多発性嚢胞腎には糖質制限を その3 食事は治療なり

以前の記事「多発性嚢胞腎には糖質制限を その2」で書いた学会発表の研究が論文になりました。それを今回記事にしたいと思います。

対象は平均年齢41歳、平均BMI25.65の常染色体優性多発性嚢胞腎 (ADPKD)患者66人です。無作為に3つのグループに割り付けられ、1つは低炭水化物高脂肪食を摂取するケトン食グループ(KD)、月に1回3日間の水断食(WF)をするグループ、および対照群です。介入の期間は3か月でした。

糖質制限やケトン食の研究の良いところは、他の多くの食事研究とは違い、ちゃんと遵守できているかをケトン体測定によって確認できるところでしょう。(図は原文より)

上の図Aはコントロールとケトン食グループ(KD)のケトン体(βヒドロキシ酪酸)値を示しています。コントロールはケトン体が増加していませんが、KDではケトン体が大きく増加しています。図のBは水断食の呼気のアセトン値を示しています。水断食の3日間はアセトンが十分に出ているので、血中のケトン体も増加していると思われます。図のEは3回の受診のうち少なくとも2回はケトン体が十分に増加していた人の割合です。KDでは0.8mmol/L(日本の単位では800μmol/L)以上だったのが52%、0.6mmol/L以上だったのが78%、ベースラインを上回っていたのが91%でした。まずまず遵守できていたようです。

上の図Aは体重変化率(%)、Bは体重変化量、Cは体脂肪の変化率です。KDでは体重も体脂肪も大きく減少しています。しかし、図のBのように3か月してケトン食を止めると当たり前ですが体重がちょっと戻っています。

ベースラインの平均身長調整総腎臓容積 (htTKV) は 958.04mL/m、平均身長調整総肝臓容積 (htTLV) は 1305.55 mL/m でした。対照群とWF群の両方で、ベースラインから3か月の間のhtTKVの増加がありました(対照群+0.79%、WF+0.80%) 。KD群では、ベースラインからhtTKV が0.55%減少しました。htTLVも同様にKDで減少しました。

上の図AのようにクレアチニンのeGFRは対照群では-1.74%、WF群では-0.20%の減少でしたが、KD群では5.51%増加しました。図のBのようにシスタチンC のeGFRでもKD群では+13.9%増加しましたが、対照群では-3.62%、WF群で-9.52%の減少でした。しかし、KD群で3か月後にケトン食を止めるとやはりeGFRは減少してしまっています。

インスリン様成長因子1 (IGF-1) に関しては、3つのグループすべてで減少を示し、平均減少率は対照群で5.86%、KD群で6.41%、WF群で3.13% でした。

安全性に関しては、対照群と KD群のそれぞれ1人の患者で、肝機能を表すトランスアミナーゼのわずかな無症候性の増加が観察されました。さらに、KD群の4人と、対照群とWF群の患者1人がそれぞれ尿酸値の上昇を示しました。そしてやはり、KD群では4人が高コレステロール血症となりました。

また、KD群の10人の患者は、時折通常はケトン食や糖質制限の開始時に報告される、いわゆる「ケトジェニックインフルエンザ」と呼ばれる症状を示した。「ケトフル(ケトジェニックインフルエンザ)」を認めました。これには、主に頭痛、ブレインフォグ、疲労、イライラ、吐き気、睡眠障害などの症状があります。WF 群でも3人の患者がこのような症状を経験しました。

もちろん、今回の研究は3か月という短期間しか行われていません。しかし、明らかに腎機能や腎臓容積の改善が食事の変更で起こっています。逆に言えば糖質過剰摂取が腎の嚢胞を増加させて、腎機能を低下させているとも言えます。

ケトン食では想定範囲内の副作用しか起きていません。長期にケトン食は難しいとしてもスーパー糖質制限食であれば全く問題なく持続できるはずです。

糖質過剰摂取でmTORやIGF-1が強く活性化されて、嚢胞数と嚢胞サイズが増加するのだと思います。ただし今回の研究ではIGF-1は減少しましたが、コントロールと有意な差ではありませんでした。

食事は治療です。まずは糖質制限をしっかり行いましょう。

 

「Feasibility and impact of ketogenic dietary interventions in polycystic kidney disease: KETO-ADPKD—a randomized controlled trial」

「多発性嚢胞腎におけるケトジェニック食事介入の実現可能性と影響: KETO-ADPKD – ランダム化比較試験」(原文はここ

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