ヨーロッパ心臓病学会とヨーロッパ糖尿病学会が共同で出した糖尿病、前糖尿病、および心血管疾患に関する2019 ガイドラインが酷い

ヨーロッパ心臓病学会(ESC)はヨーロッパ糖尿病学会(EASD)と共同で糖尿病、前糖尿病、心血管疾患に関する2019年版の新しいガイドラインを出しました。

その17ページに食事に関することが書かれています。その内容は、残念な内容です。

6.1.1食事

栄養素の分布は、現在の摂食パターン、嗜好、および代謝目標の個別の評価に基づいている必要があります。地中海の心血管疾患リスクが高い人(49%が糖尿病)の人々におけるPrevencion con Dieta Mediterranea(PREDIMED)研究ではオリーブオイルまたはナッツを追加した食事は、主要な心血管イベントの発生率を減少させました。
6.1.1.1炭水化物
患者の糖尿病における低炭水化物食の役割は不明のままです。 1376人を含む10のRCTに基づく最近のメタ分析では、低炭水化物および高炭水化物食のグルコース低下効果は1年以降で同様であり、体重またはLDLコレステロールに有意な影響を及ぼさないことが示されています。
6.1.1.2脂質
糖尿病の人にとって理想的な食事性脂質量は議論の余地があります。糖尿病患者を含むいくつかのRCTは、多価不飽和脂肪酸および一価不飽和脂肪酸が豊富な地中海スタイルの食事パターンが血糖コントロールと血中脂質の両方を改善できることを報告しています。オメガ3脂肪酸のサプリメントは、糖尿病患者の血糖コントロールを改善することは示されておらず、RCTは心血管疾患の一次または二次予防のためのオメガ3サプリメントの推奨を支持していません。REDUCE-IT(持続的な中性脂肪の上昇、および確立された心血管疾患または糖尿病、および少なくとも1つの他の心血管疾患リスク因子のある患者に高用量のオメガ3脂肪酸(4g /日)を使用する試験)では、主要な有害心血管イベント(MACE)の主要エンドポイントの有意な減少が示されました。糖尿病患者は、飽和脂肪酸、食事性コレステロール、トランス脂肪の推奨摂取量について、一般集団のガイドラインに従う必要があります。一般に、トランス脂肪は避けるべきです。
6.1.1.3タンパク質
タンパク質を減らすことを推奨されている腎疾患がある場合を除き、糖尿病患者では毎日のタンパク質摂取量を調整する必要はありません。
6.1.1.4野菜、マメ科植物、果物、全粒穀物
野菜、マメ科植物、果物、全粒穀物は健康的な食事の一部であるべきです。
6.1.1.5アルコール消費
最近のメタ分析では、低レベルのアルコール(≦100g/週)が心筋梗塞のリスクの低下と関連している一方で、アルコール消費の低下が高血圧や脳卒中、心不全など他の心血管アウトカムのリスクの低下との関連を止める明確なしきい値はないことが示されました。中等度のアルコール摂取は、心血管疾患から保護する手段として促進されるべきではありません。
6.1.1.6コーヒーと紅茶
フィンランドの糖尿病患者では、1日4杯以上のコーヒーを消費すると心血管疾患のリスクが低下しますが、挽いたコーヒーを沸騰させて抽出したコーヒーは例外で、コレステロール値が上昇します。 18件の観察研究のメタ分析では、コーヒーまたは紅茶の摂取量を増やすとの糖尿病リスクが低下するようでした。
6.1.1.7ビタミンと多量栄養素
糖尿病患者の糖尿病または心血管疾患のリスクを減らすためのビタミンまたは微量栄養素のサプリメントは推奨されません。

いつものように地中海食推しです。一番の問題は「6.1.1.1炭水化物」の部分でしょう。この内容のもとになったのは一つのメタアナリシスです。しかもその中身は糖質制限とはかけ離れています。(その論文はここ)この論文の結論は「低~中程度の炭水化物の食事は高炭水化物の食事と比較して、介入の最初の年の2型糖尿病の血糖コントロールに大きな影響を与えます。炭水化物の制限が大きいほど、血糖値の低下が大きくなります。短期間のHbA1cの低下は別として、血糖コントロール、体重、またはLDLコレステロールに関して低炭水化物食の優位性はありません。」となっています。つまり低炭水化物で一時的に血糖値が下がり、HbA1cも低下するが、1年後では通常の食事と違いがないというのです。

