前回の「その6」に続き、今回はその7です。(記事はこれです。)今回は糖質制限の副作用についてです。
記事には次のように書かれています。
「糖質制限ダイエットは、低脂質ダイエットと比べて副作用も多い食事法です。やはり不溶性の食物繊維の摂取量が減るので、約7割の人が便秘になりますし、6割の人が頭痛を経験すると報告されています。」
糖質制限では「不溶性の食物繊維の摂取量が減る」と断定していますが、そもそも不溶性食物繊維は茶色い炭水化物だけに含まれるものではありません。野菜にも豊富に存在しています。糖質制限の中でもほとんどが肉中心の人もいますので、その場合は不溶性食物繊維は少なくなります。しかしだからと言ってみなさんが便秘にはなっていないでしょう。またすでに便秘の人が不溶性食物繊維をたくさん摂ったら逆効果です。
まずは、この記事で示された論文を見てみましょう。
食事組成は、参加者のサブサンプル (低炭水化物食グループから 13 人、低脂肪食グループから 7 人) から各訪問時に収集された食事記録に基づいて測定されました。よって参加者がウソをついている可能性もあります。まあ、それは置いておいて、低炭水化物食グループでは29.5gの炭水化物 (1 日のエネルギー摂取量の8%)、97.9gのタンパク質 (1 日のエネルギー摂取量の26%)、110.6gの脂肪 (1 日のエネルギー摂取量の68%)でした。低脂肪食グループは、197.6gの炭水化物 (1 日のエネルギー摂取量の52%)、70.5gのタンパク質 (1 日のエネルギー摂取量の19%)、48.9gの脂肪 (1 日のエネルギー摂取量の29%) でした。1 日の推定エネルギー摂取量は、低炭水化物食グループで6.14MJ (1461.0kcal)、低脂肪食グループで6.31MJ (1502.0kcal) でした。つまり、低脂肪食グループでは500~1000kcal少ない量のエネルギー摂取を勧められましたが、低炭水化物食グループではそうではなかったのに、結果的には糖質制限+カロリー制限状態になっていました。
低炭水化物食グループに割り当てられていた参加者 59 人のうち 45 人 (76%) と、低脂肪食グループに割り当てられた参加者 60 人のうち 34 人 (57%) が研究を完了しました。24 週間で体重の平均変化量は、低炭水化物食グループでー12.0 kg、低脂肪食グループではー6.5 kgでした。
24週間で脂肪量の平均変化量は、低炭水化物食グループでー9.4kg、低脂肪食グループでー4.8kgでした。総減量に占める脂肪量の割合は、低炭水化物食グループで78%、低脂肪食グループで74%です。総体水分量の変化は、両方のグループの除脂肪量の変化のほとんどを占めており、総水分の平均変化量は低炭水化物食グループでー2.4kg、低脂肪食グループでー1.8 kg でした。ただし、低炭水化物食グループは、研究の最初の2週間で、低脂肪食グループ(-0.5 kg)よりも大量の水分(-1.1kg)を失っていました。低炭水化物食グループでは毎日グラス 6~8 杯の水を飲むように勧められていましたが、やはり初期の水分喪失量は大きいようです。
そして問題の有害な影響についてです。
便秘 (68% 対 35%)、頭痛 (60% 対 40% ) 、口臭 (38% 対 8%)、筋肉のけいれん (35% 対 7%)、下痢 (23% 対 7%)、全身の脱力感 (25%対 8%)、および発疹 (13% 対 0%)となりました。例の記事では全身の脱力感(general weakness)を「筋力低下」としていましたが、私は脱力感の方が良いのではないかと思います。この研究から脱落した割合は低脂肪食グループの方がかなり多いので、これらの副作用の比較にどれほど意味があるかはわかりません。これほど少ないサンプルの研究だと数人の違いは大きなパーセンテージの違いをもたらします。脱落率の違いが副作用割合の違いに大きな影響を与えている可能性は高いと思います。
これらの副作用と言われているもののほとんどは、間違った糖質制限や正しい知識に基づかないことで起きたことだと思います。そして通常は起きても短期間です。
口臭に関してはケトン臭のことだと思いますが、これはまあ仕方がないでしょう。頭痛、脱力感、筋肉のけいれんなどは、一つはエネルギー不足や電解質不足だと考えられます。今回のように糖質制限ではなく、糖質制限+エネルギー制限となっている場合、そりゃあ力も出ないでしょう。(「
糖質制限で倦怠感やエネルギー切れを感じる場合」参照)
そして、糖質制限に適応するにはしばらくの期間が必要です。これまでいいだけ糖質過剰摂取をしていた人が脂肪からエネルギーを得るように適応するのですから時間(2~3週間)は必要でしょう。(「
糖質制限に適応する期間」参照)
発疹(色素性痒疹)も恐らくは糖質制限+エネルギー制限となっているからだと思われます。
また、糖質制限を始めると塩分や水分の排出が増加して、それまでと同様に塩分や水分を摂っていると不足しがちになります。これによっても脱力、頭痛、筋肉のけいれんが起きる可能性があります。便秘も水分不足が大きく関係していると思います。また脂質は太るという洗脳が残っており、脂質不足になっても便秘になるかもしれません。MCTオイルを使うとすぐに解消できるでしょう。
