新しい糖尿病薬である、「ツイミーグ」(一般名イメグリミン)が厚労省に承認されました。
製造販売元の大日本住友製薬のホームページによると、次のように書かれています。
「本剤は、ミトコンドリアへの作用を介して、グルコース濃度依存的なインスリン分泌を促す膵作用と、肝臓・骨格筋での糖代謝を改善する膵外作用(糖新生抑制・糖取込み能改善)により血糖降下作用を示すと考えられています。本作用機序は、糖尿病によって引き起こされる細小血管・大血管障害の予防につながる血管内皮機能および拡張機能の改善作用や、膵臓β細胞の保護作用を有する可能性があります。この特徴的な作用機序により、本剤は、2 型糖尿病治療における単剤および併用による血糖降下療法において、幅広く使用される治療薬となる可能性があります。」
どうやら作用機序はミトコンドリアへの作用を介するものと想定されているようです。
では、どの程度の効果でしょうか?(図は原文より、表は原文より改変)
上の図は24週間(6か月)後の効果を示しています。指標はHbA1cです。プラセボではHbA1cは0.15上昇、ツイミーグでは0.72低下でした。図のBは6か月の推移を示しています。ぐんぐん下がっているように見えますが、所詮1%も低下していません。このようなグラフのトリックは明治のヨーグルトの乳酸菌のデータのときと同じです。ヨーグルトよりはかなりマシですが。(「乳酸菌で糖尿病発症リスクを低減?」参照)
ツイミーグ(イメグリミン) | プラセボ | |
---|---|---|
HbA1c(%) | ||
ベースライン | 7.99(0.764) | 7.93(0.684) |
ベースラインからの変化 | −0.72(0.07) | 0.15(0.07) |
プラセボとの差 | −0.87(−1.041、−0.691) | |
空腹時血糖(mg/dL) | ||
ベースライン | 163.6 | 159.3 |
ベースラインから変化 | −5.6 | 12.8 |
プラセボとの差 | −18.5 | |
空腹時のプロインスリン対インスリン比 | ||
ベースライン | 0.1542(0.08168) | 0.1816(0.10990) |
ベースラインからの変化 | −0.0138(0.0088) | 0.0036(0.0092) |
プラセボとの差 | −0.0173(−0.03520、0.00059) | |
空腹時のプロインスリン対C-ペプチド比 | ||
ベースライン | 0.0031(0.00171) | 0.0034(0.00149) |
ベースラインからの変化 | −0.0003(0.0002) | 0.0002(0.0002) |
プラセボとの差 | −0.0005(−0.00083、−0.00021) | |
HOMA-IR | ||
ベースライン | 2.4700(1.85368) | 2.3298(1.67803) |
ベースラインからの変化 | 0.1961(0.1775) | 0.1321(0.1835) |
プラセボとの差 | 0.0640(−0.30471、0.43268) | |
QUICKI | ||
ベースライン | 0.3504(0.03949) | 0.3546(0.04408) |
ベースラインからの変化 | 0.0017(0.0033) | −0.0076(0.0034) |
プラセボとの差 | 0.0093(0.00283、0.01569) | |
HOMA-β | ||
ベースライン | 21.4532(13.30453) | 22.4627(15.89649) |
ベースラインからの変化 | 3.5276(1.6059) | −2.7121(1.6673) |
プラセボとの差 | 6.2397(2.96742、9.51196) |
上の表は様々なパラメータ変化です。HbA1cは先ほど示しましたが、薬により空腹時血糖は−5.6の低下です。空腹時血糖は150を超えている状態です。
プロインスリン/インスリン比の基準値ははっきりしませんが、0.04~0.31程度です。(ここ参照)耐糖能異常では上昇します。しかし、この薬による低下は−0.0138でしかありません。子の低下がどこまでの意味があるかは不明です。
プロインスリン対C-ペプチド比の基準値はよく知りません。
HOMA-IRは1.6以下は正常、2.5以上の場合はインスリン抵抗性があると考えられます。ツイミーグ群の方が2.5を超えてしまっています。
QUICKI(インスリン感受性指数)の健常人での値は0.348~0.430程度です。しかし、この薬による増加は0.0017でしかありません。これもどこまで意味がある数値なのでしょう?
HOMA-βは40~60%が正常で、30%以下でインスリン分泌低下があると判断します。ツイミーグ群の方が上昇していますが、3.5程度です。まだ30%以下です。
この薬がうたう、インスリン分泌促進、糖新生抑制・糖取込み能改善、血管内皮機能および拡張機能の改善作用、β細胞の保護作用が本当にあると言えるのかどうかはわかりません。β細胞の保護作用により、β細胞の機能が改善し、インスリン分泌が増加した可能性もありますが、無理やりインスリンを分泌させている可能性もあります。そうするとますますβ細胞は疲弊するでしょう。
さらに、この研究で食後高血糖はどうなのか、全く触れられていません。恐らく思わしくないのでしょう。低血糖は2.8%の発生しています。コレステロールは次のようです。
ツイミーグ群では、有意差はないでしょうけど、LDLコレステロール値は増加、HDLは低下、中性脂肪は増加と好ましくない変化を示しています。コレステロールは単位がmmolなので38.7をかけると日本の単位です。
また、Poxel社プレスリリースによると、様々な糖尿病薬との併用の52週間でのHbA1cの低下効果は次のようです。
• DDP-4 阻害薬との併用療法において、ベースラインから-0.92%
• チアゾリジン薬との併用療法において、ベースラインから-0.88%
• α—グルコシダ—ゼ阻害薬との併用療法において、ベースラインから-0.85%
• グリニド薬との併用療法において、ベースラインから-0.70%
• ビグアナイド薬との併用療法において、ベースラインから-0.67%
• SGLT2 阻害薬との併用療法において、ベースラインから-0.57%
• SU 薬との併用療法において、ベースラインから-0.56%
• GLP-1 受容体作動薬との併用療法において、ベースラインから-0.12%
• 単剤療法として、ベースラインから-0.46%
ツイミーグ単剤では0.46%しか減少しません。その他の薬との併用でも、最良でも0.92%と1%以下の改善にすぎません。1年で1%以下です。糖質制限なら1~2か月でこれくらいは簡単に改善します。
さらに、この薬はインスリン分泌量を増加させると考えられます。インスリン分泌が増加して良いことはありません。
また少しだけ改善しているように見せかけて、根本的には全く良くならないような薬が一つ増えた印象しかありません。HbA1cが1も低下しない薬と糖質制限、どちらを選びますか?選択はそれぞれの自由です。
糖質過剰症候群
「Efficacy and Safety of Imeglimin Monotherapy Versus Placebo in Japanese Patients With Type 2 Diabetes (TIMES 1): A Double-Blind, Randomized, Placebo-Controlled, Parallel-Group, Multicenter Phase 3 Trial」
「2型糖尿病の日本人患者におけるイメグリミン単剤療法とプラセボの有効性と安全性(TIMES 1):二重盲検、無作為化、プラセボ対照、並行群間、多施設第3相試験」(原文はここ)
これは、あれですね。医薬品ではなく、人の弱みにつけ込んだ「商品」ですね。
誤差程度の数値でも「薬効あり」、と言えるのでしょうか。
なんだか毛生え薬や精力剤などの怪しい広告と同レベルな感じです。
鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。
統計的に有意であれば効果あり、と言ってしまうのが現代の医療です。
統計的に有意差があっても、臨床的に違いがなければ無意味ですが。
有意差を出すには数字を…?都合の悪いデータを…?