脂質異常症の分類の前提は糖質過剰摂取

リポタンパク質の分画を測定している方はあまりいないと思いますが、コメントで分画について質問をいただきました。ありがとうございます。

清水先生、いつも勉強させていただいています。
以前の記事を読み返している中で、LDLとリポタンパク質Bの比を見て、私も3月にリポ蛋白分画を測定していたことを思い出しました。
糖質、脂質そしてリポ蛋白分の検査結果は次のようでした。

・血糖:87 mg/dL
・HbA1c:5.3%

・TG:31 mg/dL
・HDL-C:96 mg/dL
・LDL-C:217 mg/dL

リポ蛋白分画(基準値)
・α:46.1%(26.9-50.5%)
・Preβ:8.9%(7.9-23.8%)
・β:44.1%(35.3-55.5%)

血糖関係は全く問題ないです。
脂質関係は、LDLが高いですが、TGが低いですし、HDLが高いので、糖質制限の典型的なパターンのように思います。

リポ蛋白分画は、少し調べたのですが、どういう意味なのか、よくわかりませんでした。この結果がいいことなのか、脂質代謝に問題があるということなのか、どうなのでしょうか?
αがHDL、PreβがVLDL、βがLDLに関係しているようですが、清水先生が説明されている「LDL-C/アポリポタンパク質B」と「LDL-C/β」は同じことなのでしょうか?

リポ蛋白分画と脂質関連の検査値との関係の臨床的な意味についてご指導いただければ幸いです。

よろしくお願い申し上げます。

脂質異常症というのは、動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版では、診断基準(空腹時採血)として次の表のように定めています。

LDLコレステロール140mg/dl 以上高LDLコレステロール血症
120~139mg/dl境界域高LDLコレステロール血症
HDL コレステロール40mg/dl 未満低HDLコレステロール血症
中性脂肪150mg/dl 以上高トリグリセライド血症
non-HDL コレステロール170mg/dl 以上高non-HDLコレステロール血症
150~169 mg/dl境界域高non-HDLコレステロール血症

まあ、ただの基準値を超えた場合は全て○○血症という名前を付けて、治療対象にしようとしているだけですが。
今回のコメントのようにリポタンパク分画をもとにかなり以前にWHOが分類したものが他にあります。

(上の図はここより)

脂質異常症と診断された後、リポタンパク分画によって高脂血症のタイプ(表現型分類)ないし低HDL-コレステロール血症を分類していくことがあります。
高脂血症のタイプはどのリポタンパク質が増加しているかによって分類され、I型はカイロミクロン、IIa型はLDL、IIb型はVLDLとLDL、III型はレムナント、IV型はVLDL、V型はカイロミクロンとVLDLが増加しています。

リポタンパク分画はリポタンパクの粒子の大きさや陰性荷電の違いでリポタンパクを分離する検査です。小粒子LDL(sdLDL)を測定できるリポタンパク分画の検査(PAGE法)もあります。電気泳動法や超遠心分画法という方法によって測定が行われ、分画名に違いがありますが、おおよそαリポタンパク=HDL、preβリポタンパク=VLDL、βリポタンパク=LDLという関係になります。しかし、コメントにあったように

リポ蛋白分画(基準値)
・α:46.1%(26.9-50.5%)
・Preβ:8.9%(7.9-23.8%)
・β:44.1%(35.3-55.5%)

と、通常構成比で示されるだけです。しかも、コメントを頂いた方のLDLコレステロール値は基準値を大きく上回っているのに、リポタンパク分画のβの比率は基準値ど真ん中です。糖質制限ではHDLも上昇するために比率を見る分画検査では基準値に収まってしまうのです。

