食事の飽和脂肪酸摂取は血中の飽和脂肪酸を増やすのか? その3

その1」「その2」の続きです。前回のその2では糖質制限で飽和脂肪酸タップリ食と不飽和脂肪酸タップリ食と普通の食事を比較していました。

今回の研究では、炭水化物を徐々に増加させ、同時に総脂肪および飽和脂肪酸を徐々に減少させる食事で血中の脂肪酸がどうなるかを調べています。

メタボリックシンドロームの16人(平均年齢44.9歳、BMI 37.9)を対象に、下の図のように最初は1日あたり47gの炭水化物から始め、346gまで3週間ごとに徐々に増加させます。飽和脂肪酸は逆に84gから始めて、32gまで減らします。(図は原文より、表は原文より改変)

食事は提供されるので、自己申告の質の低い食事アンケートとは違います。下の表のように総エネルギーは介入中は一定のままですがベースラインよりはおよそ500kcal減です。

ベースライン C1 C2 C3 C4 C5 C6
エネルギー(kcal) 3028±1049 2553±327 2528±339 2585±286 2506±333 2517±339 2509±336
タンパク質(g) 132±44 129±7 125±6 125±8 123±10 123±10 123±11
炭水化物(g) 333±149 47±2 83±4 131±3 179±2 251±12 346±28
脂質(g) 130±44 209±34 193±35 179±29 152±34 121±32 80±27
飽和脂肪酸(g) 46±19 84±14 76±15 71±11 61±15 49±14 32±11
一価不飽和脂肪酸 (g) 33±13 77±14 64±11 57±8 48±11 36±10 24±8
多価不飽和脂肪酸 (g) 20±10 31±5 35±8 35±9 27±7 24±6 14±5
コレステロール(mg) 533±218 844±96 878±91 824±68 583±131 448±136 334±154
食物繊維(g) 27±15 15±1 19±1 23±4 27±3 29±2 35±5

C1では脂質の割合が摂取エネルギーのおよそ74%にもなり、飽和脂肪酸はおよそ30%にもなります。逆にC6では脂質29%、飽和脂肪酸11%です。炭水化物はC1で7%、C6で55%です。大量の飽和脂肪酸は高脂肪の牛肉や肉、全卵、全脂肪乳製品(チーズ、全乳ヨーグルト、クリーム、バターなど)から摂取しています。専門家は発狂しそうな食材ですね。

さて、血中の脂肪酸はどうなったでしょう?
研究に入る前の3週間の慣らし食 C1 C2 C3 C4 C5 C6
中性脂肪 (wt%)
16∶1 2.92±0.61 2.59± 0.58 2.79± 0.77 3.15±0.92 3.09±1.03 3.61±1.22 3.89± 1.26
飽和脂肪酸 29.72±2.54 29.82±1.83 29.45±1.24 29.95±2.24 30.43±4.50 31.19±4.69 31.38±5.31
一価不飽和脂肪酸 40.80±3.90 40.27±3.14 40.81±2.50 39.80±2.43 40.09±2.70 40.17±3.31 39.79±2.95
コレステロールエステル (wt%)
16∶1 1.90±0.50 1.72± 0.38 2.23± 1.35 2.69±1.45 2.31± 1.00 2.40±1.17 2.84± 1.28
飽和脂肪酸 13.39±2.30 13.21±2.12 13.24±2.14 13.62±3.33 12.89±1.68 12.90±2.18 14.34±2.39
一価不飽和脂肪酸 18.23±1.56 17.95±1.42 18.50±2.33 18.73±3.51 18.18±1.97 18.03±2.56 19.44±1.99
リン脂質 (wt%)
16∶1 0.57±0.17 0.61± 0.31 0.55± 0.16 0.60± 0.22 0.60± 0.23 0.63± 0.20 0.74± 0.26
飽和脂肪酸 43.17±2.49 43.22±1.41 42.98±2.17 42.80±1.65 43.10±1.70 43.56±1.65 43.56±1.74
一価不飽和脂肪酸 11.07±1.19 11.21±1.27 11.20±1.52 10.99±1.21 11.05±0.93 11.22±0.90 11.51±1.24

上の表のように、食事による飽和脂肪摂取量はベースラインから C1(46→84g/日)まで顕著に増加し、その後 C6では32g/日まで徐々に減少したにもかかわらず、血漿中性脂肪、コレステロールエステル、リン脂質中の総飽和脂肪酸の割合は有意な変化はありませんでした。しかし、食事の飽和脂肪酸が84g/日から32g/日に減少したC1からC6にかけて、血漿中性脂肪の総飽和脂肪酸は参加者の56%、コレステロールエステルの総飽和脂肪酸は88%、リン脂質の総飽和脂肪酸は56%で実際には増加したそうです。

上の図は一価不飽和脂肪酸のパルミトレイン酸の割合についてです。ベースラインと比較して、C1ではパルミトレイン酸は血中の中性脂肪とコレステロールエステルで有意に減少しました。そして炭水化物が C1からC6に徐々に増加するにつれて段階的な増加を示しました。

前回にも少し書きましたが、血中のパルミトレイン酸は様々な疾患や不健康な状態のリスク増加を示すものと考えられています。高血糖、インスリン抵抗性、メタボリックシンドローム、炎症、2型糖尿病、心不全などのリスク増加のマーカーです。つまり、糖質過剰症候群のマーカーですね。食事に含まれるパルミトレイン酸は少ないので、血中のパルミトレイン酸は内因性(新たな脂肪酸合成)で食事による炭水化物摂取と関連していると考えられています。

血中の飽和脂肪酸の増加も様々な疾患のリスク増加を予測しますが、それは今回の研究でも示したように、食事による飽和脂肪酸の摂取とは無関係であるばかりか、糖質摂取と関連しているように思えます。

飽和脂肪酸の多量摂取(全卵、全脂肪乳製品、高脂肪肉など)は、低炭水化物摂取状態では血中の飽和脂肪酸の蓄積に寄与しません。

 

「Effects of step-wise increases in dietary carbohydrate on circulating saturated Fatty acids and palmitoleic Acid in adults with metabolic syndrome」

「メタボリックシンドロームの成人における循環飽和脂肪酸およびパルミトレイン酸に対する食事性炭水化物の段階的増加の影響」(原文はここ

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