ボディビルダーとケトン食

糖質制限では筋肉が減少すると誤解している人もいまだにいるでしょう。糖質制限の中でもケトン食は非常に炭水化物の低い食事です。筋肉が減少しては困るボディビルダーがケトン食を行ったらどうなるでしょうか?

今回の研究では19人の男性ボディビルダー(27.42±10.54歳、BMI26.80±1.91、除脂肪体重88.62±2.81%)を対象として、8週間行われました。ケトン食と通常食の2つのグループに分かれ、食事療法の順守とケトーシスは、携帯機器を介して毎週監視され、ケトン体値は0.5mmol/Lを順守しました。(図は原文より、表は原文より改変)

ケトン食通常食
総エネルギー摂取量(kcal /日)3443.70±545.943529.71±374.06
タンパク質(kcal)863.89±154.19890.40±117.30
炭水化物(kcal)175.00±28.171952.50±209.43
脂質(kcal)2379.81±393.78707.10±63.66
タンパク質(g)215.97±38.55222.60±29.33
炭水化物(g)43.75±7.04488.13±52.36
脂質(g)264.42±43.7578.57±7.07
タンパク質(%)24.65±1.2425.03±0.91
炭水化物(%)5.00±0.0055.00±0.00
脂質 (%)68.00±2.2719.97±0.91
上の表は食事の主要栄養素の割合です。ケトン食では総エネルギー摂取量のたった5%の炭水化物です。そして脂質は68%、264gにもなります。摂取エネルギー量やタンパク質は両方の食事で同等です。ちなみにタンパク質は2.5g/kgです。

上の図はAが体重、Bは脂肪量、Cは除脂肪量です。

体重は有意な変化ではありませんでしたが、ケトン食で約1%減少(86.39±15.42kgから85.51±13.62kg)、通常食で約2%の体重増加(89.04±11.73kgから90.37±9.91kg)でした。

脂肪量はケトン食でのみ有意に減少しました(ケトン食:9.86±3.79kgから8.42±2.41kg、通常食:10.60±3.92kgから9.70±2.53kg)。一方、除脂肪量は通常食でのみ有意に増加しました(ケトン食:76.53±12.13kgから77.09±11.47kg、通常食:78.44±8.31kgから80.67±7.72kg)。

脂肪量の割合は両方のグループで起こりましたがケトン食のみ有意差がありました(ケトン食:-11.32±7.88%、通常食:-6.70±10.02%)。ケトン食では除脂肪体重の有意な増加を認めました(ケトン食:+ 1.63±1.49%、通常食:+ 1.20±1.62%)。

ケトン食通常食
ベンチプレス1RM(kg)129.78±20.98134.44±17.14136.40±11.27141.40±10.24
スクワット1RM(kg)181.33±36.52187.78±37.41176.10±27.87187.00±26.96
基礎代謝(REE)(Kcal /日)2014.67±324.042052.56±317.992069.10±229.322125.20±206.08
呼吸交換比(RER)0.82±0.010.79±0.020.83±0.010.83±0.02
上の図は筋力や代謝の変化です。ケトン食はベンチプレスとスクワットでのパフォーマンスを4.13%と3.62%改善しました。一方、通常食はそれぞれ3.75%と6.40%向上しました。グループ間の有意差はありませんでした。基礎代謝は通常食のみ増加しました(ケトン食:+1.99±3.04%、通常食+2.85±1.78% )。
ケトン食通常食
総コレステロール(mg/dL)194.78±8.88187.89±10.15193.90±18.18190.60±16.73
HDL(mg/dL)57.22±3.3360.00±3.3352.50±6.1151.80±5.05
LDL(mg/dL)113.33±8.88108.00±10.28118.60±20.64116.20±18.39
中性脂肪(mg/dL)121.00±26.7099.22±19.72114.70±13.21112.70±13.06
AST(mg/dL)38.78±2.8238.44±2.5439.10±3.6739.30±4.11
ALT(mg/dL)43.11±6.5138.56±3.3042.10±6.5944.80±5.92
テストステロン合計(nmol/L)21.76±5.3319.32±4.0920.96±5.1321.27±4.91
IGF-1(ng/mL)213.33±39.41181.50±25.93222.40±34.27219.80±23.42
総コレステロールはケトン食で有意に減少し(ケトン食:-3.51±3.72%、通常食:-1.59±3.51%)、HDLはケトン食で増加しました(ケトン食:4.93±3.53%、通常食:-1.07±4.46%)。中性脂肪はケトン食で減少しました(ケトン食:-17.44±7.16%、通常食:-1.59±5.50%)。

肝機能のALTはケトン食でのみ有意に減少ました。

テストステロンやIGF-1などの同化ホルモンはケトン食で減少しました(総テストステロン ケトン食:-10.22±6.9​​5%、通常食:-2.01±5.45%   IGF-1 ケトン食:-16.43±8.52、通常食 -0.18±9.48%)。同化ホルモンが減少しているのですが、筋肉は維持されています。

