長期断食によるケトーシス

長期に断食を行った人の非常に興味深い研究がありました。ブヒンガー・ウィルヘルミ・クリニックというところで断食プログラムに参加した18歳から91歳の1610人のデータです。

断食プログラムの参加者全員は断食前に健康診断を受けています。断食前日に、全粒米と野菜または果物からなる600kcalのベジタリアン食を3食摂取し、断食初日の朝に下剤を投与しました。(なんで下剤?)断食の期間中、浣腸は2日おきに行われました。(なぜ浣腸?)断食中は、250mLのオーガニックフレッシュフルーツジュースと250mLの野菜スープ、20gの蜂蜜が与えられました。一部の人はスープを2回飲むことを好み、その結果、摂取エネルギーはわずか72kcal/日となりました。また、ノンカロリーの水またはハーブティーを1日2~3L飲むように指示されました。総摂取エネルギーは75~250kcal/日でした。最後の断食日には、卵乳菜食の食事が段階的に再導入され、4日間で1日あたり800kcalから1600kcalまで徐々に増加しました。(図は原文より)

上の図は、実際の断食を行った日数の分布です。6日~10日が多いですね。21日という人もいます。

上の図は断食中に提供されたジュース、スープ、蜂蜜の栄養成分です。ジュースの糖質量はやっぱり多いですね。

上の図は参加者の一部の長期断食中の32人のケトン血症とケトン尿症の相関関係を示しています。この参加者グループは12日間の絶食 (F1 から F12) を行った後、4日間の食事再開 (REF1 から REF4) を行いました。図のAは、血中のβ-ヒドロキシ酪酸値です。全体的には12日間で徐々に増加していますが、個人のデータはその日によりかなりのバラつきがあります。

図のBは、尿中アセト酢酸濃度(縦軸)として測定したケトン尿症と血中のβ-ヒドロキシ酪酸値(横軸)の関係です。尿中アセト酢酸は0 mg/dLが陰性、5 mg/dLが微量、15 mg/dLが少量、40 mg/dLが中程度、80および160 mg/dLが多量としています。もちろん、結果としては血中β-ヒドロキシ酪酸値と尿中アセト酢酸は相関していました。ただこれもバラバラです。

Cの図は、尿中にケトン体の形で失われた累積のカロリー量の推定値です。平均すると、参加者は断食1日あたり56.2 ± 39.4 kcal をケトン体の形で失いました。断食中の累積カロリー損失は124kcalから1468kcalの範囲で変動しました。個人差が大きいです。

Dの図は、断食中の運動がケトン血症の個人差を説明できるかどうかを評価するために、運動量の増加率(縦軸)とケトン血症の増加率(横軸)の関連を示しています。運動量の増加はケトン血症の急激な増加を引き起こしました。興味深いことに、断食中に最も多くの運動を行った参加者は、この32人のグループの中で最も急速にケトン血症が増加しました。

上の図は1610人を対象にした長期断食の最初の20日間のケトン尿を示しています。陰性、微量、少量、中程度、多量の順です。断食中に微量のケトンしか排泄しない人もいれば、数日後に急速に高濃度のケトンを排泄する人もいたことがわかりました。

上の図は1610人を低ケトン尿症または高ケトン尿症に分類したものです。高ケトン尿症のグループは断食を始めてすぐに尿のケトン体が増加しています。

断食中の主に炭水化物(ジュース、澄んだスープ、蜂蜜)を75~250kcal摂取するよう求められたため、ケトン尿の違いは毎日の炭水化物摂取量によるのではないかと仮説を立てました。

上の図は、1610人の断食中の食物摂取の影響を示しています。断食2日目、3日目、4日目に蜂蜜とジュースを摂取した場合の影響と、翌日のケトン尿への影響です。蜂蜜とジュースを摂取しなかった人ではケトン尿症が高いことがわかりました。まあ当たり前でしょう。対照的に、スープはケトン尿症に影響を及しませんでした。恐らくスープは糖質が非常に少ないからでしょう。より詳細に評価するために、最初の5日間のデータが揃っていた179人の摂取エネルギーで4つのグループに分けました。最低エネルギー群の45人のグループは、1日の平均摂取エネルギーが98kcalで、低ケトン尿症の人が14人、高ケトン尿症の人が31人でした。対照的に、最高エネルギー群44人のグループは、1日の平均摂取エネルギーが228kcal で、低ケトン尿症の人が25人、高ケトン尿症の人が19人でした。

