一般的にはオメガ3は抗炎症性、オメガ6は炎症性の脂肪酸と言われています。また、オメガ6は血液が固まり易くなるとも言われています。しかし、本当でしょうか?現代の食事は確かにオメガ6が非常に多い食事です。そして、糖質制限をすると脂質からエネルギーを得るために、脂質摂取量が増加し、自ずとオメガ6の量も増加します。肉や卵もオメガ6が豊富です。(卵1個でアラキドン酸は約90mg)
アラキドン酸(ARA)の摂取量の増加に関するいくつかのランダム化比較試験を分析したものを見てみましょう。日本人の通常のアラキドン酸の摂取量は150~200mg/日程度だと思います。
24人の健康な日本人男性に1日838mgを4週間与えたグループと、プラセボグループでは血液の凝集、凝固パラメーター、血圧等に変化は認められませんでした。(ここ参照)
イタリアの肝硬変患者を対象としたランダム化二重盲検試験において、1日2gという大量のアラキドン酸を8週間与えられると、血小板凝集は有意に増加しました。
しかし、1日1~1.7gのいくつかの研究では血小板凝集または凝固系パラメーターにほとんど影響は与えないようです。つまり、余程の大量摂取をしなければ血液が固まり易くなることはなさそうです。
次に炎症に関連して、日本人の研究を見てみましょう。アラキドン酸強化オイル(1日あたり240または720 mg)またはプラセボを55〜70歳の日本人の健康な男性と女性に4週間投与したものです。(図はここより)
アラキドン酸が高用量であっても、心血管疾患、炎症性およびアレルギー性疾患に関連する血液パラメーターに変化はありませんでした。
他の研究を見ても、1日アラキドン酸1.5g程度の摂取量の増加は、免疫機能または炎症のマーカーに対する影響をほとんどまたはまったく示さないことを示唆しています。
もちろん、アラキドン酸の投与がサプリメントによるものであったり、投与期間が数週間の研究がほとんどなので、毎日の積み重ねが長期にどのように働くかは、これらの研究では不明です。
以前の記事「オメガ6は本当に悪者か?」で書いたように、オメガ6のリノール酸の摂取量を増やしてもアラキドン酸が増加するわけではありませんし、アラキドン酸の増加量は摂取量は多くなるとプラトーになります。
また、「アラキドン酸とインスリン抵抗性」で書いたように、アラキドン酸の増加はインスリン抵抗性を低下させる可能性があります。
さらに「アラキドン酸は本当に炎症を促進するのか?」で書いたように、糖質制限をすると、(もちろん個人個人の食事内容にもよりますが)アラキドン酸の割合は増加し、オメガ6/オメガ3の比も増加、つまりオメガ6が増加し、アラキドン酸/EPA比も増加します。血中の中性脂肪の脂肪酸のオメガ6/オメガ3比およびアラキドン酸/EPAの比は、平均してほぼ2倍です。
しかし、糖質制限では急性期反応性のCRP、VEGF、P-セレクチン、EGF、V-CAMの有意な減少をもたらし、TNF-α、IL-8、MCP-1、E-セレクチン、I-CAMの有意に大きな減少が認められ、大きな抗炎症効果を認めました。さらに糖質制限では抗線溶効果のあるPAI-1が大きく減少しています。つまり、血栓ができにくくなるということです。
糖質制限をした場合、一般的な炎症誘発性の認識とは異なり、アラキドン酸の増加、およびオメガ6/オメガ3比とアラキドン酸/EPAの比の増加は予想外に抗炎症性を示しているのです。
そうすると、オメガ6、アラキドン酸が直接炎症性を示すのではなく、糖質過剰摂取という状態においては、炎症性を示す可能性が高くなると思われます。
もちろん積極的にオメガ6を摂りましょうと言っているわけではありません。しかし、糖質制限をしている場合には、オメガ6について気にしなくても良いでしょう。
糖質過剰症候群
「A systematic review of the effects of increasing arachidonic acid intake on PUFA status, metabolism and health-related outcomes in humans」
「アラキドン酸摂取量の増加がPUFAの状態、代謝、およびヒトの健康関連の結果に及ぼす影響の系統的レビュー」(原文はここ)