「老化」という便利な言葉

外来の診療を行っているときに、私の患者さんはほとんどがどこかの病院、どこかの科をすでに受診した状態でいらっしゃいます。その患者さんに話を聞くと、その症状の原因について「老化」だと説明された、ということが少なくありません。

「老化」という言葉は医師にとって非常に便利です。わからない症状、治療が上手くいかない症状を「老化」と説明すれば良いのですから。「老化」に投与する薬はありませんから。

患者側としては、「老化」だから治らなくても仕方がない、「老化」だから諦めなさい、「老化」だから特に治療法はない、など抗えない運命のように感じてしまいます。

もちろん、人間はいつか死ぬので、何らかの加齢性変化は起こります。90歳の人に「老化」という言葉を使うことは問題ありませんが、50代や60代で「老化」という言葉を使うことは私は違和感を感じます。

加齢や疾患により筋肉量が減少して、全身の筋力低下および身体機能の低下が起こるサルコペニアは最終的には避けられないかもしれません。

しかし、そこに至るスピードは遅くすることが可能だと考えます。

今回の研究では、70〜79歳の1,840人の高齢者を対象に、2型糖尿病があるかどうかで、3年後筋力がどうなっているかを調べています。(表は原文より改変)

ベースライン糖尿病なし36ヶ月後変化ベースライン糖尿病あり36ヶ月後変化P
膝伸筋
最大トルク(Nm)109.1±0.796.8±0.7-12.4±0.5111.3±1.594.8±1.5-16.5±1.20.001
脚の除脂肪量(kg)7.52±0.037.29±0.03−0.23±0.017.96±0.077.66±0.07−0.29±0.030.035
単位筋肉量あたりの筋力(Nm / kg)14.4±0.113.2±0.1−1.2±0.114.0±0.212.4±0.2−1.6±0.20.034
握力
最大筋力(kg)32.6±0.231.3±0.2−1.3±0.132.1±0.430.8±0.4−1.3±0.30.964
腕の除脂肪量(kg)2.75±0.012.70±0.01−0.06±0.012.92±0.032.83±0.03−0.08±0.010.025
単位筋肉量あたりの筋力(kg / kg)12.0±0.111.8±0.1−0.2±0.111.2±0.111.0±0.1−0.2±0.10.757

上の表は糖尿病がある人とない人の36か月後の筋力や筋肉量の変化を示しています。膝の伸筋と腕の筋肉量はどちらも糖尿病有りの人の方が低下が大きくなりました。握力の違いはありませんが、下肢の膝の筋力は糖尿病のある人の方が大きく低下していました。

このような筋肉に与える影響の最も大きな原因は恐らくAGEs(終末糖化産物)でしょう。

他の研究では、AGEsによる筋力の違いを分析しています。日本人の健康な比較的若い男性(平均46歳)の皮膚のAGEs蓄積量と握力や脚伸展力の比較を行っています。その結果は、想像通り、AGEsが多いほど筋力が低下していました。

AGEsは様々な老化、機能障害に関連していると考えられます。糖化を起こさないようにするためには血糖値を上げないことです。糖質制限を行うことで、糖化は最小限に抑えられると思います。

何らかの症状で「老化」という言葉を聞いたら、注意が必要でしょう。本当に「老化」なのか、それとも「糖化」なのか。

糖質過剰症候群

「Accelerated loss of skeletal muscle strength in older adults with type 2 diabetes: the health, aging, and body composition study」

「2型糖尿病の高齢者における骨格筋強度の加速された喪失:健康、老化、および体組成の研究」(原文はここ

2 thoughts on “「老化」という便利な言葉

  1. 主治医に「老化」で片付けられてしまう反動でしょうか。
    「アンチエイジング」という言葉も流行っています。
    ただ、サプリやらなにやらの摂取、一日○○品目食べよう、朝ご飯必須、一日三食、
    勿論生活習慣病に処方される薬には事欠きませんし、
    とにかく「足し算」の健康法が多いと感じます。

    対して、糖質を摂らないというシンプルな「引き算」の方法が効果的な気がします。

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