LDLコレステロール低下療法をもう一度見直す

現在の臨床試験でも信用できませんが、2004年以前の一部の臨床試験は様々な問題があり、2005年以降臨床試験の新しい規制規則が適応されました。スタチンも初期のころの研究では大きな死亡率の改善が報告されていますが、2005年以降の研究では一貫した死亡率の改善が実証されていません。

もちろん、ほとんどの臨床試験は製薬会社がスポンサーなので、製薬会社にとって都合の良い結果が出てもおかしくないでしょう。

実際の2005年以降のコレステロール低下、特にLDLコレステロール低下療法で死亡率に対する利益や心血管疾患への利益がどんなものか見てみましょう。(表は原文より改変)

研究介入研究期間コレステロール低下死亡に対する利益心血管疾患に対する利益
St. Francis2005Atorvastatin 20 mg/d4.3 y39%-43% LDLNRNo (P = .08)
TNT2005Atorvastatin 10 mg/d or 80 mg/d4.9 y24% LDLNo (HR 1.01; 95% CI, 0.85-1.19)Yes (HR 0.78; 95% CI, 0.69-0.89)
IDEAL2005Atorvastatin 80 mg/d or simvastatin 20 mg/d4.8 y20% LDLNo (HR 0.98; 95% CI, 0.85-1.13)No (HR 0.89; 95% CI, 0.78-1.01)
FIELD2005Fenofibrate 200 mg/d6 y12% LDLNo (HR 1.11; 95% CI, 0.95-1.29)No (HR 0.89; 95% CI, 0.75-1.05)
4D2005Atorvastatin 20 mg/d4 y42% LDLNo (RR 0.93; 95% CI, 0.79-1.08)No (RR 0.92; 95% CI, 0.77-1.10)
ASPEN2006Atorvastatin 10 mg/d4 y29% LDLNoNo (HR 0.9; 95% CI, 0.73-1.12)
SPARCL2006Atorvastatin 80 mg/d4.9 y43% LDLNo (HR 1.0; 95% CI, 0.82-1.21)Yes (HR 0.84; 95% CI, 0.71-0.99)
WHI2006Low-fat diet8.1 y7% LDLNo (HR 1.01, 95% CI, 0.81-1.27)No (HR 0.97; 95% CI, 0.9-1.06)
MEGA2006Pravastatin 10-20 mg/d5.3 y15% LDLNo (HR 0.72; 95% CI, 0.51-1.01)Yes (HR 0.67; 95% CI, 0.49-0.91)
ILLUMINATE2007Torcetrapib2.2 y25% LDLNo (HR 1.58; 95% CI, 1.14-2.19)No (HR 1.25; 95% CI, 1.09-1.44)
CORONA2007Rosuvastatin 10 mg/d33 mo45% LDLNo (HR 0.95; 95% CI, 0.86-1.05)No (HR 0.92; 95% CI, 0.83-1.02)
SEAS2008Simvastatin 40 mg + ezetimibe 10 mg/d4.4 y50% LDLNo (HR 1.04; 95% CI, 0.79-1.36)No (HR 0.96; 95% CI, 0.83-1.12)
GISSI-HF2008Rosuvastatin 10 mg/d3.9 y27%-32% LDLNo (RR 1.00; 95% CI, 0.90-1.22)No (HR 1.01; 95% CI, 0.91-1.11)
JUPITER2008Rosuvastatin 20 mg/d1.9 y49% LDLYes (HR 0.80; 95% CI, 0.67-0.97)Yes (HR 0.56; 95% CI, 0.46-0.69)
AURORA2009Rosuvastatin 10 mg/d3.8 y43% LDLNo (HR 0.96; 95% CI, 0.86-1.07)No (HR 0.96; 95% CI, 0.84-1.11)
SEARCH2010Simvastatin 80 or 20 mg/d6.7 y0.35 mmol/L LDLNo (RR 0.99; 95% CI, 0.91-1.09)No (RR 0.94; 95% CI, 0.88-1.01)
AIM-HIGH2011Niacin ER 1.5-2.0 g/d3 y16% LDLNo (HR 1.16; 95% CI, 0.87-1.56)No (HR 1.02; 95% CI, 0.87-1.21)
SHARP2011Simvastatin 20 mg/d + ezetimibe 10 mg/d4.9 y31% LDLNo (RR 1.01; 95% CI, 0.75-1.35) CHD deathYes (RR 0.83; 95% CI, 0.74-0.94)
SDHS2013PUFA or SFA diet39 mo7.8% TCNo (HR 1.62; 95% CI, 1.00-2.64)No (HR 1.70; 95% CI, 1.03-2.80)
HPS2-THRIVE2014Niacin ER 2 g/d + laropiprant 40 mg/d3.9 y16% LDLNo (RtR 1.09; 95% CI, 0.99-1.21)No (RtR 0.96; 95% CI, 0.90-1.03)
IMPROVE-IT2015Ezetimibe 10 mg/d7 y24% LDLNo (HR 0.99; 95% CI, 0.91-1.07)Yes (HR 0.94; 95% CI, 0.89-0.99)
MCE2016PUFA or SFA diet41-56 mo13% TCNo (HR 1.22; 95% CI, 1.14-1.32)NR
HOPE-32016Rosuvastatin 10 mg/d5.6 y26% LDLNo (HR 0.93; 95% CI, 0.80-1.08)Yes (HR 0.76; 95% CI, 0.64-0.91)
ACCELERATE2017Evacetrapib 130 mg/d26 mo37% LDLYes (HR 0.84;95% CI, 0.70-1.00)No (HR 1.01; 95% CI, 0.91-1.11)
HIJ-PROPER2017Ezetimibe 10 mg/d3.9 y15% LDLNo (HR 0.70; 95% CI, 0.47-1.04)No (HR 0.89; 95% CI, 0.76-1.04)
FOURIER2017Evolocumab 140 mg q 2 wk or 420 mg/mo2.2 y59% LDLNo (HR 1.04; 95% CI, 0.91-1.19)Yes (HR 0.85; 95% CI, 0.79-0.92)
REVEAL2017Anacetrapib 100 mg/d4.1 y41% LDLNo (P = .46)Yes (RR 0.91; 95% CI, 0.85-0.97)
EMPATHY2018Intensive vs standard dose statin60 mo26% LDLNo (HR 1.21; 95% CI, 0.77-1.91)No (HR 0.84; 95% CI, 0.67-1.07)
ODYSSEY2018Alirocumab 75-150 mg q 2 wk2.8 y55% LDLYes (HR 0.85, 95% CI, 0.73-0.98)Yes (HR 0.85; 95% CI, 0.78-0.93)

