重当たり5kcalのドリンクを飲みます。高糖質では50%が糖質、低糖質では5%が糖質ですので、体重50kgとすると250kcalのドリンク中、31gまたは3.1g程度の糖質量です。

ベースラインと比較すると高糖質では当然運動開始時にインスリン値が爆上がりしています。しかし、運動による分泌抑制のため、運動開始後60分ではベースライン以下になっています。血糖値は運動開始60分後には低糖質でも血糖値上昇が認められます。

180分に運動をやめて、再びドリンクを飲みましたが、その時の血糖値やインスリン値の変動の仕方は通常の安静時とは違います。通常ではドリンクであれば30分すると血糖値もインスリン値も上昇します。(「経口ブドウ糖負荷後2時間血糖値は役に立たない」の正常な人の反応を見るとわかると思います。血糖値のピークは30分値です。)しかし、このグラフの210分値(運動後ドリンクを飲んで30分後)では血糖値の上昇は認めません。インスリンは上昇中ですがその上昇幅は小さく、ピークはドリンク摂取後1時間です。血糖値のピークも1時間後です。

明らかに運動による影響があると思います。血糖値の300分値(ドリンク摂取後2時間後)を見ると、高血糖ドリンクではまだベースラインに戻っていません。運動前のドリンクでは0分(運動前ドリンク摂取後90分)の血糖値はベースラインと変わりません。ということは、運動後の吸収が遅くなるか、運動後すぐにはグルコースの取込みは良いけれども、その後インスリン抵抗性が高くなり、血糖値を下がりにくくしているのかもしれません。

結論は見えません。糖質制限をしているかどうかでの違いや個人差も非常に大きいでしょう。運動時間や運動強度でも違いがあると思います。 やはりお勧めは運動前も運動後も糖質制限でしょう。

ちなみにネズミの実験では、果糖を摂取すると、運動のGlut4効果が抑制されるようです。(その研究はここ)人間ではわかりませんが。

コメント

  1. ねけ より:

    ややこしい課題をわざわざ記事にまでして頂いてありがとうございます。
    残念ながらインスリン分泌を気軽に測定できる環境にありませんが、私の関心もそこにありました。

    ある強度以上の運動後では消化あるいは代謝が抑制され、従って血糖値上昇が一定時間抑えられる(と言うことはその後上昇する、だらだら高値が続く)というのはよく分かります。

    また、私のインスリン基礎分泌は(半年以上前の数値ですが)、いわゆる基準値を割っていましたし、実際、ある程度以上の糖質量摂取への反応は遅くなっているのも事実です(ピーク値が食後二時間前後になることが多い)。

    今回の試みではピーク値を抑えることは出来ていると思いますが、インスリン分泌総量としてはもしかしたらあまり変わらないかも知れませんね。さすがにGlut4リアルタイム測定は無理ですし^^;

    もちろん日常生活上出来る限りの糖質制限は継続していくつもりなので、あくまでも避けがたいフツー食に対して、という緊急避難的対策の模索が目的ではあります。

    先生のこれまでの人体実験シリーズを拝読すると、自分で実験することは結構な恐怖ですが今後も何か思いついたら試してみようと思います。SMBGしかありませんけど。

    ありがとうございました。