糖尿病のない人の空腹時血糖とHbA1c

健康診断の基準値に対するコメントをいただきました。

健康診断の基準値は
血糖値が70~109mg/dl
HbA1cが4.6%~6.2%
となっています。
素朴な疑問なのですが、血管に優しいという観点からすれば、
この基準の範囲の中では下限に近い方が良いのでしょうか?
それとも、人それぞれの体質があり、人によっては上限の方が良いのでしょうか?
先生はどう考えてますか?

HbA1cは検査前の2~3か月の平均の血糖値なので、HbA1cが同じでも血糖値の増減が大きいときと小さいときがあります。糖質過剰摂取では食後血糖値が非常に上昇しても、その後大きく低下すれば、そこまで高いHbA1cとはなりません。糖質制限では振れ幅は非常に少ないのですが、平均なので、糖質制限前とそれほど変化しない場合もあります。

空腹時血糖値に関しては、以前の記事「空腹時血糖のわずかな違い  糖尿病への軌跡」「ほんのわずかな空腹時血糖の増加でさえ、脳はアルツハイマー様のパターンの反応になる」「空腹時血糖値とアテローム性動脈硬化症の発症リスク」などに書いたように、上限に近い値は良くないと思います。糖質制限をしていない場合に100を超えたら、すぐにでも糖質制限を始めるべきだと思います。

糖尿病ではない人の空腹時血糖やHbA1cに関して、血管への影響はどうなのでしょうか?スペインの研究で、対象は40~54歳の3,973人で、心血管疾患の病歴がなく、HbA1c が非糖尿病の範囲の人です。無症候性の動脈硬化の評価として、プラークの有無などにより、全くなし、限局性 (1部位)、中程度 (2~3部位)、または全身性アテローム性動脈硬化 (4~6部位) として分類されました。検査した6つの血管領域は右頸動脈、左頸動脈、腹部大動脈、右腸骨大腿動脈、左腸骨大腿動脈、冠動脈です。ただし、参加者は糖質制限をしている人ではありません。(図は原文より)

上の図のAはHbA1cの分布です。BはHbA1cとそれぞれの血管の無症候性動脈硬化の存在割合です。左上が頸動脈、右上が腹部大動脈、左下が腸骨と大腿動脈、右下が冠動脈です。見ての通り、HbA1cの増加と共に、それぞれの血管の無症候性動脈硬化の存在の割合が増加しています。思ったよりもHbA1c低値でも動脈硬化があるようですね。

上の図はHbA1cと無症候性動脈硬化の割合です。色が薄い順に、動脈硬化なし、限局性、中程度、全身性です。HbA1cが6を超えると全身性の割合が33%にもなります。逆に4.8以下でも4.9%に全身性の動脈硬化がありますね。

 

上の図はAがプラークの数、Bはプラークのある領域の数、Cは冠動脈石灰化スコア、Dは多領域動脈硬化の範囲です。どれもHbA1cの増加と共に高くなっています。

上の図のAは空腹時血糖の分布です。Bは空腹時血糖と無症候性動脈硬化の割合です。Cは空腹時血糖とそれぞれの血管の無症候性動脈硬化の存在割合です。左上が頸動脈、右上が腹部大動脈、左下が腸骨と大腿動脈、右下が冠動脈です。HbA1cと同様に空腹時血糖の増加と共に、それぞれの血管の無症候性動脈硬化の存在の割合が増加しています。100を超えると動脈硬化がない人はの割合は4分の1だけであり、20%以上は全身の動脈硬化ありです。

まあ、ちょっとHbA1cや空腹時血糖値が非常に低値の人の中に無症候性動脈硬化の存在の割合が多すぎるような印象がありますが。また無症候性のプラークがすべて悪さをするわけではありません。さらに糖質制限ではどうなるかはわかりません。

糖質制限をしていない場合、空腹時血糖値が100~109mg/dL、HbA1cが5.6以上では、将来糖尿病を発症するリスクが高いと言われているようです。

健康診断の基準値、血糖値が70~109mg/dl、HbA1cが4.6%~6.2%に収まっていても上限ギリギリでは着実に糖尿病への道を歩むと思います。所詮健康診断なんて健康かどうかなんてわからない検査ですから。健康診断の基準値を超えてしまった場合にはすでにかなり糖尿病が進行していると考えた方が良いでしょう。でも、基準値を超えたばかりであれば、すぐに糖質制限を始めれば、2~3か月後には恐らく血糖値もHbA1cも正常に戻ると思います。

糖質過剰症候群

「Glycated Hemoglobin and Subclinical Atherosclerosis in People Without Diabetes」

「糖尿病のない人の糖化ヘモグロビンと無症性アテローム性動脈硬化症」(原文はここ

One thought on “糖尿病のない人の空腹時血糖とHbA1c

  1. 糖質制限してない人データとのことですが、HbA1cや空腹時血糖の値が低くても何らかの要因で無症候性動脈硬化というものになる人もいるのですね。                     糖質制限していないことで、血糖値の変動は大きいでしょうから、その辺が大きな原因なのでしょうか。

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