上の表の赤いところが介入して死亡率や心血管疾患リスクを有意に減少できたものであり、青いのは逆に死亡や心血管リスクを増加させたものです。青いリスク増加は食事療法またはTorcetrapibというHDLを増加させる薬のものです。

薬物療法で死亡リスクを減少さることができたのは、たった3つの研究だけです。CETP阻害剤のEvacetrapibという薬を使ったACCELERATEという研究では何とか死亡リスクは減少しましたが、肝心の心血管疾患のリスクは全く減らせていません。(この論文参照)

もう一つのODYSSEYという研究はPCSK9阻害剤のAlirocumab使ったものです。これは心血管疾患リスクも減少させました。(図はこの論文より)

上の図の上側がすべての死亡の累積発生率で、下側が心血管イベントの発生率です。特に死亡の発生率は虫眼鏡で拡大しないとわからないようなレベルの違いです。利益相反バリバリの研究でさえ、このレベルの違いしか出ません。

別のPCSK9阻害剤のEvolocumabをFOURIER試験は恐らく不正が行われています。以前の記事「LDLコレステロールは低いほど良い?」で書いたように、心臓死と血管死を別々にカウントすると、再判定後の心臓死はプラセボ群88人よりもエボロクマブ群の方が113人と多いことがわかりました。大なり小なりこのようなデータの操作は日常茶飯事でしょう。

死亡リスクを減少させ、心血管疾患リスクを最も低下させたJUPITER試験では、ロスバスタチンというスタチンが使われています。(図はこの論文より)

この死亡の累積発生率(図のD)も同様に虫眼鏡で見ないと違いがわからないレベルですね。これがスタチンによって唯一の死亡リスクを減らせた研究です。

スタチンを使った15の研究のうち6つしか心血管疾患リスクを有意に減らすことはできていません。何度も言いますが、利益相反バリバリなのに、この状況です。

SEAS試験では、死亡リスク、心血管疾患リスクをどちらも減らせませんでしたが、がんの発症を増加させてしまいました。(下の図はこの論文参照)

シンバスタチン – エゼチミブ群では、がんと診断された患者は105人(11.1%)であったのに対し、プラセボ群では70人(7.5%)でした。そして、上の図のようにがん関連死亡率は1.67倍にもなりました。

スタチンが本当に必要なのか?LDLコレステロールは低下させるべきなのか?多くのこれまでの利益相反があると思われる研究でさえ、死亡率を低下させることはまず考えられませんし、心血管疾患に対する利益もごくわずかでしょう。その代わり、糖尿病や筋肉の障害、がんなどのリスクが高まるかもしれません。あとはご自身で判断を。

「A Reappraisal of the Lipid Hypothesis」

「脂質仮説の再評価」(原文はここ

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