エゼチミブという下を噛みそうな名前のコレステロール低下薬であるゼチーアですが、スタチンと違い、小腸において胆汁性および食事性のコレステロール吸収を大きく阻害する薬です。これによりLDLコレステロールは低下します。
以前の記事「家族性高コレステロール血症から考える 高LDLコレステロールは心血管疾患の原因ではない その4 スタチンはアテローム性動脈硬化症を改善しない」 で、家族性高コレステロール血症の人にスタチンにゼチーアを併用しても全く効果が得られないことを書きました。大幅にLDLコレステロールは低下しているにも関わらずです。
もう一つのゼチーアを使った研究IMPROVE-IT試験ではどのような結果になったのでしょうか?急性冠症候群の人の最初の入院時のLDLコレステロール値の平均は93.8 mg/dLでした。十分基準値の範囲です。そして、スタチンのシンバスタチン(リポバス)単独または、シンバスタチン+ゼチーアの2群に分けました。その結果、1年後のLDLコレステロール値はシンバスタチン単独群では69.9 mg、シンバスタチン+ゼチーア群では53.2 mg/dLでした。スタチンだけよりもゼチーアを使った方がLDLコレステロール値24%も低下しています。素晴らしい効果です。では、その後のイベントはどうでしょうか?(図は原文より)
上の図の黒い線がシンバスタチン単独群、赤い線がシンバスタチン+ゼチーア群です。7年間でのイベント発生率はシンバスタチン単独群で34.7%、シンバスタチン+ゼチーア群で32.7%、つまり絶対リスク減少はたった2%です。NNTで言えばNNT=50です。ハザード比でも0.936で統計的にギリギリ有意差が出た程度です。全原因死亡率には有意差がありません。
この研究はもちろん、製薬会社が大きく関わっているでしょう。以前の記事「研究の結果はスポンサーが決める?」で書いたように、当然スポンサーに有益な結果になるように頑張ってデザインされたはずです。にもかかわらず、このような微妙な結果です。スポンサーの関与なしで研究をやれば、全く効果が無いか、有害であるという結果が出ても不思議ではありません。
結局、ゼチーアが効果があるかどうかという話ではなく、LDLコレステロール値低下が効果があるかどうかの話であると思います。そうすれば結論は、LDLコレステロール値が低下しても意味がない、ということになります。
ただし、LDLコレステロール値が低下することで「安心する」ことができる人には、それも一つの効果でしょう。でもLDLコレステロール値が低い方が良いですか?
「Ezetimibe Added to Statin Therapy after Acute Coronary Syndromes」
「急性冠症候群後にスタチン療法に追加されたエゼチミブ」(原文はここ)