マグネシウムの血中濃度は非常に安定していますが、それによって貯蔵量が十分にある証拠にはなりません。マグネシウムのほとんどは血中に存在しないからです。約60%が骨、40%が筋肉や他の組織に、血中には0.3%ほどしか存在しません。
同じことが様々な物質でも言えるかもしれません。
例えばビタミンD。肥満では血中のビタミンDが低下していると言われています。(ここ参照)しかし、本当に体内のビタミンDは少ないのでしょうか?
今回の研究では、肥満の人と正常体重(コントロール)の人の全身のビタミンD貯蔵量を比較しています。特に今回の研究では脂肪中のビタミンDに注目しています。肥満の人では肥満手術のときに、正常体重の人では良性の婦人科疾患での腹腔鏡手術のときに脂肪(皮下脂肪と大網(お腹の中の垂れ下がった膜)の脂肪を採取されました。(図は原文より、表は原文より改変)
肥満 | コントロール | p値 | |
---|---|---|---|
脂肪部位別ビタミンD(ng / g) | |||
皮下脂肪ビタミンD2 | 14.9±5.2 | 2.2±7.1 | 0.16 |
皮下脂肪ビタミンD3 | 19.6±6.3 | 23.5±8.5 | 0.88 |
皮下脂肪総ビタミンD | 34.2±9.1 | 25.7±12.3 | 0.63 |
大網ビタミンD2 | 22.8±8.6 | 3.7±11.6 | 0.44 |
大網ビタミンD3 | 28.0±8.4 | 26.3±11.4 | 0.72 |
大網総ビタミンD | 50.6±13.1 | 29.7±17.6 | 0.37 |
血清25(OH)D(ng / mL) | |||
25OHD2 | 5.1±1.1 | 2.6±0.8 | 0.08 |
25OHD3 | 21.8±1.8 | 23.4±2.4 | 0.54 |
25OHD合計 | 26.9±1.6 | 25.9±2.2 | 0.71 |
全身のビタミンD貯蔵量(mg) | |||
ビタミンD2 | 0.99±0.4 | 0.04±0.50 | 0.001 |
ビタミンD3 | 1.31±0.31 | 0.40±0.42 | 0.01 |
ビタミンD合計 | 2.29±0.55 | 0.44±0.76 | 0.002 |
ビタミンD2とD3は、大網と皮下の両方の部位での脂肪で分析されました。すべての人では、両方の部位で測定可能な濃度のビタミンD3を持っていました。一方、皮下脂肪ビタミンD2は、肥満の10%(2/21)およびコントロールの42%(5/12)では検出できませんでした。大網ビタミンD2は、肥満の14%(3/21)およびコントロールの27%(4/15)で検出できませんでした。
上の図は、皮下と大網の脂肪のビタミンDの分布です。それぞれのグラフの左側が肥満、右側がコントロールです。黒いバーが皮下脂肪、白いバーが大網脂肪です。全身のビタミンD貯蔵量は、コントロールと比較して肥満で有意に大きくなりました。総ビタミンD濃度は、肥満とコントロールの両方の皮下脂肪と比較して、大網脂肪で数値的に高かくなりました。ただし、その総ビタミンDとビタミンD3の違いは、肥満グループでのみ統計的に有意で、大網脂肪中のビタミンD2高値は、肥満群とコントロールの両方で認められました。
この違いは季節による違いはなかったそうです。
つまり、ビタミンDは皮下脂肪よりも内臓の大網脂肪に大量に蓄えられており、全身の貯蔵量は肥満の方が多いということになります。そして、血中のビタミンDよりも脂肪に貯蔵されるビタミンDの方が圧倒的に多いことになります。
そうすると、ビタミンD摂取量が同じ場合、脂肪に蓄積されてしまう分、脂肪量が多い方が結果的に血中濃度が低くなるのかもしれません。高インスリン血症やインスリン抵抗性がビタミンDを脂肪に押し込めて隔離してしまうのかもしれません。詳細は知りません。
しかし、せっかく溜め込んだビタミンDを肥満の人では自由に使うことができないのでしょうか?よくわかりません。
では、脂肪量に見合ったビタミンD摂取が必要なのでしょうか?そうかもしれません。しかし、糖質制限で脂肪量、特に内臓脂肪を大きく減少させれば、過剰なビタミンD摂取は必要ないのかもしれません。
「Vitamin D Storage in Adipose Tissue of Obese and Normal Weight Women」
「肥満および正常体重の女性の脂肪組織におけるビタミンDの貯蔵」(原文はここ)