糖尿病診療ガイドライン2024ではエネルギー摂取量の制限が推奨されているが…

以前の記事「糖尿病診療ガイドライン2024では炭水化物制限は有効となったが…」でも書いたように、2024年5月、日本糖尿病学会の診療ガイドラインが5年ぶりに改訂されました。もともと糖尿病学会はエネルギー制限を推奨していますが、今回の改訂ではどうなったでしょう。(図はこのガイドラインより)

推奨グレードA(強い推奨)です。引用された論文をちょっと見てみましょう。

「Effectiveness of Strategies for Nutritional Therapy for Patients with Type 2 Diabetes and/or Hypertension in Primary Care: A Systematic Review and Meta-Analysis」

「プライマリケアにおける2型糖尿病および/または高血圧患者に対する栄養療法戦略の有効性:系統的レビューとメタ分析」(論文はここ

この研究はメタアナリシスですが、栄養療法の効果を分析しています。多くの栄養療法はエネルギー制限を含んでいるので、採用されたのでしょう。結果は教育/カウンセリングプログラムおよび食品代替プログラムは、2型糖尿病患者のHbA1cをそれぞれ−0.37%、−0.54%低下させる可能性が高い、となっています。ショボい。

次の論文です。

「Lifestyle weight-loss intervention outcomes in overweight and obese adults with type 2 diabetes: a systematic review and meta-analysis of randomized clinical trials」

「2 型糖尿病の過体重および肥満成人におけるライフスタイル減量介入の結果: ランダム化臨床試験の系統的レビューとメタ分析」(原文はここ

このメタアナリシスでは、19のライフスタイル減量介入研究を分析していますが、19のうち17の研究で、体重減少は12カ月で5%未満でした。2つの研究だけが、5%以上の体重減少です。5%未満だとHbA1cは-0.244低下、5%以上でも0.91の低下にすぎません。ショボい。

その次の2つの論文です。

「Efficacy of lifestyle interventions in patients with type 2 diabetes: A systematic review and meta-analysis」

「2型糖尿病患者における生活習慣介入の有効性:系統的レビューとメタ分析」(原文はここ

これの結果もHbA1cは-0.3低下にすぎません。ショボすぎ。

「Effect of lifestyle intervention in patients with type 2 diabetes: a meta-analysis」

「2型糖尿病患者における生活習慣介入の効果:メタ分析」(原文はここ

これの結果もHbA1cは−0.37低下。わざわざ調べるだけ面倒になってきました。その他の引用されている論文の分析の結果は、HbA1cは-0.29からせいぜい1%の低下にすぎない。もちろん、これで正常の範囲になる人もいるかもしれないが、HbA1cが高めの人では、ほとんど臨床的な意味がないほどの変化の場合もあるでしょう。

ステートメントの内容の詳しい説明のところには「肥満を併せ持つ 2 型糖尿病では,糖尿病の基盤病態のひとつである内臓脂肪型肥満 によるインスリン抵抗性を伴うことが多いため,体重のコントロールが推奨されている 」と書かれています。内臓脂肪を減らすには、糖質制限が最も有効だと思います。体重コントロールが重要ではなく、糖質制限をすれば、自ずと体重は減少します。2型糖尿病の原因は体重増加、肥満ではなく、糖質過剰摂取です。

そして、「総エネルギー摂取量の適正化は体重のコントロールと密接に関連しており,「糖尿病診療ガイドライン 2019」において目標体重の目安と総エネルギー摂取量の目安が論述されている」と書かれています。糖尿病診療ガイドライン2019にあった総エネルギー摂取量の目安は今回は消えていますが、エネルギー摂取量をコントロールして、体重を減らそうとしていることには変わりありません。

日本人を含むメタ解析においてエネルギー摂取量の制限の程度は体重減少と相関するものの, 90 日以上の観察期間においては HbA1c の改善の程度とは相関しなかった。また,25%のエネルギー摂取量の制限を指導した群において,標準治療群と比較して 6 ヵ月の時点では HbA1c の有意な改善を認めたが ,12 ヵ月後にはその有意差は消失していた.一方で,欧米人を中心としたメタ解析において,エネルギー摂取量の制限によって有意な減量は得られ なかったものの HbA1c は改善した

糖尿病診療ガイドライン2024では炭水化物制限は有効となったが…」で書いたように、炭水化物制限では、短期間に限り有効などとしているのに、上のように12か月後では有意差が消失したりしているのに、エネルギー制限は短期間に限り有効であるとはなっていません。都合が良いですね。

そして、そもそもエネルギー制限食をそんなに長く続けられるか、続けても安全なのか?という疑問があります。上の「90 日以上の観察期間においては HbA1c の改善の程度とは相関しなかった」という論文(ここ参照、下の図はこの論文より)を見てみましょう。

