非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の病名が変わるけど…

非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD:nonalcoholic fatty liver disease)は、以前の記事「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)に代わる新たな概念 名前や概念が変わってより糖質過剰症候群であることが明らかに」で書いたように名称を変更するようですが、「fatty」という言葉も変更になり、NAFLDはMASLD(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease)へ、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)はMASH(metabolic dysfunction-associated steatohepatitis)になるようです。MASLDは日本語では代謝異常関連脂肪性肝疾患でしょうか?(この記事参照)(図は原文より)

それで実際には上の図のように、色々と分かれるみたいです。脂肪肝のさまざまな病因を包含する包括的な用語として、脂肪性肝疾患全てを「steatotic liver disease(SLD)」として、その中に色々と名称を付けた病名があるのです。

上の図は診断基準ですが、MASLDは5つの心臓代謝危険因子のうち1つ以上を含むことが必要とされています。大人の場合、1つ目の項目はBMI25以上(アジア人では23以上)または腹囲が男性で94cm、女性で80cmを超えるもの、2つ目の項目は空腹時血糖100mg/dL以上またはブドウ糖負荷2時間値140以上またはHbA1c5.7%以上または2型糖尿病、3つ目の項目は血圧130/85mmHg以上または高血圧の薬で治療、4つ目の項目は中性脂肪値150mg/dL以上または脂質低下療法中、5つ目の項目はHDLコレステロールが男性で40mg/dL、女性で50mg/dL以下または脂質低下療法中です。

簡単に言えばどれも糖質過剰症候群であり、原因は糖質過剰摂取にあると考えられます。そしてインスリン抵抗性が大きく影響していることが明らかです。そうであれば本来ならインスリン抵抗性の直接的な検査を含めるべきだと思いますが、コストの問題なんでしょう、空腹時インスリンやHOMA-IRは診断に含まれていません。

でも、空腹時インスリンを測定することは本当は重要です。糖尿病の病名が無くても、通常の健康診断でも測定するべきです。

4つ目の項目と5つ目の項目で、脂質低下療法中が含まれているのは非常に疑問です。脂質低下療法のほとんどはLDLコレステロール低下を目的としています。しかし、中性脂肪やHDLコレステロールとは直接関係しないLDLコレステロール低下療法、スタチンの治療をここに含めてしまっています。意味がわかりません。

脂肪肝にしても糖尿病にしても名称の変更が取りざたされていますが、本来は名称が問題ではなく、中身が問題です。今回の名称変更に伴い、代謝異常、特にインスリン抵抗性によって脂肪肝が起きていることがより明らかにされていると思われます。そうであるのであれば、治療法が糖質制限にならないとおかしな話です。

代謝異常は体が問題ではなく、食事が問題だから起きるのです。人間の初期設定に合わない食事をしているから、代謝がおかしくなるのです。

日本のガイドライン(NAFLD/NASH診療ガイドライン2020)では、いまだ減量、カロリー制限の言葉が並んでいますが、「高果糖含有食品の適正摂取について議論する必要がある」なんて悠長なことをまだ言っています。さらに、「減量には炭水化物,脂質の比率よりもカロリー制限が重要であることを指摘したRCTがある」なんてことも言っています。そして「これらの結果から,カロリー制限による体重の減量は、NAFLD患者の肝脂肪化を改善させる。その際は、炭水化物もしくは脂質が制限された食事を処方することを提案する。カロリー制限を長期間施行することでQOLが損なわれる危惧があるが、安全性は高く、カロリー制限による減量が肥満NAFLD患者に与える利益は少なくない。」とあります。

日本の専門医は、カロリー制限を本当に長期にできると思っているようです。そして、いまだにカロリーが問題だと思っているようです。インスリン抵抗性を増加させる糖質摂取が問題なはずです。

結局名称変更があっても、肝心の治療がカロリー制限のままでは、患者は患者のままでしょう。名称変更を機に治療法も変更してほしいものです。

脂肪肝は糖質過剰症候群です。治療は糖質制限です。

「A multisociety Delphi consensus statement on new fatty liver disease nomenclature」

「新しい脂肪肝疾患の命名法に関する多社会Delphiのコンセンサスステートメント」(原文はここ

4 thoughts on “非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の病名が変わるけど…

  1. 「高果糖含有食品の適正摂取について議論する必要がある」

    「カロリー制限の有効性と持続可能性について議論する必要がある」

    だと思いました。

    1. 鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。

      カロリー制限は一時的で、長期に続けることは非常に難しいです。
      でも専門家は食事療法は失敗しても構いません。
      薬を使わないと仕事にならないからです。

  2. NAFLD, NASHの患者さんを頻繁に診断しています。担当医から告げられた食事制限を厳守し、適度な運動で減量に成功し、ちゃんと薬も使っているのに改善傾向の乏しい方をみても、
    「糖質制限をおすすめします」
    とはなかなか病理診断書に書けないのが非専門サラリーマン医師の辛いところです。
    居酒屋とか非公式の場でならしょっちゅう言ってるんですけど。

    1. Caesiusさん、コメントありがとうございます。

      病理診断、非常に説得力がありますね。
      是非、広く情報提供されると良いと思います。

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