塩分制限に関してコメントを頂きました。ありがとうございました。
WHOは一日の塩分摂取量5グラム以下と規定していますね。この5グラム以下と言うのは、明らかに塩分制限と言っても過言ではないと思います。
なぜWHOは、こんな数字を出してきたんでしょうか?私には理解できません。つまり5グラムであるべき根拠が発表されていません。(そのデータを探し当てることができません)
清水先生は、WHOの5グラム根拠をどんなふうにお考えでしょうか?
もしご存知ならば教えてください。
WHOは1日5gという極端な塩分制限を推奨しています。(「Guideline:Sodium intake for adults and children」参照)しかし、この5gの食塩(ナトリウムでは約2g)達成は至難の業です。それにしてもこの5gという数値はどこから来たのか?はっきりしません。(私の探し方が悪いのかもしれませんが)かなり古い研究なのかもしれません。
しかし、WHOの「Diet, nutrition and the prevention of chronic diseases」という、レポートに、
現在の証拠では、1日あたり70ミリモルまたは1.7 g以下のナトリウムの摂取が血圧の低下に有益であることを示唆しています。ナトリウムの削減によって悪影響を受ける可能性のある個人(つまり、妊娠中の女性や暑い環境で激しい身体活動を行う非慣れている人々)の特別な状況に留意する必要があります。これらの目標を達成するための食事性ナトリウム摂取量の制限は、食塩(塩化ナトリウム)摂取量を1日あたり5 g未満に制限することによって達成する必要があります。これは、例えばグルタミン酸ナトリウムや防腐剤などの添加物など、すべての食事源からのナトリウムの総摂取量を考慮に入れるべきです。
と書かれています。他の記述では、
低ナトリウム食の試験の結果は、24時間ナトリウム排泄レベルが約70ミリモルの低ナトリウム食が効果的で安全であることを示しています。
と書かれています。では、この70ミリモルの低ナトリウム食の試験とはどんなものでしょうか?参照文献を見てみましょう。ちなみに1ミリモル=23mgですので、70ミリモル=約1.6gです。この論文ではDASH食という食事と、通常の食事のグループに分け、ナトリウム量を3つ量に分けました。DASH食については省略します。ナトリウム1gは食塩で2.54gです。(図はこの論文より)
「Effects on blood pressure of reduced dietary sodium and the Dietary Approaches to Stop Hypertension (DASH) diet. DASH-Sodium Collaborative Research Group」
「減量した食事のナトリウムの血圧への影響と高血圧を止めるための食事療法(DASH)食。DASH-ナトリウム共同研究グループ」(原文はここ)
上の図は尿中の排泄量で、一番上がナトリウム(Sodium)です。高ナトリウム食が1日3.3g程度、中ナトリウム食が1日2.5g程度、低ナトリウム食が1日1.5g程度です。結果は次のようです。
上が収縮期血圧、下が拡張期血圧です。グラフの左から高ナトリウム、中ナトリウム、低ナトリウムとなっています。高ナトリウム食から低ナトリウム食まで血圧が低下しているのがわかります。ただ、2gのナトリウムの根拠はよくわかりません。中ナトリウム食と低ナトリウム食の間をとって、2gとしたのでしょうか?
WHOのガイドライン「Guideline:Sodium intake for adults and children」では、次のように書かれています。
エビデンスの最終的な検討という項目の一部を見てみましょう。
ベースライン時の血圧の状態別に研究をグループ化して分析すると、
・正常血圧の人ではナトリウム摂取量を減らすと収縮期血圧が1.38mmHg低下する(6の研究のメタアナリシス)
・高血圧の人ではナトリウム摂取量を減らすと収縮期血圧が4.06mmHg低下する(24の研究のメタアナリシス)
・高血圧の有無にかかわらず混合集団ではナトリウム摂取量を減らすと収縮期血圧が3.41mmHg低下する(8の研究のメタアナリシス)
2つのRCTのメタアナリシスは、心血管疾患、脳卒中、冠動脈性心臓病のリスクに対するナトリウムの減少の影響に関して決定的ではなかったが、コホート研究の系統的レビューとメタアナリシスは、ナトリウム摂取量と脳卒中との間に直接的な関連があることを発見した。
これらの結果は、ナトリウムと脳卒中および心血管疾患の両方のリスクとの間の有意な直接的な関連を発見した、現在のレビューが更新した以前のレビューおよびメタ分析と一致している。(この論文。後で少し考察します。)
心血管疾患と冠動脈性心臓病に関する新しい系統的レビューとメタ分析の結果から、ナトリウムとこれらの結果の間に有意な正の関係は見られなかった。それにもかかわらず、ナトリウム摂取量の減少が心血管疾患または冠動脈性心臓病のリスクに悪影響を与えることはなかった。
ナトリウムの減少が腎機能に及ぼす悪影響の兆候はなく、結果は有益な効果を示唆するものでさえあった。
