糖質制限ではLDLコレステロールが上昇することが珍しくありません。(「みなさんの血液検査データ2020 集計 その3 LDLコレステロール」参照)
でもなんででしょうか?
糖質制限ではLDLコレステロール上昇以外に、大きなLDLの増加、中性脂肪低下などの特徴があります。糖質制限では脂肪をエネルギーにするため、コレステロールや中性脂肪の材料になるアセチルCoAは大量に存在しているはずです。しかし、インスリン分泌が非常に少ないので中性脂肪産生は少なく、コレステロールの方がたくさん作られると推測されます。
さて、肝臓は中性脂肪とコレステロールを体の他の臓器や組織に届けるために、通常VLDLを分泌し、それが中性脂肪を配った後に、LDLに代謝されて、今度はコレステロールを配ると考えられています。
糖質過剰摂取ではVLDLが大きくなり、糖質制限ではVLDLは小さくなります。大型のVLDLはVLDL1と呼ばれ中性脂肪が非常に豊富です。そしてVLDL1から小さな危険なsdLDLが作られます。糖質過剰摂取でインスリン抵抗性だと、VLDLから中性脂肪が取り除かれる速度が低下し、中性脂肪値が高くなります。糖質制限での小型VLDLはVLDL2と呼ばれます。糖質制限では中性脂肪が少ないのでVLDLは小型で十分なのでしょう。そして、非常に異化も早くなるでしょう。
そうすると、糖質制限でLDLが増加する理由は、2つ考えられるのではないかと思います。一つは大量のVLDL2が作られ、それが急速にLDLに代謝されてしまうということです。糖質制限では肝臓で作られる中性脂肪も少なく、コレステロールは多いと考えられるので、他の臓器にエネルギーの中性脂肪を届けるにはどんどん、VLDLを作り出して、分泌させなければならないと思われます。そして、分泌されてすぐにLDLへと変換されるので、自ずとLDLが増加すると考えられます。
もう一つの理由は、糖質制限をすると中性脂肪が非常に少ないため、VLDLではなく、大きめのLDLを作れば十分なのかもしれません。つまり、最初から肝臓がVLDLではなく、LDLを分泌していると考えられるのです。
実は、通常でもLDLはVLDLから作られるだけでなく、直接LDLとして分泌されています。正常中性脂肪の人で、LDLとして直接分泌されるのは27.2%、高中性脂肪の人では17.7%という報告があります。(図は原文より)
上の図は、///の部分が直接肝臓で産生されて分泌されたLDLを示しています。上が正常な中性脂肪値の人、下が高中性脂肪値の人です。///の部分は正常中性脂肪の方が多いことがわかります。
通常の正常中性脂肪の人よりも、糖質制限ではさらに中性脂肪値が低値なので、さらに多くのLDLが肝臓で直接合成されて分泌されても不思議ではありません。
つまり、糖質制限ではVLDLを産生するよりも大きいLDLを直接大量に産生しているのかもしれません。
「Rapid turnover of apolipoprotein C-III-containing triglyceride-rich lipoproteins contributing to the formation of LDL subfractions」
「LDLサブフラクションの形成に寄与するアポリポタンパク質C-III含有トリグリセリドリッチリポタンパク質の急速なターンオーバー」(原文はここ)