腎臓に嚢胞がたくさんできて腎臓の働きが徐々に低下していく、多発性嚢胞腎という病気があります。遺伝性の病気です。難病に指定されています。(ここ参照)

現在、治療法として難病情報センターのページには次のように書かれています。

尿を濃縮するホルモンであるバソプレシンのV2受容体拮抗薬(トルバプタン)は、腎臓の嚢胞が大きくなることを防ぎ、腎臓の働きの低下を抑える効果が見込まれます。

また日常生活についての注意としても次のように書かれています。

脱水によるバソプレシンが嚢胞を大きくし、病気の進行を速めることになるので、適切な水分摂取の習慣はとても大事なことです。また、高血圧や肥満も病気の進行に関わるので、早くから注意が必要です。塩分制限が重要と考えられます。

やはり、ここでもバゾプレシンがキーワードです。高血圧や肥満もかかわっていると書かれています。

さて、私の拙著「肥満・糖尿病の人はなぜ新型コロナに弱いのか 「糖質過剰」症候群II」でも詳しく書いたように、糖質の果糖の摂取はバゾプレシンを増加させます。そうであるならば、果糖、糖質の制限をした方が良いでしょう。

以前の記事「ケトン体は多発性嚢胞腎を救うかもしれない」で書いたように、動物実験上では糖質制限で多発性嚢胞腎の大きな改善を認めています。

人間の研究はどうでしょうか?

今回の研究では、多発性嚢胞腎の患者131人を対象にしています。下の図のBに示すように、そのうち74人はケトン食、52人は時間制限食(断続的断食(インターミッテントファスティング))、5人はカロリー制限食を自ら開始していました。そして、その食事を行っている期間の中央値は6か月でした。(図は原文より)

図のCに示すように、1年以上行っている人も何人もいます。Dに示すように、ケトン食をコントロールするのにケトン体値を測定している人は74人中38人(51%)でした。Eで示すように、そのケトン体値で血中の平均は1.15mmol/L、日本の単位では1150μmoL/Lなので、ちゃんとケトン食を行っているようです。

Fに示すように、時間制限食を行っている人の約半数は絶食時間が16時間(食事の時間枠は8時間)でした。

GおよびHに示すように、半分以上の人は多発性嚢胞腎のために食事を始め、インターネットや書籍、ソーシャルメディアなどを通じてケトン食療法について学びました。

上の図は参加者の自己の報告、感想です。Aは食事による健康状態の改善です。非常に改善した、やや改善したを合わせると、全体で86%になり、ケトン食に限れば92%にもなります。変化なしという人もいますが、やや悪化したのは全体で2人でした。Bは多発性嚢胞腎の症状の改善です。多発性嚢胞腎による症状が改善したことに強く同意する、およびやや同意する人は全体の56%でした。ケトン食に限ると63%でした。38%はどちらでもないという回答でした。Cは再発性の健康問題があるかどうかを聞いていますが、111人(85%)もの人が健康問題を抱えていました。

図のDは様々な健康関連の症状です。黒が食事開始前からの症状で、網掛けが食事を開始してから改善した症状、白は食事開始から悪化した症状です。症状のベスト3は脇腹/腰痛、倦怠感、腹部膨満感であり、その多くはEに示すように食事で改善しています。全体の67%、ケトン食の75%が健康問題の改善を報告しています。

 

上の図のAは体重減少したか?という質問ですが、全体の90%、ケトン食の93%が体重減少を報告しています。およそ9kgの体重減少です。BMIも約3低下しています。66%は体重減少が横ばいになっています。BMIは正常範囲の人が増加し、肥満が減少しています。

上の図は高血圧についての質問です。Aに示すように74%は高血圧でした。Bに示すように全体の64%は血圧が改善し、Cのように自己申告の血圧値は、平均が132/85から118/76 mmHgに減少しました。ケトン食も時間制限食もどちらも血圧が改善しています。EとFは水分摂取の変化で、トルバプタンを服用していない参加者の58%が、平均で水分摂取量が約1.5 L増加した(トータル1日3L)と報告し、42%は変化を経験しませんでした。しかし、変化しなかった人はもともとベースラインで2.5L摂取していました。多発性嚢胞腎では脱水にならないように水分摂取を勧められているので、42%の人はそれを守っていたとも考えられます。