Ⅱb型とⅢ型の鑑別には有用だと思いますが、97%以上はⅡa型かⅡb型かⅣ型です。通常の食生活ではⅠ型、Ⅴ型は膵炎、Ⅱa型、Ⅱb型、Ⅲ型、Ⅳ型は心血管疾患をきたすと言われているので、治療する上でこの分類が重要だとは思います。どのリポタンパクが増加しているかがわかれば、大体の原因が分かり、(糖質制限をしないのであれば)栄養療法や薬の適応を決めるのに用いられるので、有用な検査ではあると思いますが、どこまで有用かは専門家でないのでわかりません。というよりは、まれな脂質代謝に必要な酵素の欠損や、輸送蛋白の欠損などの遺伝性、家族性の疾患を診断するのでなければ、他の検査もあるので、あまり必要ではないかな?と思います。もちろん、このような遺伝性の疾患を否定しておくことは治療に必要なことではあると思います。

さらに、脂質代謝は食事と大きく関係しています。脂質の摂取量だけでなく糖質摂取量とも大きく関係していますが、これらの分類、検査の基準値は全て、糖質過剰摂取状態の人のデータをもとに作られています。ですから、糖質制限でのデータは皆無であり、これらの診断基準で考えることはできないと思います。

今回のコメントの方のデータを見てみましょう。

・TG:31 mg/dL
・HDL-C:96 mg/dL
・LDL-C:217 mg/dL

リポ蛋白分画(基準値)
・α:46.1%(26.9-50.5%)
・Preβ:8.9%(7.9-23.8%)
・β:44.1%(35.3-55.5%)

脂質異常症のガイドラインで考えれば、思いっきり高LDLコレステロール血症です。WHO分類ではⅡa型に当てはまると考えられます。しかし、Ⅱa型の中性脂肪やHDLは通常はnomalな値になります。この方の中性脂肪値は検査機関によっては基準値を下回っています。HDLコレステロールも検査機関によっては基準値を上回っています。つまり、通常の糖質過剰摂取状態のnomalな値とは大きく違っている可能性があるのです。恐らく本当のⅡa型でこのような中性脂肪値やHDLコレステロール値を認めることは非常に珍しいと思います。つまり、糖質制限下でのLDLコレステロール上昇は脂質異常症やWHO分類には当てはまらないものだと思います。

アポリポタンパク質というリポタンパク質を構成しているタンパクの中で、HDLのアポリポタンパク質であるアポリポタンパクA1はⅡa型では通常nomalですが、恐らくHDLコレステロール値96だとアポリポタンパクA1は基準値を大きく上回っているでしょう。

また、よく言われているのが、糖質制限をしたときにLDLコレステロールが増加しますが、それを見た医師が家族性高コレステロール血症(FH)だと疑うことです。

では現在のFHのヘテロ接合体診断基準(15歳以上)を見てみましょう。

1.高LDLコレステロール血症(未治療時のLDLコレステロール値180mg/dL以上)
2.腱黄色腫(手背、肘、膝等またはアキレス腱肥厚)あるいは皮膚結節性黄色腫
3.FH あるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(2親等以内)

上の3つのうち2つ以上の項目を満たすとFHと診断されます。(ここ参照)
もちろん、家族歴がある場合は疑われる可能性がありますが、家族歴が無い場合、1および2を満たすことが必要です。しかし、2の項目は無視して、1のコレステロールの値だけで多くの医師は疑ってしまいます。2の項目も3の項目も無ければFHではありません。

1の項目だけを考えて、未治療時のLDLコレステロール値180mg/dL以上はどうでしょうか?糖質制限を行っている人が未治療だとしても、糖質制限を始める前ではほとんどの人はLDLコレステロール値180mg/dL未満だったと思います。糖質過剰摂取ではLDLコレステロール値180mg/dL未満だったのですから、FHではありません。

糖質制限を行いLDLコレステロールが上昇した時に、医師にFHを疑われたら、この診断基準を示し、さらに糖質過剰摂取状態ではLDLコレステロールが180未満だということを言えば良いと思います。

もう一つの質問、「LDL-C/アポリポタンパク質B」と「LDL-C/β」は同じか?というのはここまで読んでくればわかると思いますがβは%で表される比率ですし、アポリポタンパク質Bとは別で、アポリポタンパク質BはLDLの構成する物質です。同じではありませんね。

