降圧薬開始と骨折のリスク

高齢者ほど血圧を下げる意味があるのかどうか、非常に疑問です。動脈硬化が進行しているのに、薬で無理矢理血圧を下げたら、脳をはじめ様々な臓器の血流は低下してしまうでしょう。

今回の研究では、長期療養型介護施設に入居している高齢者における降圧薬の開始と骨折との関連を検討しました。降圧治療開始エピソードが特定された1万2,942人と、降圧治療を開始していない5万1,768人(対照群)の計6万4,710例(平均年齢77.9±8.5歳)が対象です。

降圧治療開始は、4週間前と比べ降圧薬の数が増加した場合(すなわち治療の増強)と定義し、初めて降圧薬の投与を開始した場合も含めています。骨折は降圧薬開始後30日以内の上腕骨、股関節、骨盤、橈骨、尺骨の非外傷性骨折としました。

分析の結果、100人年当たりの骨折発生率は、降圧薬を開始した群が5.4、対照群が2.2で、骨折リスクは降圧薬開始で2.42倍になりました。降圧薬を開始した群は、入院または救急外来の受診を必要とする重篤な転倒は1.80倍、失神は1.69倍のリスクになりました。外傷性脳損傷による入院やその他の骨折を含めると2.3倍でした。(図は原文より)

上の図は、サブグループ解析の結果です。骨折リスクの大きさは、認知症があると3.28倍、収縮期血圧 140mmHg以上で3.12倍、拡張期血圧80mmHg以上で4.41倍、最近降圧薬を使用していないと4.77倍でした。

心血管疾患のリスクを低下させたいと思って降圧薬を開始したら、転んで骨折するリスクが増加してしまったのでしょう。骨折はときに余命、健康寿命を低下させます。まさに本末転倒です。

血圧の値しか見ていないと、このような悲惨なことが起きてしまいます。なぜ、血圧が高くなっているのか、低くしたらどうなるかということが考えられないのでしょう。

以前の記事「高齢者は血圧を下げすぎてはいけない! その3 転倒と失神のリスク」で書いたように、高齢者の血圧を下げると転倒や失神のリスクが増加します。また「高齢者の血圧を下げると死亡率が上がる」「高齢者は血圧が高い方が死亡率が低下する」などで書いたように、血圧低下で死亡率も上がります。

恐らく、多くの薬剤誘発性(転倒や失神による)骨折、脳損傷、そして薬剤誘発性認知症などが起きているのでしょうね。血圧の薬だけではなく、眠剤やいくつかの鎮痛剤もふらつきやめまいなどを起こすので、高齢者はフラフラでしょう。元気に歩くこともままならず、筋肉は衰え、骨も脆くなり、どんどん医療に依存させられていきます。

あなたやあなたの年老いた家族は大丈夫でしょうか?

「Antihypertensive Medication and Fracture Risk in Older Veterans Health Administration Nursing Home Residents」

「降圧薬と高齢退役軍人保健局介護施設入居者の骨折リスク」(原文はここ

One thought on “降圧薬開始と骨折のリスク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です