上の図は横軸が1日のエネルギー摂取量、縦軸がHbA1cの減少量を示しています。驚くことに400kcal~1600kcalまであります。400kcalのエネルギー制限で、60日や90日耐えられるでしょうか?90日以上の観察機関ではHbA1c の改善の程度とは相関しなかった、というのは恐らく、エネルギー制限に耐えられない人が続出して、自己申告は過少申告して、多くの人がある程度のエネルギー摂取をしてしまっているために、有意な差が出なくなったのではないかと思います。(「カロリー制限では何年たっても空腹感が収まらない?」など参照)

さらに、以前の記事「カロリー制限は閉経後女性の脂肪と筋肉だけでなく骨密度も減少させる」で書いたように、エネルギー制限は筋肉も骨密度も低下させる可能性があるので、悲惨なことになる可能性が十分にあります。また、無理なエネルギー制限で無理やり体重を落とした影響は、何年もずっと持続する可能性があります。以前の記事「集中的なカロリー制限と運動による無理やりな減量のその後」で書いたように、6年後にはリバウンドしていて、落ちた基礎代謝、安静時代謝が6年後でも低下したままですし、インスリン抵抗性はもとよりも悪化していました。

その後の記述の「2 型糖尿病の寛解をアウトカムとした過体重,肥満を伴う 2 型糖尿病における RCT におい ても 1 年で 15 kg 以上の減量で 86%の寛解を得た」の論文(ここ参照、下の図もこの論文より)は、下の図のように確かに15kg以上体重が減ると、寛解率が高いです。でも、実際に15kg体重減少が達成できたのは24%にすぎません。

この研究の食事療法と称する拷問は、個々の人で期間は異なりますが、3〜5か月間の非常に厳しいエネルギー制限食(825〜853 kcal/日:炭水化物59%、脂肪13%、タンパク質26%、繊維2%)です。100㎏の人の通常の摂取エネルギーは3,000kcal程度でしょうから、その約28%しか摂取できない状態で3~5か月過ごすのです。普通の日本人で考えたら1日約500kcal程度です。本当に拷問です。続いて、2〜8週間の再導入食(約50%の炭水化物、35%の総脂肪、15%のタンパク質)で少しずつ摂取エネルギーを増加させていきます。栄養士または看護師と毎月30分指導を受けます。体重のリバウンドが2kgを超える場合、その参加者は2〜4週間の部分食事交換の「レスキュープラン」を提供され、4kgを超える場合は、オルリスタットという肥満治療薬(脂質の吸収を抑える薬、日本では商品名「アライ」)が処方され、食事の交換と食事の再導入が行われて、かなり強制的に体重がリバウンドしないようにコントロールされます。なんか罰を受けているようです。もちろん、毎日の身体活動を増やすためのアドバイスも受けました。これを続けられる人はすごいですね。

下の図のように、エネルギー制限を続けられた場合(赤い線)は、12か月でも体重が減少したままです。しかし、青い線のようにエネルギー制限を止めた途端に体重は戻り始めます。当然です。

実は、この論文の研究には続きがあります。以前の記事「厳しいカロリー制限で体重減少し糖尿病が寛解…でもその後は?」では、2年後どうなったかを示しています。

(下の図はここより)

2年後では15kg以上体重を減らせた人はさらに減って、11.4%しかしません。

15kg体重が減らせた人の寛解率は1年では86.1%でしたが、2年後では70%まで低下してきています。

体重の推移は、赤い線が脱落せずに頑張った人、破線はコントロール、薄い点線は脱落した人です。脱落するとすぐに元の体重に戻っているのがわかります。つまり、当たり前ですが食事を戻せば体重は戻るのです。そして、食事を戻さずに頑張っていても、じわじわと体重が増加してくるのがわかります。

体重減少は結果でしかありません。その体重減少を得るためにここまで摂取エネルギーを減らす必要はありません。逆に糖質制限食は摂取エネルギー量を減らさずに、体重減少が起き、進行していない2型糖尿病であれば、この研究の定義の寛解はすぐに得られます。

エネルギー制限を長期に続けることは、かなり難しく、さらにリスクも高いと思います。

それでも学会はエネルギー制限を強く推奨しています。長期に続けられないことはわかっていますので、寛解しない人が続出し、薬物療法を容易に受け入れてくれるからでしょう。糖尿病は糖質過剰症候群ですから、糖質過剰摂取を止めなければ改善しません。糖質制限をすれば、筋肉を減らさず一生続けられます。

 

糖尿病診療ガイドライン2024

One thought on “糖尿病診療ガイドライン2024ではエネルギー摂取量の制限が推奨されているが…

  1. 結局、現在のガイドラインありき、
    という業界都合優先、
    患者の健康など知ったこっちゃない。

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