上の図は、他の要因がケトン尿症に影響を及ぼすかどうかを示しています。年齢、尿素、体重、CRP、赤血球、HDLなどによって影響がありました。男性もケトン尿スコアが高かったです。図のB~Eに示すように、平均して、高ケトン尿症の患者は若く、尿素レベルが低く、体重が高く、HDL レベルが低かったのですが、差は大きくはありませんね。

上の図は、高ケトン尿群と低ケトン尿群の間で、断食が血液パラメータに異なる影響を与えるかどうかを評価したものです。断食による血糖値とHbA1cの低下は、低ケトン尿群ではそれほど顕著ではありませんでした。ケトン尿が最も低い群では、血糖値は5.4 mmol/L(97.2mg/dL)から4.8 mmol/L(86.4mg/dL)に低下しました。対照的に、ケトン尿が最も高い群では、血糖値は5.4 mmol/L(97.2mg/dL)から4.4 mmol/L(79.2mg/dL)に低下しました。

同様に、腹囲と体重の変化は、高ケトン尿群でより顕著でした。。高ケトン尿群と低ケトン尿群の間で、コレステロール(総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロール)、中性脂肪値、健康状態、血圧に差は認められませんでした。

最も影響を受けた代謝パラメータは尿酸値でした。血中尿酸値は低ケトン尿群では97μmol/L(1.63mg/dL)増加したのに対し、高ケトン尿群では206μmol/L(3.46mg/dL)も増加しました。

上の図はケトン体と尿酸値の関連を示しています。Aに示すようにケトン尿の変化は尿酸値の変化と強く相関していました。図のBは血中のケトン体との関連ですが、これもケトン体値は尿酸値の変化と強く関連していました。糖質制限でも開始して一時的に尿酸値がものすごく高くなる人がいます。血中のケトン体が増加すると尿中への尿酸排泄が減少することがわかっています。これは、腎臓でケトン体と尿酸が同じ輸送機構を競合するためです。(ここ参照)臨床的にこのようなケトン体値が高い状態の高尿酸値が痛風発作を起こすのかどうかはわかりません。

ケトーシスは空腹感が減少すると言われています。だから断食が続けられるのでしょう。逆にケトーシスにならないエネルギー制限(カロリー制限)は空腹感との戦いになってしまう可能性があります。

尿中のケトン体が個人差、バラつきが多く、陰性や微量の人がいたのは、もしかしたらケトン体が完全にエネルギー生成のために代謝されたか、または腎臓でケトン体が完全に再吸収されたのかもしれませんが、わかりません。断食中にもかかわらずケトン体のようなエネルギーに富む物質を排泄するのは無駄なことのように思えます。

腎臓はケトン体の一部を再吸収することができますが、閾値を超えると排泄されます。断食中は、ケトン体の生成率が利用率を超え、排泄されるほど過剰になってしまった可能性があります。

いずれにしても、ケトン体の増加の仕方は個人差が大きいと思われます。糖質制限である程度のケトン体値があれば、その数値の大きさに一喜一憂する必要はないでしょう。

 

「Long-Term Fasting-Induced Ketosis in 1610 Subjects: Metabolic Regulation and Safety」

「1610人の被験者における長期断食誘発ケトーシス: 代謝調節と安全性」(原文はここ

2 thoughts on “長期断食によるケトーシス

  1. 我々一般人は、
    「医師」はその知識や
    人の命を救う職業ということから
    尊敬を持ってイメージしますが、
    やはり様々で、ネットニュースに、
    「医者がやらない事」という記事が
    あり「糖質制限はやらない。
    代謝を乱し、ケトアシドーシスを発症するので危険」
    だそうです。
    ご自分で検証された様子も、根拠論文なども皆無で、素人を専門用語で惑わすのはやめて欲しいものです。

    1. 鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。

      糖質制限でケトアシドーシス、という素人医者がまだ存在するのですね。

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