ちなみにLDLにはアポリポタンパク質Bが1分子存在するので、LDLコレステロール/アポリポタンパク質Bの比でLDLの粒子サイズを推定できます。LDLコレステロール/アポリポタンパク質Bの比が1.2以下の場合、小粒子LDL(sdLDL)が存在する可能性が高いと言われています。(図はここ参照)

(以前の記事「LDLコレステロール/アポリポタンパク質Bの比を考えてみよう」で取り上げた論文の単位が一部間違っていて、その論文でもLDLコレステロール/アポリポタンパク質Bが1.3以上だと大きなLDL、それ以下だと小さなLDLが多くなるという内容です。)

私の以前のデータではLDLコレステロール/アポリポタンパク質Bは1.48でした。FHで糖質制限をしている方のLDLコレステロール/アポリポタンパク質Bは1.71と私よりも良い値でした。ただ、私の場合もFHの方の場合もsdLDLがゼロというわけではありません。

糖質制限での検査データの基準値はいまだに存在しません。

以前の記事「糖質制限とLDLコレステロール上昇6 みなさんの血液データから」「驚きの結果!糖質制限におけるHDLコレステロールと中性脂肪」で示したように、糖質制限をしている人では一般の糖質過剰摂取の人と全く異なる分布をしています。無理やりこれまでの糖質過剰摂取のデータから得られた基準に当てはめることは間違っていると思います。

何となく答えになりましたか?

糖質過剰症候群

5 thoughts on “脂質異常症の分類の前提は糖質過剰摂取

  1. こんばんは。
    今回の先生の記事、私にとっても非常に参考になりました。
    今年2月の健康診断の結果…
    LDLは200超えて、HDL74、TG34でした。
    これでは結果を主治医にはお見せできずにいましたが、この健康診断以前の結果をちょこっとお話ししましたら、やはりFHを疑われたのです。(1年半以上前から糖質制限)

    この主治医を説き伏せることは恐らく不可能かと思われますが、再び言われることがありましたらFHの診断基準を示し、糖質過剰摂取時では180未満でした、と伝えてみようかと思います。言えるかな…うーん…

    ところで、どうして日本糖質制限医療推進協会のお医者様がなかなか増えないのでしょうか??何かのチカラ…?なのでしょうか?
    なかなか不便です…どこも遠くなので…

    日糖医の提携医がもっとポピュラーになることを願います。

    1. みみさん、コメントありがとうございます。

      記事ではそう書きましたが、FHの診断基準を見せても多くの場合ムッとされるのがオチだと思います。
      なかなか難しいと思います。
      海外の多くのガイドライン等が糖質制限を受け入れているのに、日本は本当に遅いですね。

  2. 清水先生、詳細に解説いただき、ありがとうございます。

    先生が以前から言われている“糖質制限下のデータは糖質過剰摂取における基準は当てはまらない”ということを改めて認識しました。
    自分のデータをみても、LDLは高値にもかかわらず、リポ蛋白分画はすべて基準範囲内です。どの高脂血症の分類にも当てはまらないことがわかりました。

    家族性についてですが、身内では高脂血症の者はいないですし、先生が言われるように、私も糖質制限前にはLDLは基準範囲内でした。

    「LDL-C/アポリポタンパク質B」と「LDL-C/β」とは別モノだということはよくわかりました。とはいえ、私のようなデータは、糖質制限下の典型的なデータであり、TGやHDLの値から考えてもsdLDLは少ないと思っています。

    改めて糖質制限の奥の深さを実感しました。

    どうもありがとうございました。引き続き、勉強させていただきます。

    1. じょんさん、コメントありがとうございます。

      多くの医師は糖質を制限すると、脂質のデータが変化するとは思っていないと思います。
      糖質制限を行っている人が増えてきているので、明日より再度みなさんのデータのご提供をお願いする予定です。

  3. 清水先生、皆さんからのデータにより、新たにさまざまな傾向が見えるかもしれないですね。楽しみにしています。

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