一度に大量のタンパク質を摂っても吸収される?

1回に吸収できるタンパク質は20~30gなどと実しやかに世の中では言われています。私は全く信じておらず、1日2回の食事中、朝または昼に20~25g程度、夕食に100~140gくらいのタンパク質を摂取しています。こんなに一度の摂取して吸収できているかどうかはわかりませんが、できなかったとしても気にしていません。糖質制限をしている人の中で1日1食や2食の人は多いでしょう。そうすると自ずと1回のタンパク質摂取量は増加します。

さて、私の1回量には及びませんが、1回に40g程度と70g程度を比較した研究、1日の食事で体重1㎏当たり0.8gの場合と1.5gの場合でしかも3回の食事で均等に食べるパターンと夜にたっぷり食べるパターンでの研究を取り上げたいと思います。

まずは23人の健康な比較的若い世代の人を対象とした研究です。平均年齢は30歳くらいで、BMIは27前後、体脂肪率は28~30%程度で、運動の影響を調べるために、運動群と安静群に分けました。運動群は最初の採血の1時間半前に45~50分間の筋トレをします。最初の採血から3時間後に食事を摂りますが、1週間空けて中タンパク質(40g程度)摂取と高タンパク質(70g)摂取の2回のテストをします。(図は原文より、表は原文より改変)

食事の主要栄養素、g


非タンパク質エネルギー、%


性別 タンパク質レベル食事、kcal牛肉のタンパク質、gタンパク質脂質炭水化物脂質炭水化物
男性
    MP1,29721.144.176.2107.361.138.2
    HP1,30152.770.068.995.360.837.3
女性
    MP1,10121.139.764.289.061.437.8
    HP1,10352.765.756.977.160.936.7

上の表はタンパク質、脂質、炭水化物の摂取量の違いを示しています。MPは中タンパク質摂取群、HPは高タンパク質摂取群です。男性では中タンパク質で44.1g、高タンパク質で70g、女性では中タンパク質で39.7g、高タンパク質で65.7g摂取となります。もちろん糖質を含んだ食事です。

上の図は絶食状態からの全身タンパク質の正味バランス (NB)、合成 (PS)、および分解 (PB) の割合の変化を示しています。分解よりも合成が上回れば正味のバランスがプラスとなり、タンパク質の同化作用が増加することとなります。そうすると、R(運動なし)とX(運動あり)の違いは認められませんでした。そして、中タンパク(MP)と比較して、高タンパク(HP)群の方が正味バランスが大きく増加していることがわかります。高タンパク群の方が確かに合成も増加していましたが、それよりも分解が大きく減少し、正味バランスが大きく増加していたようです。筋肉タンパク質部分合成率(MPS)はどの群でも違いはありませんでした。

 

上の図は血糖値とインスリン値の推移です。血糖値はどの群で違いはありません。インスリンは運動群でやや増加しているように見えますが有意な差ではありませんでした。

 

 

総必須アミノ酸 (EAA) と非必須アミノ酸 (NEAA)は高タンパク質群で高くなりました。

つまり、運動の有無は関係なく、筋肉タンパク質合成を最大に増加させることが以前に示されたタンパク質量(20gとか30gとか)を超えるタンパク質摂取量では、全身の正味タンパク質バランスが増加します。

 

次に比較的高齢者の研究を見てみましょう。20人の健康な52~75歳(平均では65歳くらい)が対象で、1日のタンパク質摂取量の推奨量である体重当たり0.8g/kg/日(1RDA)とその約2倍の1.5g/kg/日(2RDA)の量を、夕食にたくさん摂るパターン(U: 朝15/昼20/夕65%) と均等に摂るパターン(E: 朝33/昼33/夜33%)で摂取しました。

