糖質制限を始めると尿酸値が上昇する方がいます。通常間もなく落ち着きます。しかし、やはり尿酸値が高くなると心配に思う人も少なくないでしょう。糖質制限反対派は「尿酸値が上がると痛風のリスクが上がる」と批判的に騒ぐ人もいるでしょう。
肉をたくさん食べるようになるからと言う人がいますが、食事などの影響は20%程度だと考えられています。つまり尿酸の80%は体の中で作られたものなのです。だから私は食事性の尿酸上昇は全く気にしていません。
通常糖質制限をするとインスリン分泌が低下するので、尿酸排泄が増加し、尿酸値は低下傾向を示すと考えられますが、実際にはそんな簡単なものではないのかもしれません。
尿酸は3分の2は腎臓から排泄され、3分の1は腸管から排泄されると考えられています。腎臓から排泄が増加しても、腸管からの排泄が悪い場合もあるのかもしれません。
ただ、尿酸は老廃物でもなんでもなく、非常に重要な物質です。非常に高い抗酸化作用を持っているので、低ければ良いというものでもないでしょう。尿酸の3分の2は腎臓から排泄されるのですが、ろ過した中の90%は再吸収されています。つまり、人間の体は尿酸を体の中に残しておきたいのです。老廃物であれば全部捨てても良いはずです。
腎臓では尿酸は乳酸,ニコチン酸,ケトン体などと交換輸送されるので、ケトン体が増加すると尿酸の再吸収が増加する可能性があります。糖質制限を始めたばかりの頃は尿検査をすると尿にケトン体が出ます。しかし、そのうち陰性になります。恐らく体の中でケトン体が効率よく使われるようになるまでは尿に排泄されてしまい、その後ケトン体を上手く使えるようになると尿にはあまり出なくなるのではと思います。ですから、糖質制限の初期には尿酸値が高くなることもこれで説明できます。
他の要因を考えてみましょう。
江部先生はまずは摂取エネルギー不足を指摘されております。糖質を制限して、他のタンパク質や脂質を増やさなかったことによるエネルギー不足によるものでは?とおっしゃっています。
そして、他には江部先生のブログによると、次のように書いてあります。
<尿酸を上昇させる要因>
尿酸を確実に上昇させるのは、重要なものから順番に
1、ストレス
2、肥満
3、大量の飲酒
4、激しい運動
5、プリン体の摂りすぎ
だそうです。
尿酸値に影響を与える5つの要素について、詳しく見ていきましょう。
1 ストレス
実はストレスが一番尿酸値を上昇させます。
鹿児島大学の納光弘先生もご自身が痛風でして、徹底的に自分で人体実験をされて、ビールより何よりストレスが高尿酸血症の原因と断定しておられます。
納先生ご自身は、学会の会頭を引き受けて忙しくてプレッシャーが高かった時期が最も尿酸値が上昇したそうです。
学会が終了したら、ビールを飲んでも下がったそうです。
これは、もっぱら心理的ストレスですね。
一方、断食は究極の肉体的ストレスという見方もできます。
2 肥満
体重増加も尿酸を増加させる要因なので、糖質制限食で減量すると、尿酸値も低下すると思います。
高渕さんのご主人も、肥満が改善すれば、尿酸値も改善する可能性があります。
3 飲酒
アルコールを大量に(日本酒1日3合程度以上)飲めば尿酸値は上昇し、断酒すれば下降します。
アルコールが尿酸値に影響を与える要因は二つあります。
一つは、アルコールが代謝の途中で乳酸になり、乳酸が腎臓からの尿酸排泄を抑制すること。
もう一つは、継続的に多量にアルコールを摂取したときに(日本酒1日4合以上を毎日)、アルコールが尿酸の代謝を促進させて尿酸値が上がることです。
なお、お酒に含まれているプリン体自身の量は、体内の尿酸プールの量に比べて少ないのでほとんど影響はありません。
例えばビール大瓶633㏄中のプリン体はたったの32.4㎎に過ぎません。
適量のアルコールならストレスが解消され尿酸値を下げます。
適量の目安は、日本酒1.5合、ビール約750㏄、ワイングラス2杯、焼酎のお湯割りコップ2杯程度です。
4 激しい運動
激しい運動は尿酸を上昇させますが、軽い有酸素運動は大丈夫です。
5 プリン体の摂りすぎ
プリン体が非常に多い食品はさすがに大量にはとらない方がいいでしょう。
しかし、日常的な食生活の中では、プリン体を気にするほどのことはなさそうです。
何故ならプリン体は約80%が体内で生合成され、食事由来のプリン体は約20%に過ぎないからです。
2~5は、置いておいて、1のストレスが尿酸値を上昇させることに注目してみます。間違った糖質制限による摂取エネルギー不足自体が体にはストレスかもしれません。糖質制限を始めたばかりの方には正しい糖質制限だとしても、もしかしたら糖質制限自体がストレスになっている可能性はあります。ストレスがなぜ尿酸値を上げるのかはよくわかりません。恐らくストレスが高いときに分泌されるコルチゾールの作用のなのではと考えます。