 

上の図は最も重要な腎機能についてです。食事を開始する前後の推定糸球体濾過率(eGFR)データを収集しました。Aは食事の前後の腎機能変化があったかどうかです。データを提供した70人のうち、45人が改善を報告し、8人が変化なし、17人がeGFRの低下を報告しました。改善は全体の64%であり、ケトーシスが記録されている22人のうち77%が改善しています。全体ではeGFRは58.3から61.9と3.6mL/min/1.73m2のわずかな増加です。ケトーシスの記録がある人は67.6から74.9と7.3mL/min/1.73m2の増加を示しています。Cに示すように、14人のデータしかありませんが、平均の血中のケトン体値とeGFRの増加が相関しています。

 

上の図は食事を開始して、新たな問題、副作用などについてです。全体の66%、ケトン食の81%が新しい症状を報告しました。BおよびCに示すように、新たな症状は倦怠感、空腹感、および「ケトフル」が最も一般的であり、合計55%が、ほとんどの症状が時間の経過とともに治まったと報告し、12%が持続していることを報告しました。すべての新しい症状の76%が時間の経過とともに解決したと報告されています。Dに示すように、17%で医師が安全性の懸念を示しました。その多くはコレステロール値の上昇でした。自己申告のデータは、平均で総コレステロールが13mg/dL、LDLコレステロールが8.5mg/dLの増加を示しました。これは、ケトン食で有意に高くなっていました。中性脂肪とHDLコレステロールはほとんど変化していないようでした。1人腎臓結石、2人血清クレアチニンの増加を報告しました。

上の図は実行の可能性です。76%の人は食事の変更は管理可能だったと回答しています。64%では食事の準備にもほとんど影響がなかったと答えています。65%はこの食事療法を比較的簡単に実行できると回答し、83%は多発性嚢胞腎を持つ他の友人や家族にも勧めると答えています。Eに示すように、全体の50%が毎日食事を順守していると報告し、42%が月に数回スキップしたと報告しています。全体の40%、ケトン食の42%が、実際的な困難による中断を報告しました。

以上を見てみると、ケトン食や時間制限食などは高血圧や肥満を改善し、さらに糖質制限(ケトン食)では果糖の摂取量も非常に少ないので、水分摂取を適切に行えば、バゾプレシンの増加も非常に少ないでしょう。つまり、多発性嚢胞腎にとっては良いことづくめです。

さらに糖質を制限するとmTORやIGF-1も低下すると考えられるので、嚢胞数と嚢胞サイズをそれぞれ減少させる可能性が高くなります。恐らく腎臓だけでなく他の臓器の嚢胞も糖質制限をすると改善するのではないかと思います。すい臓の嚢胞を何年も経過観察されていた人が、糖質制限をしたら数か月で嚢胞が見えなくなったという方もいらっしゃいます。

もちろん、自分で自ら食事を変えようと思わなければ長く持続はできないでしょう。今回の研究のように自ら始めても、継続が難しく感じる人もいます。糖質の依存性の高さが関係している可能性もあります。ケトン食までは持続は難しいでしょうから、スーパー糖質制限食+時間制限のインターミッテントファスティングが私は良いと思います。多発性嚢胞腎も遺伝+糖質過剰症候群でしょう。

 

「Ketogenic dietary interventions in autosomal dominant polycystic kidney disease—a retrospective case series study: first insights into feasibility, safety and effects」

