尿酸値が高くなると腎臓に有害だとされています。そうであるならば、尿酸値を下げる薬で治療すると、腎臓には有益な効果があるはずです。
では、2017年のコクランの慢性腎臓病の進行およびその他の心血管エンドポイントに対する尿酸降下療法の利点の研究を見てみましょう。慢性腎臓病の有無にかかわらず、尿酸降下療法を試験するすべてのランダム化比較試験を分析し、12件の研究(1187人)がレビューされました。
尿酸降下療法は・・・
・6か月後、2年後、7年後の死亡率にほとんど、またはまったく影響を及ぼしません。
・どの時点でも血圧にほとんどまたはまったく変化をもたらしません。
・心血管イベント、胃腸障害、心不全入院、発疹などの有害事象の発生にほとんど、あるいはまったく影響を与えません。
・1年後にCRP(炎症を示すマーカー)を上昇させました。
・心血管マーカーにほとんどまたはまったく変化を及ぼしません。
・すべての研究およびすべての時点でタンパク尿にほとんどまたはまったく差がありません。
・すべての時点で尿酸値が低下しました。(まあ、これは当たり前でしょう)
・1年後、2年後、7年後の慢性腎臓病のステージ5である末期腎不全(end-stage kidney disease:ESKD 透析や腎移植などが必要)の発生率に差がありません。
・年で血中のクレアチニンを減少させる可能性があります。
・糸球体濾過率は、6 か月後、1年後に増加しましたが、2年後および5年後ではほとんどまたはまったく違いがありません。
つまり、尿酸降下療法が慢性腎臓病の進行を防ぐ可能性があることを示唆するデータは非常に限られ、結論は非常に不確実です。
尿酸値を下げても腎臓に有益でないとすると、腎機能を悪くさせるのは尿酸そのものではなく、高尿酸血症をもたらす原因が腎臓に有害だと考えられます。もちろん恐らくは糖質過剰摂取でしょう。
この研究の後に発表された2022年の研究を見てみましょう。eGFRが60mL/分/1.73 m2以上で、アルブミン尿のない患者269,651人(平均年齢57.4歳、94%が男性)が対象です。このうち、29,501人(10.9%)の患者が尿酸降下療法を開始し、240,150人(89.1%)の患者は開始しませんでした。追跡調査中の平均尿酸値は、治療群で 6.4mg/dL、非治療群では 7.0mg/dL でした。(図は原文より)
上の図のように、非治療群と比較して尿酸降下療法群でeGFRが60未満に低下するリスクは1.15倍、アルブミン尿の発生リスクは1.05倍でした。末期腎不全(ESKD)のリスクは違いがありませんでした。
上の図は慢性腎臓病の累積発生率です。青が非治療群、赤が尿酸降下療法群です。尿酸降下療法群の方が発生率高いですね。
上の図はAがeGFR60未満のリスク、Bがアルブミン尿発生リスクです。尿酸降下療法と腎臓の転帰との関連性は、ベースラインの尿酸値によって異なり、尿酸値が8mg/dL以下の患者では両方の転帰のリスクがより高くなり、eGFR60未満のリスクは1.24倍、アルブミン尿発生リスクは1.07倍でした。尿酸値が8 mg/dLを超える場合のリスク増加はありませんでした。
つまり、それほど尿酸値が高くないのに、尿酸降下療法を行うと、逆に腎臓にとって有害な作用を及ぼす可能性があります。なんでも下げれば良いってもんじゃないようです。もちろん、2型糖尿病の場合、高尿酸血症が危険になるかもしれません。
抗酸化作用も有する尿酸、なかなか一筋縄ではいかないように感じます。
「Uric acid lowering therapies for preventing or delaying the progression of chronic kidney disease」
「慢性腎臓病の予防または進行遅延のための尿酸降下療法」(原文はここ)
「Association of Uric Acid–Lowering Therapy With Incident Chronic Kidney Disease」
「尿酸降下療法と慢性腎臓病の発症との関連性」(原文はここ)