コルチゾールが関係していると考えると、次のようなことも考えられます。以前の記事「糖質制限で倦怠感やエネルギー切れを感じる場合」で書いたように、糖質制限をしてインスリンが低下すると、腎臓でのナトリウムの再吸収が減り、ナトリウムと水分が一緒におしっこに出ます。糖質制限を始めたばかりのときに、人によって急激に体重減少が起きることがありますが、その初期の体重減少の多くの部分を占めているのがこの水分の排出だと考えられています。通常最初の方でも書いたように、尿酸の排泄も増加するはずですが、塩分摂取が非常に少ない場合、副腎はアルドステロンというホルモンをはじめ、ストレスホルモンと言われているコルチゾールなどを出して、ナトリウムを再吸収しようとします。
つまり、直接ストレスを感じていない状態でも、副腎はストレスホルモンのコルチゾールを分泌させることがあるのです。
また、水分排泄が増加するのに、水分の摂取量が少ない場合、脱水傾向となり、これも尿酸値を増加させます。
摂取エネルギー不足で筋肉が分解されるようであると、それも尿酸値を上げる可能性があります。ただ、下の表の私の100kmのウルトラマラソンレース前後のCPKと尿酸値を見るとわかるように、筋肉の崩壊を示すCPKは1000~2000程度に激増しているのに、尿酸値は変化していません。
レース前 | レース後 | |||
尿酸 | CPK | 尿酸 | CPK | |
2016年 | 5.9 | 79 | 5.7 | 1124 |
2017年 | 5.4 | 61 | 5.1 | 2004 |
2018年 | 5.3 | 79 | 5.5 | 1725 |
何日も断食してるわけではなく、摂取エネルギー不足程度で起きる筋肉の分解で果たして尿酸値が上昇するのかは非常に疑問です。
そう考えると、非常にややこしい状態です。何が優勢に働くかによって、尿酸値が増加するか低下するかが変わってきます。
もしも、糖質制限で尿酸値が上がってしまった場合、次のことが考えられます。
1.ケトン体がまだ尿から排泄されていることによる尿酸の再吸収の増加
2.摂取エネルギーが少なすぎて、それがストレスになったり、筋肉の分解を起こして尿酸値が上がっている
3.糖質制限をしていること自体がストレスになってコルチゾールが分泌されて、尿酸値が上がっている
4.塩分制限になっていて、コルチゾールが分泌されて、尿酸値が上がっている
5.水分摂取量の不足により脱水傾向にあり尿酸値が増加している
ちゃんと糖質制限をしているつもりなのに尿酸値が上昇しているのであれば、私が最も原因として考えているのは、1、4、5です。
いずれにしても、尿酸値の上昇が本当に痛風を起こしているかどうかもはっきりしていません。高尿酸値と痛風の関連は確かにあります。私は高尿酸値にインスリン抵抗性と炎症が合わさることにより痛風が起きるのではと考えています。10mg/dLを超える尿酸値でも痛風を発症するのは半分以下です。痛風発作のときに尿酸値が基準値を超えている方が少ないというのも納得いきません。
もしかしたら、尿酸はコレステロールと同じ扱いなのかもしれません。つまり、本当は増加していても問題ないのに、増加すると危険だという考えを植え付けることにより、ビジネスにつなげているのでは?と思うのです。製薬会社も尿酸を低下させる薬を売り込めます。食品業界もプリン体が少ないという付加価値を付けてモノを売ることができます。
尿酸値の上昇が様々な病気と関連していると言われていますが、本当でしょうか?本当は痛風にもならない多くの人が薬を飲まされていないでしょうか?
LDLコレステロールを悪玉と決めつけ、スタチンを売りつけ、食品会社もコレステロールが少ないという付加価値を付けて様々な「ヘルシー」と思わせるモノを売りつけています。同じニオイがしてなりません。
いずれにしても、短期間尿酸値が高くなってもまったく問題ないでしょう。
「Acute gout attack with normal serum uric acid levels」
「正常な血清尿酸値を伴う急性痛風発作」(原文はここ)
「Molecular identification of a renal urate anion exchanger that regulates blood urate levels」
「血液尿酸値を調節する腎尿酸陰イオン交換体の分子同定」(原文はここ)