BCGワクチンと新型コロナウイルス 再び

これまでに、BCGワクチンが新型コロナウイルスの重症化に効果があるのではないかという記事をいくつか書いてきました。ノーベル賞の山中伸弥先生もホームページの中で、BCGについて書いています。(ここ参照)

「BCG接種をしている国は、新型コロナウイルスの感染者数や死亡者数が少ない
(傾向はみられますが、BCG接種が新型コロナウイルスの感染に影響するという科学的な証拠は今のところありません)」

山中先生が言うように、確かに今のところ科学的根拠と呼べるものはありません。日本ワクチン学会も声明を発表しています。(ここ参照)

・「新型コロナウイルスによる感染症に対して BCG ワクチンが有効ではないか」という仮説は、いまだその真偽が科学的に確認されたものではなく、現時点では否定も肯定も、もちろん推奨もされない。
・ BCG ワクチン接種の効能・効果は「結核予防」であり、新型コロナウイルス感染症の発症および重症化の予防を目的とはしていない。また、主たる対象は乳幼児であり、高齢者への接種に関わる知見は十分とは言えない。
・ 本来の適応と対象に合致しない接種が増大する結果、定期接種としての乳児へのBCG ワクチンの安定供給が影響を受ける事態は避けなければならない。

まっとうな声明です。私も新型コロナウイルス感染の重症化予防にBCGワクチンを射ちに行きましょう、と推奨しているわけではありません。

そんな中新しい論文がネットに載りました。まだプレプリントであることに注意が必要です。新型コロナウイルスよるBCGワクチン接種と有病率および死亡率との関連性を検討しました。日本では2020年4月7日にやっと緊急事態宣言を出したところですが、それまでの自粛要請は諸外国よりもかなり緩いものでした。それにもかかわらず、100万人あたりの死亡数に関して、日本は3月28日現在、199の国と地域の69位にランクされています。(4月8日では32位です。)

また、西ヨーロッパと東ヨーロッパの国々の間で新型コロナウイルスの有病率と死亡率にはかなり大きな差があるようです。温度、湿度、平均余命、平均所得、社会規範、民族的遺伝的背景など、地理的、社会的、および生物学的な要因が数多くあり、国によってそのようなばらつきがあることで説明される可能性があります。

しかし、BCGワクチン接種による小児の死亡率に与えるリスク低下の研究では、死亡率のリスクはほぼ半減しています。結核だけの予防とは思えません。死亡率に対するBCGワクチンの非特異的有益効果があると考えられます。

今回の研究では交絡因子の可能性のある要因のうち、平均寿命と国の平均気温の2つの要因を評価しました。潜在的な交絡の影響を除外するために、2020年2月と3月の国の平均余命と平均気温(°C)がすべてのモデルの制御変数として追加されました。実際、感染率と死亡率は、対象の年齢と気候条件(温度が高いほどウイルスの伝染性が低いかもしれない?)の影響を受けた可能性があります。(図は原文より)

 

上の図は、温度または平均寿命と新型コロナの相関関係です。グループA(赤)は現在BCGを接種している国。グループB(緑)は以前にBCGを接種していたが、現在はそうではない国。グループC(青)は国としてこれまでワクチンを投与したことがない国です。図のaは温度ごとの人口100万人あたりの総陽性者数の散布図です。それぞれの色の点は国を表しています。温度は、人口100万人あたりの感染者の割合との相関は微妙です。
図のbは温度による人口100万人あたりの総死亡数の散布図です。温度は死亡率と有意な相関は全くありません。
図cは平均寿命ごとの100万人あたりの総陽性者数の散布図です。平均寿命は、人口100万人あたりの感染率と有意に相関しています。

図dは平均寿命ごとの人口100万人あたりの総死亡数の散布図です。平均寿命は、人口100万人あたりの死亡率とも有意に相関しています。

つまり、平均寿命が高い国ほど感染率も死亡率も高くなると考えられます。しかし、平均寿命と死亡率の図の78歳以上の部分を見て見ると、明らかに赤い点のグループAの死亡率が低い方の集まっているように見えます。

