以前の記事「筋肉繊維の組成はトレーニングで変化する」では、筋肉繊維の組成はトレーニングによって変わりうることを書きました。筋肉はブドウ糖を取り込むので、血糖値やインスリン抵抗性と大きく関係すると思います。筋肉繊維組成は、末梢インスリン作用に関連しています。
耐糖能、つまり空腹時や食後の血糖値だけを見てみると、ほとんど違いがないのに、インスリンの分泌が全く違うことがあります。
今回の研究では、平均年齢約28歳の健康な若者19人が対象で、グループ1は筋肉繊維の組成でタイプ1(遅筋)の割合が非常に高い11人、グループ2はタイプⅠの割合が非常に低い8人に、静脈内ブドウ糖負荷試験(IVGTT)によるインスリン感受性とインスリン分泌を調べました。BMIは23.6対25.8とややグループ2の方が高く、Vo2maxも44対39とグループ2の方が低くなりました。
グループ1のタイプⅠが占める面積は61%で、グループ2のタイプⅠが占める面積は36%でした。(図は原文より)
上の図は左からIVGTTのときの血糖値とインスリン、Cペプチドの推移です。グループ1は●、グループ2は○です。血糖値の変動はどちらのグループも違いがありませんでしたが、インスリン、Cペプチドの推移は大きく違っていました。インスリン分泌のピークはグループ2の方が高く、グループ1のおよそ3倍でした。第1相のインスリン放出(ブドウ糖注入後10分間のインスリン曲線下面積)は、グループ2でグループ1のほぼ4倍増加しました。
インスリン感受性を計算すると、グループ2はグループ1の約50%に減少しました。
上の図はインスリン感受性およびVo2maxとの関連を示しています。インスリン感受性はVo2max、タイプⅠの筋肉繊維の割合、毛細血管密度と相関していました。ミトコンドリア呼吸とは相関していませんでした。Vo2maxが高いほどインスリン感受性が高く、同様にタイプⅠが多いほどインスリン感受性が高いと考えられます。
上の図はインスリン分泌とタイプⅡ(速筋)の筋肉繊維の割合の関連です。インスリン分泌は、タイプⅡが占める面積のパーセンテージと強く関連していました。
つまり、インスリン感受性を良くして、インスリン分泌を減らそうと思えば、筋肉のタイプⅠを増やすことを考えた方が良いと言えます。つまり運動するにしても持久力を高くするトレーニングの方が良いということになります。筋トレのし過ぎはインスリン感受性の観点から考えると良くない可能性があります。
私はいつも運動習慣がない人には筋トレよりもウォーキングから始めるようにアドバイスしています。
また、恐らくは運動だけでなく食事の習慣、つまり糖質摂取量または血糖値によっても筋肉の組成が変化すると思います。
進化の過程では恐らく、現代のようなマッチョは存在しなかったでしょう。そして狩猟採集には持久力が必要だったはずです。そして糖質もほとんど摂取していませんでした。恐らくタイプⅠの筋肉が多いことの方が初期設定なのでしょう。
糖質制限をして持久運動が最も重要だと思います。
「Extreme Variations in Muscle Fiber Composition Enable Detection of Insulin Resistance and Excessive Insulin Secretion」
「筋線維組成の極端な変動により、インスリン抵抗性と過剰なインスリン分泌の検出が可能に」(原文はここ)
インスリンは確かに筋肥大に有用のようで、ボディビルダーはその作用を最大限引き出そうと食事調整・筋トレなどに励んでいます。
しかし冷静に考えれば命を縮める行為のようにも見えます。