糖質制限では通常、高脂肪高タンパク食になります。高タンパク食は一般的には腎臓に負荷をかけると考えられていて、腎臓に有害な影響があると考えてる人もいるでしょう。
今回の研究では2年間の糖質制限で腎機能がどうなるかを見ています。重篤な疾患のない平均年齢45.5歳で平均BMIが36.1の307人の成人(女性208人と男性99人)が対象です。2つのグループに分かれ、低炭水化物高タンパク質、または低脂肪カロリー制限の食事に2年間割り当てられました。
低炭水化物高タンパク質食はアトキンスダイエットに従い、炭水化物の摂取は制限するが、脂質とタンパク質の摂取は無制限で、最初の12週間、参加者は低GIの野菜の形で炭水化物の摂取量を20g/日に制限するように指示されました。その後は望ましい体重が達成されるまで、より多くの野菜、限られた量の果物、そして最終的には少量の全粒穀物と乳製品を摂取し、炭水化物摂取量を1週ごとに5g/日の割合で徐々に増やしました。
一方、低脂肪カロリー制限食はエネルギー摂取量を女性で1200〜1500kcal/日、男性で1500〜1800kcal/日に制限し、カロリーの約55%が炭水化物、30%が脂質、15%がタンパク質としました。(図は原文より、表は原文より改変)
変数 | 低炭水化物食 | 低脂肪食 | ||||
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3か月 | 12か月 | 24か月 | 3か月 | 12か月 | 24か月 | |
体重(kg) | −9.70 | −11.20 | −6.60 | −8.40 | −10.50 | −7.80 |
クレアチニン(%) | −2.40 | −3.10 | 0.10 | 1.90 | −0.42 | -1.64 |
シスタチンC(%) | −9.50 | −4.80 | −1.00 | -1.10 | −3.20 | −0.90 |
ナトリウム(mmol / L) | −0.10 | −0.50 | −0.40 | 0.40 | −0.30 | 0.20 |
カリウム(mmol / L) | −0.02 | −0.06 | −0.05 | −0.07 | 0.003 | −0.03 |
尿素窒素(%) | 13.00 | 14.20 | 9.50 | -1.20 | 4.80 | 1.20 |
尿量(ml/d) | 249.00 | 487.00 | 228.00 | 24.00 | 49.00 | −40.00 |
尿中クレアチニン(%) | −3.40 | −0.70 | −2.90 | −7.90 | −8.40 | −5.90 |
クレアチニンクリアランス(ml/min) | 5.20 | 10.10 | 3.70 | −10.60 | −10.70 | −3.50 |
尿中アルブミン(%) | −5.80 | −7.10 | −21.40 | −11.30 | −22.20 | −23.80 |
尿中カルシウム(%) | 20.90 | 26.90 | 7.30 | −11.20 | −6.50 | −9.80 |
体重はどちらのグループも減少していますが、やはり指示された食事が段々緩んでくるのか、24か月では少し戻ってしまっています。それは他の検査値でも同様です。低炭水化物食群ではクレアチニンもシスタチンCも12か月までは低下していましたが、24か月では有意な低下ではありませんでした。一方低脂肪食では2年間ずっと有意な変化はありませんでした。BUN(尿素窒素)は低脂肪食群では12か月のみ増加していましたが、それ以外は有意な変化なし。しかし、低炭水化物食群では2年間有意に増加していました。タンパク質が増加しているためでしょう。
低炭水化物食群では尿量も有意に増加していました。上の図は24時間クレアチニンクリアランスですが、低炭水化物食群では低脂肪食群と比較して3か月と12か月では増加していました。
上の図は24時間尿中カルシウムですが、低炭水化物食群では3か月と12か月で低脂肪食群よりも増加していました。腎結石の兆候はありません。
尿中アルブミンも腎臓の機能の重要な指標の一つですが、尿中アルブミンは両方のグループで低下していました。通常は高タンパク質食ではタンパク尿が増加すると言われていますが、恐らくこれも高タンパク質が原因ではなく、糖質過剰摂取+高タンパク質が原因ではないかと思います。
今回の糖質制限食では実際のタンパク質摂取量はわかりませんが、尿素窒素などの値から恐らくかなり高タンパク食になっていると思われますが、クレアチニンクリアランスの増加、血中のクレアチニンおよびシスタチンCは低下し、尿中アルブミンも低下したことから、2年間の高タンパク食は糖質制限という前提であれば、不利益は全くないと思われます。
慢性腎臓病はほとんどが糖質過剰症候群です。高タンパク食は問題ではないでしょう。
「Comparative effects of low-carbohydrate high-protein versus low-fat diets on the kidney」
「低炭水化物高タンパク食と低脂肪食の腎臓への影響の比較」(原文はここ)
健康習慣としては「新参」である糖質制限。
毎回御提供下さっているような、緻密な研究結果を示す必要性が高いと思うのですが、
そういう誠実なエビデンスに比較して、
現状の「バランス良く3食」「脂肪、LDLコレステロールはとにかく悪」「ブドウ糖は脳唯一のエネルギー」
「糖質制限で筋肉は削られる」などのいわゆる健康常識は、明確な根拠や統計も示さず、
常識なんだからとにかく従え、的な圧を感じてしまいます。
鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。
定説となっていることを正しいかどうか確かめずにそのまま推奨しても、誰からも非難はされないでしょう。
しかし、多くの医師をはじめ専門家はその仮説が正しいかどうかも疑ってもいないことが問題でしょう。
友人が糖尿病になりました。食後の血糖値が200台で医師からはまだ薬の対象ではないから3ヶ月後にまた血液検査をしましょう、と言われただけだそうです。元々食が細く痩せ型で、でもケーキやクッキーが好きでよく手作りする人です。肉や魚が苦手で卵と豆腐は好きなのですが‥。バターや油を摂るように伝えましたが、やはり更に痩せてきてしまったと。栄養士には「ケーキやパンを食べて良いから痩せないように」と言われたとか(驚)。プロテインなどで補助した方が良いのでしょうか?飲むとしたらどのプロテインが良いのでしょう?種類が多くてわからないのです。
まるよしこさん、コメントありがとうございます。
友人を思う気持ちは理解できますが、どのような食事をするかはあなたの課題ではありません。
本人が変えようと思わなければうまくいきません。
また、誰かのフィルターを通して得た情報は正しく伝わるかどうかはわかりません。
友人ご本人が問題意識を持っていれば自分で調べたり、質問したりするはずです。
はい、その通りです。
すみませんでした。
もう一度ちゃんと調べてみます。
清水先生、こんにちは。
腎臓が悪くなると、タンパク質を摂る時にエネルギーをしっかり摂らなければならないということを聞いたことがあります。エネルギーを摂らないと、タンパク質がエネルギー源になり、その結果、アンモニアなどが生成されるとか。
糖質制限では、エネルギー源として脂肪をしっかり摂ることでタンパク質がしっかり同化できるということになるのでしょうか?このエネルギーを糖質からということになると、色々と問題が出てきそうです。脂肪の中でも、MCTが代謝が速くいいイメージがありますが、どうでしょうか?
じょんさん、コメントありがとうございます。
それは、「糖質制限をすると筋肉が減少する」という根拠のない仮説と同様ではないでしょうか?
糖質制限をしているという前提であれば、エネルギー源は脂肪酸とケトン体がメインなので、エネルギー不足は起こりえないと思います。