しかし、この論文が分析した研究の糖質(炭水化物)割合は、12か月後まで行われたものを見てみると、糖質制限群対コントロール群で、33%対50%、27%対47%、45%対47%、35%対50~55%、42%対48%、40%対43%、39%対52%です。どこが低糖質でしょうか?最低でも27%であり、コントロール群と数%しか違いがないものまであります。このような研究をいくら集めてメタアナリシスを行っても、糖質制限が有益かどうかの結論は出ませんし、何の役にも立たない分析です。この論文を採用して、このガイドラインは糖質制限に否定的に書いているのです。酷いです。

また、脂質の箇所でもいまだに飽和脂肪酸の扱いが悪者扱いですね。

以前の「アメリカ糖尿病学会が出した歴史的なコンセンサスレポート 糖質制限を推進!」で書いたように、アメリカの糖尿病学会は非常に大きく糖質制限推奨に舵を切りました。しかし、ヨーロッパは続きませんでした。非常に残念です。いろいろな力関係でしょうか?地中海食推しは仕方がないかもしれませんが、もう少し、糖質制限食について、きちんと基準を持って分析してもらいたいですね。

糖質制限が日本で認められるのもまだ先なのかもしれません。

「2019 ESC Guidelines on diabetes, pre-diabetes, and cardiovascular diseases developed in collaboration with the EASD: The Task Force for diabetes, pre-diabetes, and cardiovascular diseases of the European Society of Cardiology (ESC) and the European Association for the Study of Diabetes (EASD)」

「EASDと共同で開発された糖尿病、前糖尿病、心血管疾患に関する2019 ESCガイドライン:ヨーロッパ心臓病学会(ESC)およびヨーロッパ糖尿病学会(EASD)の糖尿病、前糖尿病、心血管疾患のタスクフォース」(原文はここ

4 thoughts on “ヨーロッパ心臓病学会とヨーロッパ糖尿病学会が共同で出した糖尿病、前糖尿病、および心血管疾患に関する2019 ガイドラインが酷い

  1. 糖質量27%ならプチ糖質制限(130g/日)より少し多いくらいでしょうか。
    その程度の糖質制限でも最初の1年くらいは効果があると言う事ですが、それまでどれくらい食べてたかの影響が大きいと思います。
    そしてコントロール群はカロリー制限でしょうか?これらを同列で比較する事は出来ないと思います。カロリーを制限すれば同じパーセンテージでも糖質量は減っていますし、絶対量で比較しないと全く分からないのではないでしょうか。

    1. 西村 典彦さん、コメントありがとうございます。

      仰る通り、コントロール群と言っても、低脂肪食、多くはカロリー制限などいろいろですし、
      しかも酷いものでは1日の目標炭水化物量が30g以下のデザインなのに、
      実際の摂取量は自己申告で160g以上だったものまであるのです。
      全く栄養というものを知らない人が行った研究を、さらに全く栄養学を知らない別の研究者がまとめて分析した研究を、
      恣意的にガイドラインに使ったのでしょう。意味のないものです。

  2. シミズ先生
    いつも拝見させて頂いております。
    糖質制限を行っていく上で毎回ご参考にさせて頂きております。

    一点、シミズ先生のお考えをご教授頂きたくご配慮頂ければ幸いです。
    昨今の糖質制限の話題の中で「グライセミック・インデックス(Glycemic Index)」いわゆる「GI値」に関しましての話題を目にする機会が増えています。
    同じ糖質量であっても血糖値の上がり方に差がありGI値を基に食品選択を行う必要性があるとの事です。
    (EX.うどんと蕎麦、糖質量は蕎麦が少ないがGI値は蕎麦の方が低い)
    果たして正論か否か難しい内容とは思いますが何卒宜しくお願い申し上げます。

    1. ぱぱろ~さん、コメントありがとうございます。

      GI値はほとんど当てになりません。記事にさせていただきますので、読んでみてください。

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