HbA1cに対する中途半端な糖質制限の効果

糖質制限は当然糖尿病で高いHbA1cを低下させます。まだ、糖尿病治療をしていない前糖尿病から糖尿病の範囲にあるHbA1cに対して、糖質制限が有効であるのは明白です。6か月でどれくらいの効果があるかを研究したものがあります。でも、やっぱりデザイン通りの研究ができていません。だから、結果は中途半端です。

今回の研究は、未治療のHbA1cが6.0%から6.9%(平均6.16%)の平均年齢58.9歳、女性は72%、142人が対象です。糖質制限群と通常の食事群に分けられました。

フェーズ 1 (Go Low) は最初の3か月間で、目標は1日あたりの正味炭水化物、つまり糖質量40g未満、フェーズ 2 (Keep it Low) は4か月から6か月の間、正味炭水化物(糖質)の目標は60g未満でした。 参加者は実行可能な最も低い量の目標を選択するように指示されました。また、59人の参加者のサブグループで 6 か月後の14日前に、連続血糖モニター (フリースタイルリブレPro) を使用して24時間の血糖値を測定しました。(図は原文より)

上の図はベースラインの特徴です。体重は100kg前後で、BMIも36前後の集団です。空腹時インスリンも30程度なので、インスリン抵抗性、高インスリン血症の状態です。

上の図は様々なパラメーターの推移を示しています。オレンジ色が低炭水化物食、黒色が通常の食事です。HbA1cは低炭水化物食群で低下しましたが、3か月で0.23、6か月で0.26の低下にすぎませんでした。ショボい。通常の食事では変化なしです。体重も低炭水化物食だけ低下しましたが、6か月で6kg程度の減少にすぎません。ショボい。

 

空腹時血糖値も6か月で8mg/dL低下しました。インスリンも4低下しました。まあ、どれも中途半端な結果ですね。糖質制限の力はこんなもんでしょうか?では実際には、3か月、6か月の時点で、どのような糖質量だったのでしょうか?下の図を見てみましょう。

上の図はベースラインと、3か月、6か月の食事内容です。しかし、これらは自己申告の食事アンケートです。彼らのベースラインでの糖質量は1日174~190gと言っていました。摂取エネルギーは1800kcal前後です。100kgの人たちが果たしてこの程度の食事で済んでいるでしょうか?過少申告ですね。そうすると、その後の研究の過程でも過少申告は間違いないでしょう。低炭水化物群で3か月の時点の糖質量は66g、6か月で75gです。過少申告なのに研究でデザインされた糖質量をかなり上回っており、恐らくはかなり大量の糖質を摂っていたのでしょう。

しかし、ベースラインよりは糖質量が抑えられ、HbA1cや体重が少しだけ低下したと考えられます。当然健康的な状態まで低下したとは言えません。

 

上の図はラスト14日間でフリースタイルリブレを付けて、そのデータを分析したものです。低炭水化物群で24時間、日中および夜間の平均グルコース値は低下していました。そして、グルコース値が140以下であった時間は90%にもなっていました。180以下であったのは95%にもなっていました。そうすると、10%程度の時間帯はグルコース値は140を超え、その半分の時間帯は180さえ超えていたことになります。

通常糖質制限の食事では180を超えることはありません。1食の糖質量にもよりますが、140を超えることもほとんどないでしょう。そうすると、彼らは糖質を食べちゃっていたんだと思います。

この研究をもって糖質制限は大して効果が無いというのは間違いであり、結局無理矢理糖質制限をさせてもなかなか続けられないし、効果も出にくいでしょう。肥満の人の前糖尿病や糖尿病の初期では、インスリン抵抗性を大きく改善すれば、寛解できると思います。つまり、食事の変更だけで薬はいらない場合がほとんどだと思います。

自分の意思で糖質制限をやらないと難しいでしょう。

また、この研究のように、実際には中途半端な糖質制限だと、結果も中途半端です。もともと異常がない場合であれば中途半端な程度の「ロカボ」でも良いのかもしれませんが、肥満、耐糖能異常、その他の症状があれば、ロカボでは全く対応できないと思います。やはり糖質制限をしっかりするべきだと私は考えます。

肥満も糖尿病も糖質過剰症候群ですから、糖質制限が必須でしょう。

 

「Effects of a Low-Carbohydrate Dietary Intervention on Hemoglobin A1c
A Randomized Clinical Trial」

「HbA1c に対する低炭水化物食事介入の効果: 無作為化臨床試験」(原文はここ

2 thoughts on “HbA1cに対する中途半端な糖質制限の効果

  1. 糖質制限食が真価を発揮するのは脂肪酸代謝になる事で脂肪を燃焼し、ケトン体を産生する場合だと思います。したがってロカボ程度の中途半端な糖質制限では主に糖質が減って接種カロリーが減ったことによる効果に留まっていると思っていますがどうでしょうか。
    糖質制限がしっかりできているかどうかは自己申告ではなく、ケトン体値を測定すれば一目瞭然なのですが、そのような研究はないのでしょうか。

    1. 西村 典彦さん、コメントありがとうございます。

      仰る通りだと思います。ロカボはほとんど効果がありませんね。
      適宜ケトン体を測定する研究はありますが、実際問題お金、手間がかかりすぎると思いますので、
      なかなか難しいでしょう。
      糖質制限を自分から喜んでやろうという人たちを集めているわけではありませんし。

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