動物性の脂は高齢者のフレイルを防ぐかもしれない

フレイル(加齢により心身が衰えた状態、虚弱)の最も大きな原因の一つが筋肉の減少でしょう。多くの高齢者は筋肉の減少に無頓着です。腰が痛い、膝が痛いなどと言って、安静にしがちです。食事は野菜が健康的だと思い込まされているので、白米と野菜が中心で、肉をあまり食べない人も多いでしょう。

以前の記事「動物性タンパク質と植物性タンパク質では筋肉増加量は違うのか?」で書いたように、筋肉を増加させるには動物性のタンパク質が非常に重要です。

今回はタンパク質ではなく、脂質のお話です。食用油について、植物油および動物性脂肪の脂のどちらを使うかで、そのフレイルとの関連を調べています。ベースラインでフレイルを発症していない65歳以上の4,838人が対象です。ただし、2257人(48.7%)はプレフレイルの状態です。平均年齢は80.8歳でした。

植物油には大豆油、コーン油、キャノーラ油などがあり、不飽和脂肪酸が豊富に含まれます。対照的に、動物性脂肪の脂のラードや牛脂などには、飽和脂肪酸が豊富に含まれています。

参加者は、料理に主にどのような油を使用していますか?という質問に回答しました。植物油(ゴマ油を含む)の主な使用と動物性脂(ラードまたはその他の動物性脂肪)の主な使用を比較しました。さらに、当初は植物油と動物性脂のどちらかを使用していたが、追跡期間中に別の油に切り替えた参加者を対象に、植物油と動物性脂の自己申告による切り替えを調査しました。まあ、いずれにしても自己申告ですので、データの質は低くなってしまいます。また、傾向スコアマッチング(PSM)というものを用いて、観察群(動物性脂)と対照群(植物性油)のベースライン特性のバランスをとることで交絡変数の影響に対処し、交絡を軽減したそうです。その他の食事内容ももちろん食事アンケートです。

追跡期間中央値3.0年の間に、1,348人(27.9%)がフレイルを発症しました。

動物性脂を使用している群は、植物油を使用している群と比較して、年齢が高く、農村部に居住し、未婚で、教育レベルが低く、経済的に依存している傾向がありました。さらに、動物性脂群は、喫煙や定期的な運動を行わない、フレイル(およびプレフレイル)でない、BMIが正常、歯が少ない、義歯を使用していない、果物や野菜や魚の摂取頻度が不十分、肉の摂取頻度が十分である傾向が高くなっていました。

つまり、どちらかという動物性脂群の方が高齢で、教育レベルが低く、運動もせず、歯が少なく、野菜なども不十分なので、一般的には健康レベルは低そうで、フレイルになる可能性はこちらの群の方が高そうに思えます。

でも実際にはフレイルの発生は植物油群と比較して動物性脂群の方は0.72倍でした。(表は原文より改変)

食用油モデル2
HR (95% CI)
常に植物油を使用1
植物油から動物性脂へ0.70 (0.52 ~ 0.95)
動物性脂から植物油へ0.87 (0.68–1.12)
常に動物性脂を使用0.63 (0.51 ~ 0.77)
植物油から動物性脂への切り替え
常に植物油を使用1
植物油から動物性脂へ0.69 (0.51 ~ 0.95)
動物性脂から植物油への切り替え
常に動物性脂を使用1
動物性脂から植物油へ1.41 (1.01–1.97)

上の表は、フレイルのリスクです。ずっと植物油を使っている人と比較して、ずっと動物性脂を使っている人ではフレイル発症リスクは0.63倍に低下し、途中から植物油から動物性脂に変更しても0.7倍でした。しかし、動物性脂から植物油に変更した人ではずっと植物油を使っている人と有意差はありませんでした。

ずっと動物性脂を使っている人と比較すると、途中で動物性脂から植物油へ変えた場合1.41倍フレイルのリスクが高くなりました。

動物性脂の摂取とフレイルとの関連の潜在的なメカニズムは完全には解明されていませんが、いくつかの仮説が提唱されているようです。動物性脂には飽和脂肪酸の含有量が多く、調理中に酸化によるダメージを受けにくく、ヒドロキシノネナール、トランス脂肪酸などの有害な副産物の生成が減少する可能性があります。逆に、植物油は特にオメガ6脂肪酸を多く含み、ヒドロキシノネナール、炎症や酸化ストレスの増加が起きる可能性があります。それらがフレイルと関連していると考えられます。

しかし、一番は動物性脂をいつも使っている人は、肉もしっかり食べているということでしょう。実はこの論文では油脂を中心にしていますが、結局は動物性タンパク質が重要なのではないかと思います。そして肉の脂身も重要なのかもしれません。

野菜はヘルシーではありません。高齢になっても(もちろん若くても)、肉をしっかりと食べ、調理にはバターやラードなど動物性の脂も積極的に使って良いでしょう。

主食は「肉」というレベルになれば、フレイルなんて起きにくいと思います。

「Association of cooking oil and incident of frailty in older adults: a cohort study」

「高齢者の食用油と虚弱性発症との関連:コホート研究」(原文はここ

One thought on “動物性の脂は高齢者のフレイルを防ぐかもしれない

  1. 私は毎日満員電車で通勤してまして、正直おじさん達の加齢臭&ミドル脂臭が強烈で朝から大変です(あれって自分では分からないのかな?)。

    加齢臭の主な原因はヒドロキシノネナールと身体の糖化、ミドル脂臭は余剰に分泌された乳酸とヒドロキシノネナール等の過酸化脂質やららしいです。

    糖質制限している人は、この乳酸の過剰分泌を抑えられるのか(解糖系代謝が少ないので)が気になります。

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