上の図は、BCGワクチン接種が新型コロナに及ぼす影響を表しています。
図aは、平均寿命が78歳を超える国で、BCGグループによって分類された100万人あたりの総陽性者数の図です。グループBとCは、グループAと比較して新型コロナの感染率が有意に高いことを示しています。
図bは、平均寿命が78歳を超える国で、BCGグループによって分類された、人口100万人あたりの総死亡数の図です。グループBとCは、グループAと比較して、新型コロナによる死亡率が有意に高くなっています。

上の図はBCGワクチン接種方針と新型コロナウイルスの感染拡大率です。
図aは、70カ国における陽性者の拡大率を示しています。 小さなそれぞれのグラフのA、B、またはCはBCGグループを示し、l、m、hは低、中、高の感染拡大率を示します。 「?」 情報が不明です。アスタリスク(*)が付いている国の平均寿命は78年未満です。当然日本は「Al」に分類されています。
図bは、68か国においてBCGワクチン接種グループと拡大率を表にしています。

図cは、平均余命が78歳未満の国を除外して、40か国のBCGワクチン接種グループと拡大率を表にしています。

どちらにしても、BとCのグループではAと比較して感染拡大率が高いところが多いことがわかります。

今回の研究ではBCGワクチンの保護効果は、あるとしても、死亡率の低下ではなく、ウイルスの蔓延の大幅な減少からなる可能性があると仮定しています。感染者が少なくなれば自ずと死亡者も減少します。しかし、私は重症化を低下させているのではないかと思っています。(勝手な仮説です。)

現在、平均寿命の高い国は経済的に裕福な先進国が中心です。医療レベルも世界的に高いでしょう。しかし、今回の研究ではその平均寿命が高い国の方が死亡率が高いという結果でした。その中でも、BCGワクチン接種国は死亡率が低くなっています。

平均寿命を78歳以下の国を除外するとアフリカなどの国はほとんど除外されるはずです。新型コロナウイルスのPCR検査が行われず、新型コロナの感染を十分に検出できていないから、感染者や死亡者が少ないという説明は成り立たないと思われます。実際に、人口100万人当たりのPCR検査数で、日本はものすごく少ない(437件)ですが、アメリカは6,239件です。ロシアはそれよりちょっと少ないだけの5,448件ですがロシアと比べてアメリカの死者数は約220倍です。シンガポールは11,110件、韓国は9,310件でアメリカの検査率の2倍前後ですが、アメリカよりも死亡者数は圧倒的に少ないです。PCR検査数では説明できないと思います。

もちろん、BCG以外の様々な要因が絡んでいるのは確かです。これだけの根拠で因果関係などは言えません。

日本は検査の陽性者は非常に増加傾向ですが、いまだに1日の死亡者数が10人を超えたことがありません。PCR検査は少ないですが、本当に現在までのところ重症化数は少ないのです。今しばらくの新型コロナウイルスの感染者や死亡者の推移を見てみないとなりませんが、BCGワクチンが日本人を守ってくれてたらいいなと思います。

 

「Association of BCG vaccination policy with prevalence and mortality of COVID-19」

