糖質制限でLDLコレステロールが上昇しやすい人はT3とBMIが低い

糖質制限をすると、甲状腺ホルモンのT3が低下します。T3とLDLコレステロール値は関連しています。

今回の研究では、糖質制限をしてLDLコレステロールが大きく増加する人のT3およびBMIとLDLコレステロールの関連を分析しています。

参加者は10人の健康な女性で平均年齢が32.3歳、平均BMIが20.5、ケトン食歴3.9年です。21日ケトン食(フェーズ1)を食べて、次の21日はエネルギー摂取量の55%を炭水化物から摂取する通常食(糖質過剰食)(フェーズ2)を食べ、その次の21日間はまたケトン食(フェーズ3)に戻ります。

ちゃんと食事を遵守できていたかは、ケトン体(βヒドロキシ酪酸)を測定しています。その毎日のケトン体値の平均は、フェーズ1 = 1900μmol/L、フェーズ2 = 100、フェーズ 3 = 1900μmol/Lでした。

糖質制限の研究で、他の食事の研究と大きく違うのは、このように食事を遵守できているかどうかをケトン体値で評価できるところですよね。自己申告だけのデータでは質が低過ぎます。(図は原文より)

上の図は各フェーズでの様々なパラメータです。当然のことながら、糖質過剰摂取のフェーズ2では、脂質の酸化が減少し、炭水化物の酸化が増加し、インスリンと血糖値とHOMA-IRが増加しました。それらのパラメータはケトン食に戻ったフェーズ3では回復しています。

そしてfT3は3.85から5.5に増加し、フェーズ3では3.9と戻っています。

分析すると、遊離T3およびT4はLDLコレステロールと関連していましたが、TSHもrT3もLDLコレステロールとは関連していませんでした。またBMI、脂肪量指数 (FMI)、および除脂肪量指数 (FFMI) などのすべての体組成マーカーは、LDLコレステロールと関連していました。

さらに、体組成とエネルギー代謝の間の相互作用モデルでも、fT3とBMIは両方とも、独立して有意に相互作用するLDLコレステロールの予測因子でした。そして BMI:fT3相互作用モデルがすべてのモデルの中で最も優れた予測子でした。

上の図はBMIとLDLコレステロールの推移です。BMIが低い人の方がケトン食でLDLコレステロールが高く、糖質過剰摂取で大きく低下し、そして再度ケトン食に戻るとLDLコレステロールも再度大きく増加しています。ただ、21日という短い期間なので、フェーズ1のように十分にはLDLコレステロールは回復していません。逆に考えるとたった21日の糖質過剰摂取でさえ、代謝に大きな影響を与える可能性があるのです。

 

BMIが低いほど、ケトン食によるLDLコレステロールの大きな増加と関連し、炭水化物を再度摂取するとLDLコレステロールの大きな減少を示します。そして、甲状腺ホルモンのT3もLDLコレステロールの変化を予測します。糖質制限中のエネルギー需要を満たすために、全身の脂質エネルギー輸送を調節する際に甲状腺ホルモンが重要な役割があると思われます。

絶食ではおよそ50%T3は低下します。断食後に様々な栄養素を再摂取する研究では脂質やタンパク質ではT3は変化せず、糖質の摂取量の増加に伴ってT3が増加するようです。160gほどの糖質を摂ると元の値に戻るようです。進化の観点から、人間は糖質が非常に少ない状況に適応していると考えると、糖質制限における低T3の方が正常であると思われます。つまり糖質制限でT3が低下するのではなく、糖質過剰摂取でT3が異常に増加しているのです。糖質制限ではT3を下げて筋肉の減少を防ぎ、脂質をエネルギーにするのでしょう。というよりそれが自然な人間の状態でしょう。

肝臓でのコレステロール合成を担っているHMG-CoA還元酵素は、T3により活性を有意に増加させるため、血中のコレステロールレベルはT3減少で低下してもよさそうですが、実際にはT3が減少するとLDLコレステロールは増加します。これは甲状腺ホルモンがHMG-CoA還元酵素の活性化と同時にLDLレベルを低下させるように他の調節機構が作用するためだと考えられます。

T3は肝臓におけるLDL受容体の発現を増加させ、このことが甲状腺ホルモンによる血中コレステロールの低下作用の基本でだと考えられます。甲状腺ホルモンがSREBP-2と結合して、LDL受容体が増加し、LDLコレステロールが減少すると考えられています。つまり、T3が減少すればLDL受容体も減少し、コレステロールは増加します。ただ、SREBP-2はアセチルCoAからコレステロール合成を促進する方向に働きます。これにはSREBP-1とのバランスが関与していると思われます。インスリンが多ければSREBP-1が活性化し、脂肪酸合成が増加し、T3が減少するような糖質制限ではSREBP-1は低下するので、相対的にSREBP-2が活性化することになるのかもしれません。T3とコレステロールの制御の経路は色々あり、もっと複雑なのでしょう。

詳細なメカニズムはわかりませんが、BMIが低い人ほど糖質制限でLDLコレステロールが増加しやすくなりますが、そこには甲状腺ホルモンも関係してそうです。

「Thyroid markers and body composition predict LDL-cholesterol change in lean healthy women on a ketogenic diet: experimental support for the lipid energy model」

「甲状腺マーカーと体組成は、ケトジェニックダイエット中の痩せた健康な女性のLDLコレステロール変化を予測する:脂質エネルギーモデルの実験的裏付け」(原文はここ

5 thoughts on “糖質制限でLDLコレステロールが上昇しやすい人はT3とBMIが低い

  1. 初めまして、いつも先生の書籍やブログで勉強させていただいています、境界型糖尿病50代女性です。
    スーパーとスタンダードの間くらいの糖質制限をしております。
    BMI17.6でT3基準値以下なのですが、LDLコレステロールがいつも基準値を超えていて、記事を読んでなるほどと思いました。

    cペプチドが0.9、空腹時血糖値は90、朝は耐糖能がよく、ほどほどの糖質処理できるのですが、午後からは野菜の糖質でも血糖値スパイクすることがあり、ホルモンの複雑さを感じます。

    話しはそれますが、先生おすすめの小説色々読んでみましたが、どれも面白かったです。
    いつも同じ人の作品ばかりを読んでいたのですが、お気に入りの作家さんに出会えました。
    ありがとうございました!

    1. ふくろねこさん、コメントありがとうございます。

      野菜の糖質でも血糖値スパイクですか。何の野菜をどれくらい食べて、どれほどのスパイクが起きるのでしょうか?

      1. 野菜を自給しているので、普通の感覚より量も多いと思います。青菜のチヂミ(つなぎは大豆粉)、キャベツと卵のスープ、オニオンスライス、トマト等のメニューで、食前100,1時間160位になることがあります。
        自然農法なので野菜がとても甘くおいしいので、糖質も多いのかもしれません。

        1. ふくろねこさん

          このメニューで160ですか?
          やはり個人差というのはすごく大きいですね。
          貴重な情報ありがとうございます。

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