糖質摂取によりインスリンが分泌されることは、ご存じだと思います。そしてタンパク質摂取でもインスリンが分泌されることもご存じだと思います。インスリンの作用には様々なものがありますが、1つは末梢組織へのグルコース(ブドウ糖)の取り込みです。そして、血糖値が上昇していない場合には、通常脂肪が分解されエネルギーとなりますが、インスリンが分泌されると脂肪分解も抑制されます。またインスリンで肝臓での糖新生も抑制されます。
ではどの程度のインスリン分泌量でその作用が起こるのでしょうか?
今回の研究では、効果が50%となるインスリン濃度を分析しています。図の単位は日本のものではないので、日本の単位にする場合は1pmol/L=0.14µU/mLで計算してください。(図は原文より)
上の図は左から空腹時インスリン値、脂肪分解阻害、組織へのグルコース取り込みまたは糖新生阻害のEC50値(50%効果濃度:作用が最大値の半分の効果を示すときの濃度)です。
50%脂肪分解を阻害するのに必要なインスリンは空腹時と比較しても増加量はかなり少なく、非肥満の非糖尿病の人の空腹時インスリンの平均値が46pmol/L(6.44µU/mL)だったのに対して、脂肪分解阻害のEC50は42~120pmol/L(平均78pmol/L=10.92µU/mL)でした。つまりたった僅か4µU/mL程度インスリンが分泌されるだけで、脂肪分解は半分になるのです。逆に考えると、空腹時インスリン値がちょっと高ければ、1日中脂肪分解は低下していることになります。
インスリン濃度を50から63pmol/L(7.0から8.82µU/mL)に増加させると、脂肪分解によるグリセロールの放出がすでに約20%に抑制されたという研究もあります。(この論文参照)
もちろん、インスリン抵抗性が増加すると空腹時インスリンは増加し、同様にそれがそのまま100%脂肪分解阻害になるかどうかはわかりません。
そして、インスリンによるグルコース取り込みの刺激には、脂肪分解を阻害するために必要なインスリン濃度よりもはるかに高い濃度が必要です。
末梢組織のグルコース取り込みの刺激のEC50に必要な平均インスリン濃度は、平均=454pmol/L(63.6µU/mL)でした。グルコース取り込みの最大値の半分の刺激を得るにはには、脂肪分解のEC50に必要なインスリンよりも約6倍高いインスリン濃度が必要でした。
さらに、肝臓での糖新生の抑制のEC50は平均170pmol/L(23.8µU/mL)のインスリン濃度が必要でした。肝臓の糖新生を50%抑制するには、脂肪分解のEC50に必要なインスリンよりも約2倍高いインスリン濃度が必要だということになります。
つまり、インスリンの様々な作用のうち、脂肪分解阻害が最も敏感な反応だということです。以前の記事「タンパク質摂取と、インスリンとグルカゴンの分泌」で示したように、健康な人がタンパク質50gを摂取しただけでもインスリンは約10µU/mL上昇するかもしれません。また、「高タンパク質摂取による有害性は? その1」に示したように、糖尿病の人ではタンパク質50gを摂取すると30µU/mL程度上昇するかもしれません。当然健康的な人と同じに考えてしまえば、糖新生も低下してしまいます。恐らく、糖尿病の場合はインスリン抵抗性もあり、インスリンに対する糖新生阻害作用に対するインスリン濃度が異なっているのであろうと思われます。
しかし、健康でも糖病病でもタンパク質を大量に摂取すれば、脂肪分解は低下する程度のインスリン分泌が増加すると思われます。そこにわずかな糖質が含まれるとさらにインスリン分泌量が増加すると思われます。
インスリン抵抗性が高いと糖質制限をしても、最初のうちはなかなか痩せないかもしれません。インスリン抵抗性が低下してくると、痩せやすくなるのでしょう。インスリン抵抗性が高い間はタンパク質の頻回に多めの摂取も痩せにくい原因かもしれませんね。また、痩せたいのであれば、間食はやめるか、間食の食べ物の質をちゃんと考えた方が良さそうです。
糖質過剰症候群
「Insulin translates unfavourable lifestyle into obesity」
「インスリンは好ましくないライフスタイルを肥満に変える」(原文はここ)