最後に、安静時の収縮期血圧(3.39mmHg)と拡張期血圧(1.54mmHg)の適度な低下は、重要な公衆衛生上の利点がある。血圧の上昇は死亡率の主要な危険因子であり、全世界の死亡のほぼ13%を占めている。アメリカでは、人口の拡張期血圧が2mmHg低下すると、高血圧の有病率が17%、冠動脈性心臓病のリスクが6%、脳卒中のリスクが15%減少すると推定さる。また、毎年推定67,000件の冠動脈性心臓病イベントと34,000件の脳卒中イベントを防ぐことができる。イギリスでは、収縮期血圧が5mmHg低下すると、高血圧の有病率が50%減少する可能性があると推定している。さらに、血圧と血管死亡のリスクとの関係は、収縮期血圧115mmHgまで下げると、正で、強く、線形である。したがって、血圧のほぼすべての低下は健康に有益であり、人口全体での適度な血圧の低下は、死亡率の大幅な低下、実質的な健康上の利益、および医療費の有意な節約につながる。
…と言っています。
では、先ほどの「ナトリウムと脳卒中および心血管疾患の両方のリスクとの間の有意な直接的な関連」を示す論文の中身をのぞいてみましょう。
調査 | 年齢(年) | 人数 | ナトリウム摂取量の評価 |
---|---|---|---|
1985、米国(ハワイ) | 45〜68歳 | 7895 | 24時間の食事リコール |
1992、台湾 | ≥36 | 8562 | 世帯調査アンケート |
1995、米国 | 52; 54 | 1900; 1037 | 24時間蓄尿 |
1997、スコットランド | 40〜59 | 5754; 5875 | 24時間蓄尿 |
1999、米国 | 25〜74 | 3686; 5799; 6797; 2688 | 24時間の食事リコール |
2001、フィンランド | 25〜64 | 1173; 1263 | 24時間蓄尿 |
2004、日本 | ≥35 | 13355; 15724 | 食事アンケート |
2006年、米国 | 30〜74 | 7154 | 24時間の食事リコール |
2007、オランダ | ≥55 | 1448 | 食事アンケートと一晩の尿ナトリウム |
2007、米国 | 30〜54 | 542; 1873 | 24時間蓄尿 |
2008、フィンランド | 50〜69 | 26,556 | 食事アンケート |
2008、日本 | 40〜79 | 23119; 35611 | 食事アンケート |
2008、米国 | ≥30 | 8699 | 24時間の食事リコール |
13の研究のうち、8の研究で、データが質の悪い自己申告、アンケートに頼っていることがわかります。これで本当にナトリウム摂取量が明確にわかるのでしょうか?他のメタアナリシスも恐らく同様で、もともとの研究のデータの質が非常に不正確である可能性が高いものを、いくら寄せ集めても結果は不正確でしょう。
結局は、WHOはナトリウムと心血管疾患との関係ははっきりしていないけれど、ナトリウム摂取量を減らすことによる悪影響もないし、いくつかの研究では食事アンケートに頼る質が悪い研究でも関連を認めているし、高血圧と心血管疾患との関連はあると思われるので、ちょっとでも血圧を下げることが重要だと思い込むことにしたようです。
WHOという、良くも悪くも世界中に影響を与える機関が出すガイドラインのもとになる研究がこのようなレベルです。大して気にする必要なないでしょう。
コクランの2つのレビューでも、塩分制限と心血管疾患予防効果のエビデンスは確認されていません。(これとこれ)しかもその一つは、塩分制限により、うっ血性心不全のある人の全死因のリスクが増加した(相対リスク2.59)と報告しています。
恐らく食塩の摂取量を減らせば、いくらか少しは血圧が低下するかもしれません。血圧の上昇は心血管疾患のリスクを上げるかもしれません。しかし、血圧が2~3上がったからと言って、塩分摂取量の増加が心血管疾患や全原因死亡を増加させるかどうかはわかりません。尿中のナトリウムの排泄量での研究ではJ字型のカーブを描いています。以前の記事「塩分制限は健康的?」のグラフを見ると、高血圧の人のナトリウム排泄量2g(2,000mg)と10g(10,000mg)の死亡や主な心血管イベントの発生リスクはほとんど同じです。つまり塩分は少なすぎることも有害であるということです。
また、塩分摂取量の1日5gという設定も、何か変です。1日量が重要なのでしょうか?1食の量の方が断然影響が大きいはずです。人間のメカニズムは摂取したナトリウムを何時間もかからないとベースラインにもって行けないのでしょうか?
そして、一番の問題は、すべての塩分の研究では、私が最も影響の大きいと考える糖質摂取量が全く無視されている点です。例えばジャンクフードや外食を食べる人は、当然塩分摂取も多くなる可能性が高くなります。そして同時に糖質摂取量も増加します。つまり、糖質過剰摂取が前提で、塩分摂取量を規定していますが、糖質過剰摂取は血圧を上げますし、心血管疾患のリスクも増加させます。塩分だけで議論することに非常に違和感を感じます。裏で何かの力が働いているのでしょう。
WHOが正しいかどうか、ご自身で判断してください。私は今日も気にせず塩分摂取しています。
糖質制限 糖質過剰症候群
「Salt intake, stroke, and cardiovascular disease: meta-analysis of prospective studies」
「塩分摂取、脳卒中、心血管疾患:前向き研究のメタ分析」(原文はここ)