最近では筋肉内の過剰な脂肪の蓄積は、肥満や2型糖尿病のインスリン抵抗性に関連していると考えられています。痩せた人や糖尿病の無い人と比較すると、肥満や2型糖尿病の人では筋肉内の脂肪の量が増加しています。
インスリン抵抗性では脂肪が多いにも関わらず、筋肉の脂肪酸の酸化能力(エネルギーにする能力)が低下しています。つまり、蓄積した脂肪が脂肪を酸化する能力を妨げているか、酸化能力の低下が脂肪を蓄積させると考えられます。
一方で、運動はインスリンの感受性を高めると考えられていますが、訓練を積んだアスリートの筋肉内には脂肪が多く認められます。
そうすると、筋肉内の脂肪蓄積とインスリン抵抗性は必ずしも関連していないと考えられます。つまり、筋肉内の脂肪量とインスリン抵抗性の関連において最も重要なのは、脂肪を酸化する能力であると考えられるのです。
今回の研究では、9人の痩せた人、8人の2型糖尿病の肥満の人、11人の糖尿病の無い肥満の人(これらの3つのグループは共に運動はしない)、9人の持久力の訓練を積んだアスリートが集められました。
彼らの筋肉を生検して分析しました。さらにインスリンの感受性も測定を行いました。(図は原文より)
上の図はインスリン感受性です。左のバーから痩せた人、肥満の人、2型糖尿病、アスリートの順です。そうすると、痩せた人とアスリートは非常にインスリン感受性が高く、肥満の人の約2倍です。一方、2型糖尿病では非常にインスリン感受性が低いことがわかります。
上の図は筋肉内の脂肪の量を表しています。痩せた人と比較して、2型糖尿病で脂肪量が約2倍多く、アスリートも糖尿病と大きく変わらず非常に多く有意差があります。
上の図はSDH染色というもので測定した筋肉の酸化能力です。アスリートの酸化能力は肥満と2型糖尿病の人と比較して有意に高くなっています。
上の図は横軸が筋肉内の脂肪量、縦軸がインスリン感受性で、●が肥満、■が痩せた人、◆が2型糖尿病です。運動しない人では筋肉内の脂肪量が多いほどインスリン感受性が低下しています。
上の図は横軸が酸化能力で、縦軸がインスリン感受性です。●が肥満、■が痩せた人、□がアスリートです。酸化能力が高くなるとインスリン感受性も増加します。ただここでは2型糖尿病の肥満の人が除外されています。
運動をしない人は基本的には筋肉内の脂肪量が高くなるとインスリン感受性が低下します。しかし、持久力のあるアスリートはインスリン感受性が高いにも関わらず、筋肉内の脂肪量が増加しています。つまり、インスリン感受性は筋肉内の脂肪量というよりはそれを処理する能力である酸化能力に関連していると思われます。
筋肉内の脂肪量は2型糖尿病とアスリートでほぼ同じであったのにもかかわらず、インスリン感受性の違いはかなり大きく、脂肪量そのものがインスリン感受性を決定するものではないことがわかります。同じように筋肉内に脂肪が蓄えられていても、アスリートはそれを利用することができるのですが、一方で2型糖尿病ではただ単に過剰に蓄積しただけの病的な状態であり、全く違うものだとわかります。
痩せた人のインスリン感受性がアスリートとほとんど同じであることを考えると、アスリートのインスリン感受性の高さは減量の影響も大きいと思われます。
また、酸化能力はミトコンドリアの数やその機能に依存しています。運動をすることによりミトコンドリアの数も増加し、酸化能力は増加すると考えられています。ケトン体もミトコンドリアを増やし酸化を増加させます。
ミトコンドリアが元気であるかどうかにより、インスリン抵抗性が決まると思われます。高血糖はミトコンドリアの機能不全を招きます。運動は必須のことではないかもしれませんが、ミトコンドリアのために少しでも体を動かすことは必要かもしれません。糖質制限+運動が最強でしょう。
「Skeletal muscle lipid content and insulin resistance: evidence for a paradox in endurance-trained athletes」
「骨格筋の脂質量とインスリン抵抗性:持久性のあるトレーニングを受けたアスリートのパラドックスの証拠」(原文はここ)