先日の記事「高血糖が逆流性食道炎をもたらすメカニズム」に対してコメントをいただきました。
脂質がコレシストキニンというホルモンを出して噴門が開くという医者が多いです。僕もPPIを処方されて「脂っぽいものは食べないでください。」と言われます。
コレシストキニンというホルモンは十二指腸から分泌される消化管ホルモンで、胆汁や膵液を分泌促進させます。それと当時に摂食抑制の作用もあると考えられています。
さて、このコレシストキニンは確かに下部食道括約筋を弛緩させる働きがあるとされています。では、脂質摂取で胃食道逆流症はどうなるのでしょうか?
ある研究では、次のようでした。(ここ参照)
合計12,349人、中央値18.5年間追跡されたデータですが、食事のアンケートなので脂質の摂取量は正確ではありません。胃食道逆流での入院について分析しています。入院の累積発生率は20年で5.2%でした。
BMIが5増加すると、胃食道逆流症での入院のリスクは22%増加しました。しかし、脂質の摂取量の増加と逆流症による入院との間に関係は見られませんでした。
また、別の研究では高脂肪食と低脂肪食とで比較したものがあります。(ここ参照)
12人の健康なボランティアを対象として、下部食道括約筋圧を測定しています。エネルギー量は同じとして、10%脂肪、14%タンパク質、76%炭水化物の低脂肪食(しかし高糖質!)、50%脂肪、18%タンパク質、32%炭水化物の高脂肪食とでどうなるのかを調べています。
平均下部食道括約筋圧は、低脂肪食後の中央値10.7mmHg、高脂肪食後の中央値11.1mmHgでした。一過性の下部食道括約筋弛緩の頻度は1時間に9回と8回、3時間の逆流エピソードの回数は12回と11回でした。つまり、低脂肪食と高脂肪食で違いは認められなかったのです。もちろん、糖質量もタンパク質量も同じにして比較すべきなのかもしれません。
通常脂質(それ以外の栄養素も同様ですが)だけを単独で摂取することはありません。なので、評価は非常に難しいでしょう。
糖質に関してはどうでしょうか?
以前の記事「逆流性食道炎と大量の糖質摂取」では、驚くほどの糖質量、高炭水化物(178.8 g)対低炭水化物(84.8 g)での胃食道逆流の比較をしています。もちろん、高炭水化物群の方が逆流が多かったのですが、何とも言えない研究です。基本的には糖質はコレシストキニンの分泌をそれほど刺激しません。そうすると、胃食道逆流症とコレシストキニン分泌の関連はどれほどなのか?と思います。
また別の以前の記事「糖質制限と逆流性食道炎の改善」では、1日の糖質量を100g程度にすると、3週目にはかなりの人が改善し、10週目までに全員が症状の改善を示して、薬が中止できたという研究についてを書きました。ティースプーン1杯(4.2g)の糖質が増えるごとに胃食道逆流症の確率が13%増加していました。
それに、逆流することはある程度どのような食事でも起きていると思います。しかしそれが病的な意味があるような場合が問題になると思います。
もちろん研究のデザインの問題もありますが、糖質制限では恐らく確実に胃食道逆流症は減少します。しかし、脂質制限でははっきりとしていません。タンパク質に関しては研究すらされていないのでは?
