自分の血糖値を知るのに、自己血糖測定器を使っている人もいると思います。一番多く使われる測定部位は手の指先でしょう。しかし、指先は神経が敏感で非常に痛みを伴います。ホムンクルスというのを聞いたことがあるかもしれませんが、感覚を司っている脳の部位は、手は非常に小さな部位なのに、非常に大きな領域を使っているのです。(図はWikipediaより)
でも、なんで指先などの特定の部位でないとダメなんでしょう。腕なんて刺しやすいですし、痛みにもそこまで敏感ではありません。
腕(前腕)と指先とで血糖値はどう違うのでしょう。(図は原文より)
上の図は普段インスリン投与を受けている糖尿病患者(1型と2型)に対して経口ブドウ糖負荷(恐ろしい…)の後インスリン注射をしたときの血糖値の変動を表したものです。6人の血糖値を示していますが、○は指先、●は前腕、△は検査室での値です。ベースラインでの差はほとんどありませんが、グルコース摂取後30〜90分で、前腕と指先の間の血糖値に最大で4.7mmol/L(84.6mg/dL)の差がありました。前腕の方が低く出ています。その後インスリン注射の後の血糖値の推移では、逆に指先の方が低くなりました。インスリン投与の15〜75分後に最大で5.4mmol/L(97.2mg/dL)の差がありました。血糖値の増減の変動は30分前後のタイムラグが発生していました。(余談ですが、血糖値が300を超えてしまっていますが、このような研究が倫理的に大丈夫なのでしょうか?)
つまり、血糖値の変動がほとんどない定常状態(食前など)では恐らくどこの部位で測定しても、差はほとんどないと思われますが、血糖値が増減する急激な変動を伴う場合には指先や掌の方が望ましいようです。
上の図は前腕の穿刺の前に穿刺部位をこすった後、穿刺したものです。そうすると先ほどよりも指先との血糖値の差が減少しました。しかし、これには個人差や同一人物でも状況によりばらつきがあるでしょう。ですから、やはり指先などが望ましいでしょう。
こすって差が減るということは、そこには血流が関係していると思われます。指と前腕では5~20倍も血流が違うようです。どうやらそこには有毛の皮膚と無毛の皮膚の違いがあるようです。糖尿病では指先や掌のような無毛の皮膚の方が血流の変化が健康な人と大きく違いがないのですが、有毛の皮膚では血流変化が糖尿病で大きく低下するようです。(図はここより)
上の図は温めたり、腕も下に下げたときの手の背側の血流変化を示しています。黒い線が健康なコントロール、グレーの線が糖尿病の人です。温めたときの変化も腕を下げたときの変化も、糖尿病では大きく低下しているのがわかります。有毛の皮膚に特徴的な神経による血管拡張のメカニズムが糖尿病では損なわれているのでしょう。糖尿病では上肢でも下肢でも微小血管容量や血流は健康な人よりも大きく低下しています。(ここ参照)
血糖値がほとんど変動しない、落ち着いた状態では腕であろうが太ももであろうが、お腹であろうが、血糖値は大きな違いはないだろうと思います。しかし、一番知りたい食後の変動した血糖値を測定する部位はやはり、指先や掌で測定した方が良いでしょう。そうしないと血糖の変動を過小評価してしまう可能性があります。
手が冷たい場合は念のためあらかじめ手をすり合わせて血流を良くして測定した方がより良いかもしれません。もちろん、指にグルコースが付いていないようによく手を洗ってから測定しましょう。
「Glucose Monitoring at the Arm Risky delays of hypoglycemia and hyperglycemia detection」
「腕でのグルコースモニタリング 低血糖および高血糖検出の危険な遅れ」(原文はここ)