「BCGワクチン接種方針とCOVID-19の有病率および死亡率との関連」(原文はここ

8 thoughts on “BCGワクチンと新型コロナウイルス 再び

  1. BCG接種も、今回のような事がなければこれほど注目を浴びることも無かったのではないでしょうか?
    また、マスクに関しても不織布使い捨てはもちろん、布、手作り 等百花繚乱、マスク文化が花開いています。

    1. 鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。

      世の中、本当に何がきっかけで、何に脚光が当たるかわかりませんね。

    1. お!さん、情報ありがとうございます。

      「活動性または潜伏性結核はCOVID-19に対する感受性および疾患の重症度を増加させる」ということと、BCGワクチンでは恐らく意味が違いうのではないかと思います。
      日本はそこまで結核が多いわけでもありませんし、イベルメクチンの使用量も多くはないと思います。
      「新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が集中した中国、イラン、イタリアでは、この多剤耐性結核菌が多い地域です。」と主張されていますが、
      実際には中国は人口当たりでは新型コロナは少ないですし、イタリアは多剤耐性は多いのかもしれませんが、結核自体少ないです。
      中国とイタリアを同列で論ずるのは難しいでしょう。
      示された地図では多剤耐性の多いベラルーシですが、新型コロナウイルスに関し「ウオッカを飲めば消毒できる」とベラルーシ大統領が言っているくらいで、
      いまだにベラルーシは死者ゼロです。
      この先生の話の内容は私には理解できません。まあ、いずれも仮説ですから。

  2. テレビでは「現在のニューヨークが3週間後の東京かも知れない」などと言っている人がいますが、どう見てもそのように思えません。最初の感染者の発生から随分経つのに、死亡者数はまだ2桁です。東京の感染者の増加を見ても、実際の感染者数はかなりの数だと思われますので、日本での重症化の割合は相当低いと考えるのが妥当だと思います。
    とすれば、手洗いとかマスクではなく、別の要因があって死亡者数が少なくなっていると考えるのが当然だと思いますが、専門家と呼ばれる先生方からはそのような意見を聞くことがありませんね。とても不思議です。

    1. あきにゃんさん、コメントありがとうございます。

      首相「感染拡大が続けば、感染者は1カ月後8万人超えも」と安倍首相は言っていましたね。「接触機会7~8割減で2週間後減少に」とも言っていました。
      しかし小池都知事が出した東京都の休業要請内容は国と見解が大きく違い、すり合わせが難航していると思います。
      東京都案が厳しすぎるとしたら、どうやって人と人との接触を8割減らすことができるのでしょうか?
      これでは緊急事態宣言を出す意味が良くわかりません。

      私もあきにゃんさんと同じ意見で、「現在のニューヨークが3週間後の東京かも知れない」とは思えませんし、このままでも8万人の陽性者が出るとも思っていません。
      実際の感染者は8万人どころではないでしょうけど。以前よりは増加していますが、東京都でさえ大爆発しそうにありません。
      4月7日には日本では最大の数のPCR検査が7,800以上(空港を入れると9,000以上)行われましたので、明日の陽性者の数を注目してみたいと思います。

  3. 私もBCGワクチンが日本人を守ってくれていたら本当にいいなと思います。
    ただ、優先的に検査してもらえるからなのでしょうか、帰国者感染発症のニュースが目立つのが気になっています。

    多民族国家のアメリカや発表の数字にバイアスがかかっている中国など、それぞれ条件の異なる国家間を同列で比較するのは難しいと言わざるを得ないと思います。
    私はやはり先日清水先生がご説明下さったドイツに注目しています。
    ベルリンの壁が崩壊してもう30年にはなりますが、東西ドイツにおけるBCGの株の違いによる効果が証明できれば、それが突破口になるような気もします。

    1. まーさんさん、コメントありがとうございます。

      欧米からの帰国者が今回の第2波のウイルスをもたらしていると考えられます。当然検査を積極的にするでしょうね。
      空港での検疫が全く機能していなかったことと、隔離が本人任せですから、当然でしょう。
      中国は過少申告しているといわれていますが、現在は感染爆発している国の多くは死者数を正確に把握できていないと思います。
      欧米各国は中国のことを責められないでしょう。(意図的に隠しているかどうか、というのはありますが)
      それぞれの国は病院での死亡者だけをカウントしていると思います。多くの人が自宅や施設で亡くなっているでしょう。
      それにしても、海外在住の日本人がなくなったという話は聞こえてきませんが、実際はどうなのでしょう?

      ドイツはベルリンの状態を見てみると旧東ドイツ側の方が死者数が少ないようです。非常に興味深いです。

      北海道も第2波が始まりました。今度の波の方が断然大きいと思います。

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