糖質制限は腎機能に有益?有害?

糖質制限をすると、タンパク質の摂取量が増加します。タンパク質の増加は腎機能に悪影響を及ぼすのではないかと心配する人もいます。

厚労省は「日本人の食事摂取基準(2015年版)」では、次のように書かれています。

3─1.耐容上限量の設定
 たんぱく質の耐容上限量は、たんぱく質の過剰摂取により生じる健康障害を根拠に設定されなければならない。しかし現時点では、たんぱく質の耐容上限量を設定し得る明確な根拠となる報告は十分には見当たらない。そこで、耐容上限量は設定しないこととした。

つまり、タンパク質をたくさん摂っても健康を害する報告は現在のところないと言っているのです。

低炭水化物食による腎機能に対する影響を調べた研究があります。9つの無作為化比較試験のメタアナリシスです。ただ、「低炭水化物」という定義は非常にアバウトで、かなりの範囲があります。ほとんどは慢性腎疾患のない過体重および肥満の人の研究で、糖尿病の人の研究も含まれています。

炭水化物の割合および量が、40%(140g/日未満)、30g/日未満、40g/日未満、4%(14g/日)、40%、20g/日、40%、20g/日、70~130g/日、といった具合です。途中で脱落した人の割合も多かったり、最後にはダラダラになって、最初の炭水化物の割合からかなり増加してしまっている研究もあります。もちろん、脱落した参加者を分析から除外しています。

推算糸球体濾過量(eGFR)で対照群と比較しています。

結果は、低炭水化物群ではeGFRの平均の変化は−4.7~24.0 ml/分/1.73 m2でした。一方対照群は−4.1~10.8 ml/分/1.73 m2でした。若干ではありますが、低炭水化物群の方が0.13 ml/分/1.73 m2だけ改善方向に変化が大きい結果でした。ほとんど意味のない差ですが、少なくとも有害ではないと言えるかもしれません。

もちろん、6か月~2年までの研究ばかりなので、その後のことはわからないかもしれません。しかし、糖質制限をすれば体重が減少し、高血糖や炎症が低下しするので、十分腎臓には有益である可能性があります。

 

「Impact of low-carbohydrate diet on renal function: a meta-analysis of over 1000 individuals from nine randomised controlled trials」

「低炭水化物食の腎機能への影響:9件の無作為化比較試験による1000人以上のメタアナリシス」(原文はここ

 

さらに、症例報告ではありますが、次のような糖質制限の有益な効果を示したものがあります。患者さんは1989年に2型糖尿病と診断され、過体重であり、糖尿病の家族歴を有する60歳の男性です。通常の治療を受けていましたが、1997年7月、尿中アルブミン濃度が116mg/Lが認められました。その年の患者の平均BMIは29.4、平均体重は87.0kgでした。4か月後にインスリンの注射が始まりました。一時的にHbA1cは低下しましたが、その後また増加。体重もクレアチニンも尿中のアルブミンもどんどん増加。インスリンもどんどん増える状況でした。(図は原文より、表は原文より改変)

 

上の図は一番上がクレアチニンと体重、真ん中が治療のインスリン量とHbA1c、下が尿のアルブミンと体重のグラフです。クレアチニンは日本の単位と違いますが、100μmol/L=約1.13mg/dLです。尿中の微量アルブミン量は30mg/L未満が正常で、30〜299mg/Lが微量アルブミン陽性、300mg/L以上が尿タンパク陽性です。

グラフは1997年からですが、血糖のコントロールにも関わらず、2000年にはアルブミン尿は平均2000mg/L以上に達し、血圧は160 / 90mmHgになり、薬剤を増やしてコントロールされました。

2004年1月に、1日の炭水化物を野菜と少量の硬いパンに含まれる80~90gだけとして、ジャガイモ、パン、パスタ、米および穀物を中止しました。炭水化物、脂肪およびタンパク質の割合は20:50:30でした。

そうすると、2週間後に患者はインスリン治療を中止し(代わりにロシグリタゾンが処方されましたが)、6ヵ月後に体重は19kg減少しました。 3ヶ月後にHbA1cが6.5%に低下し、血清クレアチニンの上昇が止まりました。

糖質制限前と糖質制限をはじめて約2年後のデータは次のようです。

 2004年2006年
HbA1c (%)9.46.5
Creatinine (mg/dL)3.042.43
BUN (mg/dL)42.8640.34
尿中アルブミン (mg/L)410104

かなり進行しつつある腎不全が糖質制限で改善しています。糖質制限は高血糖や炎症を抑制でき、かなり進行している腎機能の低下も改善したり、進行を抑える可能性が十分あると考えられます。

 

「A low-carbohydrate diet may prevent end-stage renal failure in type 2 diabetes. A case report」

「低炭水化物食は、2型糖尿病の末期腎不全を予防することができるかもしれない。症例報告」(原文はここ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です