胃食道逆流自体は赤ちゃんでも小さな子供でも起きています。母乳を飲んだ後の赤ちゃんにゲップをさせるくらいですから。(懐かしい…)
コレシストキニン分泌や下部食道括約筋の弛緩だけで胃食道逆流症を説明するのは難しく、しかし、糖質制限で逆流症が大きく改善するのは確かだと思います。糖質過剰摂取には他のメカニズムがあると思われます。(それは次回以降に)
ただ、糖質過剰摂取と逆流症の歴史が長く、食道に器質的で不可逆的な変化が起きてしまうとあまり改善しないのかもしれません。
何でも食べすぎれば、逆流する感じはします。便秘気味の場合も上から出そうな感覚になります。脂肪さんは悪者の歴史が長くてかわいそうですね。
鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。
食べ過ぎは逆流を起こしても不思議ではないですが、私は食べ過ぎても糖質制限後は逆流のような自覚症状はありません。
自覚症状がないだけかもしれませんが。
>しかし、脂質制限でははっきりとしていません。
糖質制限食(スーパー)にすると必然的に脂質が増えます。にも拘わらず、逆流性食道炎は皆無になりました。
脂質制限で逆流性食道炎が減少するかどうかわかりませんが、少なくとも逆流性食道炎だった頃より多くの脂質を摂取しても改善している経験から、脂質とは関係ないように感じています。
逆流はレシストキニンの影響だけで起こるのではなく、単なる食べすぎでも起こるでしょう。例として適切かどうかわかりませんが、アルコールの飲みすぎで逆流する(吐く)と、嘔吐物のほとんどは炭水化物です。炭水化物は胃に長く滞留するのでしょう。
消化の悪いものをたくさん食べて胃の中に滞留する時間が長いので確率的に逆流が多くなるとも考えられないでしょうか。胃が空っぽなら逆流はしないでしょう。
>BMIが5増加すると、胃食道逆流症での入院のリスクは22%増加
肥満によって起こるのであれば、レシストキニンとは関係なく、単に食べすぎが原因のような気がします。
以上は、素人の経験からの考察ですから、全く的外れかもしれません。
西村 典彦さん、コメントありがとうございます。
アルコールも下部食道括約筋を弛緩させます。コーヒーも弛緩させるようです。
胃が空っぽなら逆流はしないかもしれませんが、高血糖は胃腸の動きを低下させるので、停滞時間が長くなり、その分逆流が増加するのでしょう。
肥満=食べ過ぎではないでしょう。肥満は食後高血糖、腹圧の上昇、腸内細菌などが関連していると思います。
1863年に『Letter on corpulence』を出版したウィリアム・バンティングは「食べ物に含まれる脂肪はあなたの敵ではない。好きなだけ食べなさい」と断言しています。彼は炭水化物を制限する食事法で、1年間で50ポンドの減量に成功し、その後も体重を維持したまま天寿を全うしました。
1958年に『Eat Fat and Grow Slim』を出版したリチャード・マッカーネスも「肉、魚、脂肪は食べたいだけ食べてよい」と断言しています。
1967年に『Leben ohne Brot』(『パンの無い暮らし』)を出版したオーストリアの医師、ヴォルフガング・ルッツ(Wolfgang Lutz)も、「脂肪はほとんどの慢性疾患とは何の関係も無い」と断言しており、炭水化物を制限するよう述べています(ルッツは炭水化物の一日の摂取量を「72gまで」と定めていました)。
アンセル・キーズと「砂糖脂肪論争」を繰り広げたジョン・ユドキンは「肥満や心臓病を惹き起こすのは砂糖であり、脂肪は病気とは何の関係も無い」と断言しています。
トルストイの小説『アンナ・カレーニナ』では、ウロンスキー伯爵が「体重の増加を防ぐために牛肉のステーキを食べ、デンプン質が多いものや甘く味付けされた料理を避けた」との記述があります。19世紀後半のロシアにおいて、この食事法はごく一般的であったということでしょう。
先人たちはちゃんと分かっていました。「食べ物に含まれる脂肪分は体に害を与えない」と。
脂肪を「悪者」と思い込んでいる人は、「炭水化物こそが身体に悪さを働く」ことに気付いておらず、先人たちの言葉も知らないだけでしょうね。
クリードンさん、コメントありがとうございます。
様々な先人が糖質についての有害性を示していたのですね。情報ありがとうございます。
糖質制限も歴史が長いんですね(逆に糖質過剰摂取の歴史は浅く、現代人はある意味、過剰摂取による人体実験途上なのかもしれませんね)。
昨年末にこの記事に関連する経験をしてしまいました。
それは、家にあった古い餅米を捨てるとの家人の言葉から始まります。
「もったいない」精神が動き出し、まずドブロク造りから始まり(四回の仕込み)、次いで甘酒を作ってみました。想像以上の甘みにビックリしました。そして、最後のトドメは知人から頂いた手打ち蕎麦です。その後、冷凍してもそれなりに美味しいことは分かりましたが、その時は折角の好意を無駄にしてはいけないと、大量にしかも早食いをしてしまい、次第に胸焼けに悩まされました。正に不可逆的な状態になっていました。原因はハッキリしています。
その後、食事に気をつけ、ゆくっり、そして少なめに食べ、今はほぼ戻りました。甘酒を初めて作ってみて思ったのは、米は糖そのものということです。ロカボ生活を始めて米はほとんど食べないですが、勿論、蕎麦も米のジュースも注意と言うことを見に染みて経験した2020年の冬の出来事です。
Kazuさん、コメントありがとうございます。
貴重な経験談非常に参考になります。
しかし、もったいない精神は体に有害なことであれば、まわりまわってそれを無理に摂取することの方がもったいない状態になってしまいます。
せっかく糖質制限で体調が良くなったのに、「もったいない」ですね。