神経ぺプチドY(NPY)というものをご存じでしょうか? 神経ペプチドは脳(中枢)だけではなく末梢神経系にも存在し、細胞間の信号伝達分子として働いています。脳の視床下部の弓状核は摂食行動制御の中心に位置すると考えられています。そこで産生されているものの1つがNPYです。NPYは視床下部だけではなく、脳に広範囲に発現しています。
NPYは摂食行動を促進する働きを持っていると考えられています。しかも面白いことに炭水化物摂取を強力に促進すると考えられているのです。
末梢神経系ではNPYはノルエピネフリンと共存しており、強力な血管収縮因子であると考えられています。
NPY神経を活性化するホルモンとしてグレリンやオレキシン、抑制するものとしてはレプチンやインスリンがあります。
NPYの研究は動物実験がほとんどで人間に完全にそのまま当てはめることはできないかもしれませんが、恐らく多くは共通しているとも考えられています。
通常インスリンはNPYを抑制するのですが、糖質過剰摂取で高インスリン血症になってしまうと、脳が局所のインスリン抵抗性を示してしまいます。そうすると、NPYが抑制されず、大量に産生され、食欲、特に炭水化物の摂食を増加させてしまうと考えられるのです。糖質をやめられない人の多くはこのようなメカニズムが働いている可能性が考えられます。
つまり、糖質過剰摂取→高インスリン血症→脳のインスリン抵抗性→NPYの過剰→さらなる糖質過剰摂取、となるわけです。この無限ループを脱するには当然最初の糖質過剰摂取をやめなければならないのです。
先日、学会に参加していて、興味深い話があったのです。インフルエンザの重症化にNPYが関連しているというのです。(ちょっと季節外れですが…)
NPYはインフルエンザウイルスの感染に伴って肺の貪食細胞で大量に産生されることがわかった、というものです。ただ、人間ではなくマウスです。(図は大阪大学のホームページより)
そして、NPYとその受容体を貪食細胞で欠損させたマウスはインフルエンザの重症化が抑えられ、感染後の生存率が改善することがわかりました。さらに、NPYが活性化すると、ウイルス増殖の亢進と肺組織の過剰炎症が誘導され、インフルエンザが重症化することがわかったのです。
その講演では、新しい薬の治療標的としてNPYが考えられるとしていました。やはり、医療は薬で治療することが第一なようです。
しかし、もしもこれが人間にそのまま当てはまるのであれば、糖質過剰摂取を止めることが第一だと考えます。NPYの抑制が効いていない、糖質過剰摂取、高インスリン血症をまずは脱却すべきです。そのためには糖質制限を日頃から実践することが重要だと考えます。
「Pulmonary phagocyte-derived NPY controls the pathology of severe influenza virus infection」
「肺食細胞由来NPYは重症インフルエンザウイルス感染症の病理を制御する」(原文はここ)