筋肉のけいれんはマグネシウム不足の可能性も高くなります。マグネシウムも意識して摂るようにすれば自然と改善すると思います。
さらに急激に食事が変わった場合、腸内細菌叢もびっくりして、その入れ替わりが起きる時期に便秘や下痢が起きることも十分に考えられます。食事が変われば腸内細菌叢も変化するので、一時的な腸の症状は仕方がないかもしれません。
この研究では低炭水化物食グループは2カップのサラダ野菜 (レタス、ほうれん草、セロリなど)、および1カップの低糖質野菜 (ブロッコリー、カリフラワー、スカッシュなど) を毎日食べるように勧められていたので、決して食物繊維不足ではありません。そして、もともとどれほどの食物繊維摂取量なのかも不明ですし、低炭水化物食や低脂肪食摂取時の食物繊維摂取量も不明ですので、便秘が食物繊維不足で起きたと断定することは不可能です。
つまり、糖質制限=食物繊維不足→便秘、というのはこの研究からは読み取れないはずなのです。それにもかかわらず記事では、糖質制限では不溶性の食物繊維の摂取量が減るから便秘になると書かれています。意図的なミスリードとしか思えません。
「A low-carbohydrate, ketogenic diet versus a low-fat diet to treat obesity and hyperlipidemia: a randomized, controlled trial」
「肥満と高脂血症を治療するための低炭水化物ケトン食と低脂肪食の比較: ランダム化比較試験」(原文はここ)
無関係な現象をあたかも糖質制限が原因かのように扱う、低レベルな批判が多すぎますね。
百歩譲って副作用が有るにしても、糖尿病合併症の方が遥かに深刻と思うのですが、、、
鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。
無関係な現象をあたかも糖質制限が原因かのように扱わないと、批判するところがないということでしょう。
健康診断の基準値は
血糖値が70~109mg/dl
HbA1cが4.6%~6.2%
となっています。
素朴な疑問なのですが、血管に優しいという観点からすれば、
この基準の範囲の中では下限に近い方が良いのでしょうか?
それとも、人それぞれの体質があり、人によっては上限の方が良いのでしょうか?
先生はどう考えてますか?
都久夫須麻さん、コメントありがとうございます。
空腹時血糖はもちろん低い方が良いと思います。
HbA1cも低い方が良いと思いますが、なかなか4台(平均血糖値で80台)にはならないので、ある程度低めでも良いのかな?と思っています。
基準値内の空腹時血糖やHbA1cと血管の関連については記事にしたいと思います。
私が糖質制限で起こった副作用は筋肉のけいれんと全身の脱力感です。
脱力感は、開始後3~4週間で解消しました。脂質代謝に切り替わるまでのエネルギー不足だったと思います。
筋肉のけいれんは、結構きつく毎晩のように頻発しましたが、マグネシウムサプリとその吸収力を高めるために腸内細菌叢の健全性を意識して3種の生菌の整腸剤と腸内細菌の餌になるフラクトオリゴ糖の摂取で糖質制限前と同じレベル(ほとんど発生しない)に戻りました。マグネシウム不足と腸内細菌叢の変化によるものと考えられます。サプリ、整腸剤、フラカウとオリゴ糖は現在も定期的に摂取しています。
水分の摂取は元々少ない方でしたが、糖質制限後は500mg~1000mg程度多く接種するようにしています。
元々、片頭痛がありましたが、これは糖質制限で治りました。ほかにも手首の関節の痛みが段々とひどくなり浮腫みが出るようになり受診しても思うようには改善しませんでしたが、このような整形外科的なものまで治りました。
何より変わったのが、汗の質です。年齢と共に脂っぽく汗臭さもきつくなっていましたが、今は若いころのようにサラサラの汗で臭いもなくなりました。
皮膚も年齢と共にカサカサで張りがなくなって黒ずんできていましたが、しっとりと柔らかく黒ずみの少ない皮膚に変わりました。
もちろん、検査値も全て正常値になっています。
さらに体調の変化を敏感に感じられるようになり、体調と対話しながら食事内容を調整することもできるようななりました。
元々、2型糖尿病の対策として始めた糖質制限ですが、作用と副作用を考えれば、圧倒的に良い作用が多いと思います。
副作用的なものを感じた場合は、一度、立ち止まって考えれば、間違った事や個人差からくるものが見えてくると思います。
同じ食事をしたからと言って、みんなが同じ体調になるわけではないところが、難しいところでもあり、面白いところでもあります。
自分の体調とどれだけ対話できるようになるか(検査値よりも体調優先)がカギだと思います。
西村 典彦さん、コメントありがとうございます。
私も糖質制限をして、様々な変化があり、しかも良い変化ばかりです。
やってみればわかりますし、やっていない人にはわからないことです。
やらない人はやらない理由を探しますから。
自分との対話は大事ですね。