もしもLDLコレステロールが高いことがアテローム性動脈硬化症の原因だという仮説が正しいとするならば…? その3

LDLコレステロール減少の割合とアテローム体積の変化の比較した研究があります。プラバスタチンと比較してアトルバスタチンの方がアテローム性動脈硬化症の進行をより抑制できるというのです。(図は原文より)

LDLコレステロール値が10%減少(15mg/dL) すると、18ヶ月後のアテローム体積が約1%の減少するそうです。本当でしょうか?

LDLコレステロールそのものがアテローム性動脈硬化症の原因であるのであれば、スタチンの種類によらず、LDLコレステロール値とアテロームの変化が関連しているはずです。何%低下するとか、何mg/dL低下するというのではなく、LDLコレステロール値がいくつ以上であればアテロームが増加し、いくつ以下であれば減少するということが言えるのではないでしょうか?(もちろん個人差はありますが)これでは安全なLDLコレステロール値の範囲が全くわかりません。

LDLコレステロール値の変化のパーセンテージとアテロームの体積が関連しているというのは全くしっくりきません。

このような上のグラフが本当だとしたら、もともとLDLコレステロール値が80の人は40以下に、スタチンの種類によっては30以下に下げなければアテローム性動脈硬化症が進行してしまうことになります。コレステロールは人間にとって非常に重要な物質であるのに…

例えばLDLコレステロール値が160mg/dLの人がいたとして、その人がスタチンを飲んでLDLコレステロールが40%低下したとすると、 LDLコレステロール値は96mg/dLになります。しかし、上のグラフでは、プラバスタチンの場合依然としてアテロームが増加する方向へ変化することになります。40%減少したくらいではアテロームの増加はゆっくりになったとしても食い止めることはできないことになります。

しかし、スタチンを飲んでいなければLDLコレステロール値が96というのは十分に低い値であり、アテローム性動脈硬化症のリスクが高いとは言えません。スタチンを飲まなければいけないような人と、健康な人では同じLDLコレステロール値でも、アテローム性動脈硬化症のリスクが違うとするのであれば、それはLDLコレステロールとは関係ないのではないでしょうか?

スタチンを飲んでいない人ではLDLコレステロールの変化は無いと考えると、どんどんアテローム増加することになります。家族性高コレステロール血症で通常の3倍もLDLコレステロール値が高い人は、もれなくどんどん血管が詰まってしまうはずですが、そのようにはなりません。

つまり、心血管疾患でたとえLDLコレステロール値が高かったとしても、それは2次的な変化であり、主原因ではないのだと思われます。小さな危険なLDL(sdLDL)も増加することは危険因子ではありますが、sdLDLそのものが危険ではなく、sdLDLが増加する状態が危険だと考えます。だから、もしもsdLDLだけを減少させる治療があったとして、その治療を行ったとしても恐らく心血管疾患のリスクは低下しないでしょう。数値だけsdLDLを低下させるのではなく、体内でsdLDLを作り出すような状態を改善させ、sdLDLが低下するような状態をもたらすことが重要なのです。

見た目のLDLコレステロール値が低下することは治療ではありません。心血管疾患の人では、何かの要因でLDLコレステロール値がたまたま多いだけです。LDLコレステロールだけを減らしても意味がありませんし、LDLコレステロールが増加することそのものに危険はありません。

「Effect of intensive compared with moderate lipid-lowering therapy on progression of coronary atherosclerosis: a randomized controlled trial」

「冠動脈アテローム性動脈硬化症の進行に対する中程度の脂質低下療法と比較した集中治療の効果:無作為化対照試験」(原文はここ

4 thoughts on “もしもLDLコレステロールが高いことがアテローム性動脈硬化症の原因だという仮説が正しいとするならば…? その3

  1. 高血糖による血管の内皮の炎症、虫歯菌や歯周病菌など病原菌の進入による炎症、高度に生成された炭水化物の過剰摂取による腸内環境の悪化による炎症などから、糖類の過剰摂取は血管の炎症の要因だと思います。炎症がなければLDLコレステロールがアテロームにならないだろうし、逆に炎症がおきてしまうような生活をしていてはLDLコレステロールを薬で下げても根治せず、逆に副作用リスクの方が大きいと思います。

    シミズ先生のお話は興味深く読んでいます。他にもいろいろ本を読んでいますが、この作られたLDL悪玉説は新しい話題ではないですよね。これだけ情報があるならば、真面目な医者ならだれも聞いたことがあると思います。でも、高LDL=スタチンの幼稚な考えを改めない、疑いもしない不勉強な医者が多いようで、非常にがっかりしています。増え続ける果糖中毒者、利益最優先の製薬会社、勉強しない医者ではお先真っ暗です。

    1. ゆでたまごさん、コメントありがとうございます。

      おっしゃる通りだと思います。
      ガイドライン通りの治療を行っている限り、患者さんがどのようになっても医師に非はありません。
      学会が認めた最良の治療法だからです。何も考えなければ、スタチン処方は間違いではありません。
      何も考えなければですが…

  2. こんにちは、いつも勉強させていただいています。
    糖尿病患者さんの中にも「卵は1日1個しか食べちゃいけないんだ」とか「LDLコレステロールが上がるから良くない」とおっしゃる方はまだまだ多くいらっしゃいます。

    LDLコレステロール値が上がる人がいるのはなぜで、糖質制限している時のそれと糖質をたっぷり摂取した時のそれは何がどう違うのかまったくご存じないみたいで…

    でもテレビの健康番組やネットの健康ニュースしか見ない方はなかなかそこまで考えが至らないのも仕方ないですね。これからも先生の記事で勉強させていただきます。

    1. よっしーさん、コメントありがとうございます。

      糖尿病患者さんだけでなく、医師の中でもまだまだ卵1個神話、LDLコレステロール神話は生き続けています。
      しかし、段々とテレビでも卵1個はウソであることを伝え始めていますので、
      もう少し時間が経てば、世の中は変化してくると思います。

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