タンパク質


脂質


炭水化物


パターン食事エネルギー摂取量、kcal/kgg/kgg%g/kg%g/kg%
1RDA不均等6.10±0.80.1±0.011.1±1.38±10.2±0.029±01.0±0.163±1
8.0±0.70.2±0.014.9±1.78±10.2±0.123±51.4±0.169±5
17.7±1.50.5±0.047.8±5.812±10.9±0.144±12.0±0.244±1
合計2,801±3120.8±0.073.7±8.810±01.3±0.136±04.4±0.154±0
均等7.2±1.00.3±0.022.3±1.615±20.2±0.129±41.0±0.156±2
10.2±1.90.2±0.121.5±1.99±20.4±0.133±81.5±0.458±6
11.2±0.50.3±0.022.0±1.49±00.6±0.147±31.3±0.144±3
合計2,325±1740.8±0.165.8±4.811±01.2±0.137±13.8±0.452±1
2RDA不均等5.4±0.50.2±0.018.1±1.115±30.2±0.026±50.8±0.059±4
9.4±0.60.3±0.124.3±1.612±30.2±0.024±41.5±0.164±3
16.8±1.70.9±0.278.4±5.322±60.8±0.242±51.5±0.236±2
合計2,466±1821.4±0.3120.8±8.019±01.2±0.132±03.9±0.248±0
均等8.0±0.70.2±0.038.0±4.025±30.2±0.126±21.0±0.249±4
11.6±1.70.5±0.036.5±3.817±20.4±0.126±31.7±0.357±3
11.5±1.00.5±0.037.9±3.918±20.6±0.045±21.1±0.238±3
合計2,301±2171.5±0.1112.4±11.619±11.2±0.133±13.8±0.348±1

不均等パターンでは夕食に2RDAでは78.4gを摂取、1RDAでは47.8gを摂取しました。

上の図は絶食状態からの16時間の全身のタンパク質正味バランス (NB) 、合成 (PS)、分解 (PB)の変化を示しています。今回はタンパク質分解はどの群でも違いはありませんでしたが、正味バランスは2RDAの両方の群で1RDA群よりも増加していました。合成は1RDAでは減少を示し、2RDAでは増加を示していました。食事パターンによる違いはありません。

上の図は朝食、昼食、夕食において食事摂取後のタンパク質摂取量 (gタンパク質摂取量/kg体重) と全身タンパク質正味バランス (NB)の関係です。食べれば食べるほど正味バランスは増加しています。

筋肉タンパク質部分合成率 (MPS)は食事パターンでの違いはありませんでしたが、1RDAよりも2RDAの方が高くなりました。

血糖値やインスリン値の違いはどの群でもありませんでした。

つまり、1回の食事で70~80gの大量のタンパク質を摂取しようが、30~40gに抑えようが、全身のタンパク質の正味バランスは変わらないし、たくさん摂取するほど正味バランスは増加するということです。

恐らく、1回の食事で30gとかの上限があるというものは、ほとんどがプロテインを使った研究ではないでしょうか?(「1回の食事のタンパク質量の上限は?」参照)人間がプロテインを摂取するようになったのは最近であり、進化の過程ではそんなものはありませんでした。食事とサプリ、プロテインとでは恐らく違いがあるのだと思います。

できる限り栄養は食事で摂った方が良いと考えています。もちろん食事でタンパク質を食べれば食べるほど正味のバランスが増加するのが、どの程度が上限なのか、または上限があるのかなどはわかりませんが、少なくとも1回の食事で体重当たり1gのタンパク質を摂っても全く問題はないでしょう。

 

「The anabolic response to a meal containing different amounts of protein is not limited by the maximal stimulation of protein synthesis in healthy young adults」

「さまざまな量のタンパク質を含む食事に対する同化反応は、健康な若年成人のタンパク質合成の最大刺激によって制限されません」(原文はここ

「Quantity of dietary protein intake, but not pattern of intake, affects net protein balance primarily through differences in protein synthesis in older adults」

「食事からのタンパク質摂取量は、摂取パターンではなく、主に高齢者のタンパク質合成の違いを通じて正味のタンパク質バランスに影響を与えます」(原文はここ

2 thoughts on “一度に大量のタンパク質を摂っても吸収される?

  1. 「少なくとも1回の食事で体重当たり1gのタンパク質を摂っても全く問題はないでしょう。」
    一日一食、ときには二日に一食の身としては、とても安心いたしました。
    以前のブログで筋肉量は食事摂取量というより運動量が影響大との記載も、実感しております。

    1. 鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。

      人類の進化の過程ではおそらく1食でしょう。それで筋肉が減るようであれば、人類は生き残っていないと思います。

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