「常染色体優性多発性嚢胞腎におけるケトン食療法の介入—後ろ向き症例シリーズ研究:実現可能性、安全性および効果への最初の洞察」(原文はここ

8 thoughts on “多発性嚢胞腎には糖質制限を”
  1. シミズ先生
    新しい論文の解読(?)ありがとうございました。素人にはなかなか難しく、こうしてわかりやすく説明してくださること、とてもうれしく感じております。先生のブログに出逢えて良かったです。糖質制限1ヶ月で右肩下がりのクレアチニンが良くなり、先生もびっくり、「あれ?あれ?何かしました?」って尋ねられました。尿酸値は9.5と爆上がりしてましたが無症状、でも少し怖いので薬は飲むことにしました。ケトン体はでてませんでした。慣れてくると出ないのでよかったんでしょうか。。?
    私は困ってないんですが、肝臓の嚢胞が巨大化もしくは小さいブドウみたいに多発してかなり困っておられる方がいます。糖質制限でよくなったらいいなと思います。

    1. ちばさん、コメントありがとうございます。

      腎機能改善良かったですね。尿酸値の爆上りは、もしかしたら塩分不足、水分不足かもしれませんね。
      糖質制限と尿酸値上昇」などを参考にしてください。
      尿のケトン体は長い間糖質制限をしていると陰性になることが多いと思います。

  2. シミズ先生
    お忙しいところ、コメントありがとうございました。尿酸値のページも読ませていただきました。尿酸値は上がっても心配なさそうですね。正常値とはなんなのかと考えてしまいます。。透析の恐怖から解放されて、毎日明るい気持ちで過ごしています。ありがとうございました。

  3. 多発性嚢胞腎の患者です
    今回の記事を参考に糖質制限してみます 翻訳解説ありがとうございます

    1. 匿名気泡さん、コメントありがとうございます。

      是非やってみて下さい。良い方向に行けると良いですね。

  4. どなたかか、多発性嚢胞腎の新しい会をつくり、患者から会費をとろうとしていた企画がありまして、しかし、そこでは糖質制限については一切触れられていませんでした。
     ところで、タンパク質はほんとうに腎臓にダメージを与えるのかと、疑問に思っています。私はクレアチニン1.5になり、タンパク制限しろといわれ、1日45グラムでと言われましたが、いまはほぼケトン食でタンパク質のことを気にせずバクバク食べていますが1.3までよくなりました。スタチンもやめ、血圧の薬もやめ快適にすごしています。しかし、もしかしたらトルバプタンすらいらなくなったら、糖質制限に対するネガティブキャンペーンがおこりそうです。なにしろ1ヶ月の薬代が40万近くしますから。。

    1. ちばさん、コメントありがとうございます。

      トルバプタン1か月40万円ですか。すごい薬価設定ですね。
      多発性嚢胞腎の新しい会には、製薬会社は絡んでいませんか?
      ケトン食、タンパク質摂取で腎機能改善良かったですね。
      タンパク質腎臓悪玉説は私はウソだと思っています。糖質の有害性をタンパク質のせいにしているだけだと思っています。
      トルバプタンの機序から考えて、糖質制限、ケトン食をすれば薬は必要ないと思いますが、
      エビデンスがないので、個人的な意見でしかありません。

  5. シミズ先生 お忙しいところ、返信ありがとうございます。
    会に入会すれば、誰が理事なのかわかると思いますが、入会してないのでわかりません。。先生が紹介してくださった上記論文でも腎機能が変わらない、もしくは悪化した方が少数いるようです。パーセンテージとしては、良くなった人が多いのですが、悪くなった人をことさらに取り上げてネガティブキャンペーンされるのではと心配しています。考えすぎでしょうか(笑)
    月の薬価が約40万、指定難病なので認定されれば最大2万の自己負担ですみます。その点はとてもありがたい話です。それに私はここ数年機能は徐々に低下してきましたが、腎臓のサイズはおおきくなっておりません。トルバプタンを開発してくださった大塚製薬さんにも感謝しなければなりませんね。シミズ先生にはそれ以上の感謝の念がありますが。
    年に一度の腎臓のサイズの測定を楽しみにケトン食がんばります。私は肝臓にも少し嚢胞があります。これが消えていたり、小さくなっていたら、ブドウ状の嚢胞で肝臓が巨大化して妊婦のようだと悩む方に教えてあげたいです。

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