「その1」では、ビールが脱水を悪化させるかどうかについて書きました。今回は高齢者についてです。高齢になると脱水のリスクが高くなると言われています。そしてアルコールやコーヒーが利尿作用のため脱水を悪化させるとしたら、高齢者にはアルコールやコーヒーは非常に危険な飲み物になってしまいます。まあそんなことあるはずないですが。
今回の研究では、20人の高齢男性(60~75歳、平均年齢69歳)におけるアルコール濃度の異なるアルコール飲料の利尿効果を調査しました。3種類のアルコール飲料(ビール、ワイン、スピリッツ) とそれらのノンアルコール飲料(ノンアルコールビール、ノンアルコールワイン、水 )を飲んでもらい尿量を測定しました。アルコール飲料の場合、アルコール摂取量は適量の30gに相当しました。ノンアルコール飲料の場合水分量が同量の飲料が与えられました。各飲料は、昼食の最初の30分間に3回に分けて摂取され、ビールは1回あたり250mL、ワインは1回あたり93mL、スピリッツまたは水は1回あたり36mLでした。アルコール濃度はビールが5%、ワインが13.5%、スピリッツが35%でした。水分の補給状態は十分で、決して脱水状態の研究ではありません。(図は原文より、表は原文より改変)
上の図は、最初の4時間の累積尿量です。統計的に言えば、2時間以降4時間まででワインとノンアルコールワイン、スピリッツと水の間で尿量に有意な差があり、アルコール入りの方が尿量は多くなったのですが、図を見てわかるように、その違いはわずかです。ビールとノンアルコールビールの間に有意な差はありませんでした。
累積尿量 (mL) | 累積尿量の差 (mL) | ||||||||
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経過時間 | ビール | ノンアルビール | ワイン | ノンアルワイン | スピリッツ | 水 | ∆ビール | ∆ワイン | ∆スピリッツ |
0 | 0 ± 0.00 | 0 ± 0 | 0 ± 0 | 0 ± 0 | 0 ± 0 | 0 ± 0 | 0 ± 0 | 0 ± 0 | 0 ± 0 |
1 | 423 ± 146 | 347 ± 179 | 260 ± 100 | 194 ± 81 | 253 ± 135 | 177 ± 74 | 73 ± 191 | 71 ± 119 | 81 ± 150 |
2 | 622 ± 170 | 576 ± 219 | 394 ± 139 | 310 ± 96 | 345 ± 162 | 277 ± 92 | 28 ± 200 | 88 ± 158 | 74 ± 146 |
3 | 725 ± 201 | 710 ± 268 | 455 ± 170 | 414 ± 119 | 403 ± 180 | 353 ± 113 | −11 ± 243 | 40 ± 172 | 57 ± 157 |
4 | 829 ± 217 | 836 ± 316 | 536 ± 192 | 504 ± 130 | 471 ± 189 | 450 ± 114 | −45 ± 276 | 35 ± 193 | 31 ± 149 |
24 | 2459 ± 252 | 2435 ± 660 | 2028 ± 252 | 2163 ± 297 | 1846 ± 276 | 1918 ± 470 | −118 ± 356 | −110 ± 340 | −75 ± 589 |
上の表は4時間までと24時間の累積尿量です。ワインとスピリッツでは確かに2~4時間の時点でノンアルコールよりも尿量が多いのですが、24時間では差がないばかりか、ビールも含めて平均値では有意ではないにしてもノンアルコールの方が尿量が多くなっていました。
強いアルコール飲料(13.5%以上のワインおよびスピリッツ)を適度に摂取すると、短期的でわずかな利尿効果が誘発されるのに対し、ビール(5%)などの弱いアルコール飲料では利尿は誘発されませんでした。たとえ多量のアルコールを摂取しても利尿効果は短期的で、その後は逆に抗利尿に傾くようです。(ここ参照)
さらに、今回の研究は体内の水分状態は正常であり、それでもアルコールの利尿作用なんて大した効果はないのです。
いずれにしても、適度なアルコール摂取で利尿作用は無いか、あってもわずかで短時間です。猛暑で脱水が悪化するほどではないでしょう。気にせず今日も酒を飲みましょう。もちろんほどほどに。
「The Diuretic Action of Weak and Strong Alcoholic Beverages in Elderly Men: A Randomized Diet-Controlled Crossover Trial」
「高齢男性における弱アルコール飲料と強アルコール飲料の利尿作用:ランダム化食事対照クロスオーバー試験」(原文はここ)
コーヒーやアルコールは利尿作用あり
脱水等のリスクがある。
これも常識とされていて、検証されて
いなかったのだと思います。
夏は脱水や熱中症の危険因子が
様々報告されますが、
やはり(コーヒーやアルコールよりも危険な)糖質過剰摂取を始めとした
食事の改善が最優先ですね。
鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。
スポーツドリンクの危険性について、マスコミが取り上げることはほとんど皆無ですね。