アデノシン三リン酸(ATP)は「生体のエネルギー通貨」と呼ばれ、体内で必要なエネルギーを供給する物質です。果糖(フルクトース)の静脈内に一気に投与すると、肝細胞のATP貯蔵量が一時的に減少します。
どれくらい減少するかというと、次の図のようです。(図はここより)
上の図は生検で非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を患っている8人(右側)と、年齢と性別が一致した健康な対照7人(左側)のものです。25~50mLの等張塩化ナトリウム溶液に溶解したフルクトース250mg/kg体重(80kgの体重で20gの果糖)を30~60秒で静脈に注入しました。黒いバーは注入前のベースライン、真ん中の薄いグレーは注入後、濃いグレーは60分後の回復時です。コントロールではフルクトースによりATPは半減し、患者群では3分の2程度になっています。回復はコントロールではかなり回復しましたが、患者群ではあまり回復していません。
まあ、いずれにしてもフルクトースの血管内注入ではATPは大きく低下しています。
では、果糖を経口摂取した場合はどうでしょう。平均年齢は24歳で平均BMI25の自己申告で健康な男性(人数は不明)を対象に、75gの果糖を含む500mlの飲み物を5分以内に摂取してもらいました。(図は原文より)
上の図は果糖入りドリンクを飲んだ後の平均肝臓 ATPレベルです。果糖ドリンクを飲むと、早くも15 分後からATPは低下し始めました。最低値は50分後で20%低下していました。その後も80分の時点でもベースラインには戻っていません。
上の図はBMIとATP最低値までの時間との関係です。BMIが高いほどATPが低下する時間が短くなりました。その他肝臓の脂肪とも相関していました。
上の図はベースラインでのグリコーゲン量とATPの回復率との関連です。グリコーゲンが少ないほどATPの回復が良いようです。ATP合成速度とベースラインのグリコーゲンレベルの間の負の相関があるのは、恐らくベースライングリコーゲンが低い人では肝臓のグリコーゲンの需要が大きく、その結果グリコーゲン合成速度が増加し、間接的にATP合成が増加するからでしょう。
いずれにしても、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD) と⾮アルコール性脂肪性肝炎 (NASH)は、肝臓のATPレベルの恒常性障害と関連しています。さらにベースラインの肝臓ATP貯蔵量は、肥満ではより枯渇していることが⽰されています。ATP合成を刺激するAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の阻害が肝臓の脂肪蓄積の重要な部分です。そして、ATPレベルを維持できないと、肝細胞が活性酸素による損傷を受けやすくなる可能性があることも⽰唆されています。
果糖は細胞内のATPを積極的に低下させると同時に、新しいATPを作る能力を低下させます。したがって、代謝の柔軟性が妨げられます。もちろんATPレベルは生存を脅かすほど低下することはありませんが、今回の研究のように果糖を経口摂取すると肝臓の ATPが20%も低下する可能性があります。ATP減少のレベルは、肝臓がさらされる果糖の濃度、摂取量と吸収速度に関係していると考えられ、液体の果糖の場合により大きくなるでしょう。(ここ参照)
ATP不足を補うためにエネルギー摂取が刺激され、それが脂肪になります。
果糖は進化の過程では重要な糖質だったでしょうが、現代ではそれが裏目に出ています。狩猟採集時代では大量の果糖が得られるはずはなかったでしょう。現代の大量の果糖は毒物です。
まずは糖質制限、特に果糖は強く制限が必要でしょう。
「Investigating the effects of an oral fructose challenge on hepatic ATP reserves in healthy volunteers: A (31)P MRS study」
「健康なボランティアにおける肝臓のATP貯蔵量に対する経口フルクトースチャレンジの影響の調査:(31)P MRS研究」(原文はここ)
果糖ブドウ糖液糖はあらゆる
食品や飲料を「美味しくする」
便利な甘味料ですし、
果物ヘルシー信仰も
あります。
現代では健康へのハードル
(糖尿病や認知症の原因)が
色んな所に隠れてますね。