上の図はAが血糖値、Bがインスリン値です。どちらもケトン食のみ減少しました。血糖値はケトン食では98.67±6.68 mg / dLから92.22±4.76mg / dLに減少し、通常食では101.20±3.12mg / dLから99.30±4.76 mg / dLでした。インスリンは、ケトン食では2.40±1.81 µU / mLから1.81±0.31µU / mLに減少し、通常食では2.42±0.39 µU / mLから2.34± 0.33µU / mLでした。
上の図は炎症マーカーです。IL-6では、ケトン食では13.35%減少し、通常食では6.52%増加しました。TNF-αは通常食ではほとんど変化しませんでしたが、ケトン食では有意に減少しました(5.12±0.61 pg / mLから4.69±0.38pg / mL)。
CはBDNF(脳由来神経栄養因子)濃度で、ケトン食でのみ有意に増加しました(+ 25.84±11.01%)(ケトン食:108.00±15.68 pg / mL 、通常食:88.60±10.62 pg / mL)。
確かに除脂肪量の変化を筋肉の変化と考えると、ケトン食では0.56g、通常食では2.23kg増加であり、通常食の方が筋肉の肥大が大きくなる可能性があります。しかし、もしかしたらこれは筋肉に含まれるグリコーゲン、水分量などの違いにすぎないのかもしれません。そして、ケトン食を8週間続けても決して筋肉量が減少することはないということです。
また筋力のパフォーマンスもケトン食と通常食では差がありません。
一方、血糖値やインスリン値や中性脂肪、HDLなどでは差があり、ケトン食の方がより健康に有益であると考えられます。
さらに、炎症マーカーを見ると、ケトン食でIL-6もTNF-αも減少していますが、通常食ではIL-6が増加しており、ケトン食は抗炎症性ですが、通常食では炎症がやや増加しているのかもしれません。激しいトレーニングは炎症を増加させ、酸化ストレスも増加させて、結果的には筋肉やその他の組織にも悪影響を及ぼす可能性があります。
さらに、ほぼ同等のエネルギー摂取量(いわゆるカロリー摂取量)で同じようなエネルギー消費量にもかかわらず、一方では体重は減少傾向であり、一方は増加傾向です。体重がエネルギー(カロリー)摂取量と消費量では決定しないことがわかりますね。
糖質制限
「Effects of Two Months of Very Low Carbohydrate Ketogenic Diet on Body Composition, Muscle Strength, Muscle Area, and Blood Parameters in Competitive Natural Body Builders」
「競技のナチュラルボディビルダーの体組成、筋力、筋肉面積、および血液パラメーターに対する2か月の超低炭水化物ケトン食の影響」(原文はここ

コメント

  1. 鈴木 武彦 より:

    ボディービル界では糖質摂取必須が多勢となっているようで解せません。                             ただ、男性ホルモンなどのドーピングも普通に行われているようなので、実質的な筋力や健康と、ボディービルの競技力とは関係ないのかもしれないですね。    

    • Dr.Shimizu より:

      鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。

      エリートアスリートと同様にボディビルでも、健康は度外視して結果を求めるのも、
      それはそれとして良いと思います。本人の自由ですから。もちろんアスリートのドーピングは別ですが。

  2. 西村 典彦 より:

    >筋肉に含まれるグリコーゲン、水分量などの違いにすぎない

    経験上、私もそう思います。

    例えば、2泊3日でスキーに行って帰ってくると徐脂肪体重が

    43.0→44.4kg(糖質58~280g/日、体重53.9→55.4kg)

    のように3日間で1.4kgも増えています。
    しかし、その後7日間で

    44.4kg→43.1kg(糖質44~49g/日、体重55.4→54.5kg)

    と数日間でほぼ、元に戻っています。

    そんなに短期間に筋繊維が増えたり減ったりするとは思えません。
    スキー期間中はかなりの糖質を摂っていますから筋グリコーゲンとグリコーゲンに結合している水分の量の変化と考えた方が自然だと思います。

    >体重がエネルギー(カロリー)摂取量と消費量では決定しない

    これについては、私の記録(2年以上)から言えることは、一定の条件下では相関すると言えるが、その条件を外れると相関しないように見えると言う事です。
    一定の条件とは、BMI22前後で安定している時に糖質制限食の場合は相関しますが、BMI21以下になると相関がみられなくなりました。
    非常に狭い範囲での相関です。一般的には相関しないと言った方が正しいように思います。あくまでも私の記録上であり、個人差は分かりません。

    • Dr.Shimizu より:

      西村 典彦さん、コメントありがとうございます。

      糖質を大きく減らしたり増やしたりすることによる体重の増減は、最初は恐らくグリコーゲン、水分量の変化でしょう。
      エネルギーに関しては、摂取量=吸収量でもありませんし、尿や便に出るものはカウントしないでしょうし、
      消費量は食事によって変化することを無視しています。
      エネルギー保存の法則はあるでしょうけど、人間のすべての代謝、活動などを厳密に測定できるわけでもありません。
      また、自分の毎日変化するエネルギー消費量がわからないのに、摂取量をコントロールしようがないですしね。
      エネルギーの概算や推測ばかりでは無意味でしょう。

  3. かみ より:

    以前自転車レース前に糖質を摂取することでの運動能力の変化について質問させていただいた者です。
    あれから私自身脚の故障もあり、あまり参考とできる実験?結果もありません。
    ただ、今回の記事にありますように、糖質制限が運動能力を下げる事はないと言うことを再確認できました。と言いますのも、運動系の雑誌や、ネット記事には相変わらず、筋力アップや運動能力向上には炭水化物も必要!と書かれております。私も50歳を超えて、そう簡単に運動能力の向上が見られないのは分かっていますが、やはり少し
    もしかして炭水化物を食べれば?という心のゆらぎも出てきます。自転車選手は特に炭水化物至上主義的な人が多いのも原因かも知れませんが。
    取り止めのない話になりましたが、今回の記事に大変勇気づけられました。ありがとうございました。

    • Dr.Shimizu より:

      かみさん、コメントありがとうございます。

      少なくとも筋肉量、筋力が糖質制限で落ちるというのはウソだと思います。