「食いトレ」という名の虐待、パワハラ

「食べることもトレーニングだ」ということで、小学生から大学生、大人までスポーツのチーム、部活やサークルなどで、山盛りの食事を食べることがあります。これを「食いトレ」というようです。

育ち盛りで、運動もいっぱいやっていればお腹も減るでしょう。いっぱい食事を摂ることがダメなことではありません。

しかし、問題があります。一つはその食事の内容です。ちゃんと指導されている指導者や先輩もいるかと思いますが、問題になるのは「白米」ばかりをドンブリで何杯も食べることです。

いまだにお米をたくさん食べることが体を作る、スタミナをつけると思い込んでいる人がいます。「ドンブリ〇杯」食べることを強制しているチームなどもあるようです。中には吐きそうになりながら無理やり食べている人もいるようです。

ご存じのように、白米は糖質です。ドンブリ3杯も食べたら、600gぐらいの量があるでしょうか?そうするとそれだけで糖質として200gを越えます。それ以外におかずもあるでしょうから、糖質300gということもあるかもしれません。糖質1gにつき血糖値が0.5上がったとしても、血糖値が250ぐらいになっているかもしれません。運動をしているからといって糖尿病にならないとか、インスリン抵抗性が高くならないとかいうわけではありません。(「運動は必ずしもインスリン抵抗性を低下させない」参照)

手っ取り早く体重を増やすにはもちろん良いのですが、ただ脂肪が増えるだけで、筋肉はそれほど増えない可能性もあります。糖質はエネルギーになるか脂肪として蓄えられます。また、以前の記事「ボディービルダーの筋肉は見かけ倒しかもしれない」でも書いたように、筋肉が付いたとしても質の悪い筋肉になってしまう可能性もあります。AGEたっぷりの筋肉は質が悪く、故障の原因にもなりかねません。

強い体を作るなら、体の構成成分である、タンパク質と良質の脂質を十分に摂るべきです。食いトレをするなら、ご飯なしで焼肉たっぷりの方が良いかもしれません。部活などの帰りにコンビニで買うのも、おにぎりではなく、サラダチキンやチーズなどにすべきです。

もう一つの問題は、そのやり方です。先ほども少し書きましたが、指導者や先輩たちが無理やり強制的に食べさせていることです。指導者の大人が小学生や中学生に無理やり食べさせることは「虐待」、「暴力」です。本人が自ら食べることは問題ありませんが、いやいや食べさせることは非常に問題です。また、高校生や大学生ともなれば、指導者だけではなく、先輩が目を光らせ、合宿などで無理にどんぶり飯を何杯も食べさせるようです。それは医学部の部活でも行われているようです。如何に、医学部教育で栄養について教えていないかがわかります。(「残念ですが、医師は栄養や生活習慣についてほとんど知りません」参照)

このように指導者や先輩たちが無理矢理に食事を摂らせることは立派な「パワハラ」です。

正しい栄養の知識に基づいていればまだ良いのかもしれませんが、それでも本人の意思と反して無理やり食べさせることが横行しているのはもっと問題視すべきです。

これは最近、様々なスポーツの世界で起こっている「パワハラ」問題と同じレベルです。食事の重要性、正しい栄養の教育をすることは非常に大切ですが、吐くほどまでに食べさせる必要はありません。

本人が「太りたい」「筋肉の質はどうでも良いから、手っ取り早く体重を増やしたい」と思って自分で食べているのなら問題はありません。しかし、そうでないなら「虐待」、「暴力」であり「パワハラ」です。

先日全米オープンテニスで優勝を果たした大坂なおみ選手は体重を7kg落としてパフォーマンスを上げました。トレーニングや大会中は糖質制限していたようです。(関連記事はここ)同じく優勝したジョコビッチ選手も本で書いてあったように、糖質を減らし、体重を落としてパフォーマンスが上がりました。

「食べることはトレーニングだ」といって、ボディービルダーの方法を取り入れて、糖質を摂って体重や筋肉を増やしたダルビッシュ選手と、その指導を仰いだ大谷翔平選手が2人とも故障したことは果たして偶然でしょうか?

指導者や先輩たちにに反発することは試合などに出れなくなる可能性もあります。だから子供たちは声を上げることはできません。「パワハラ」問題に揺れる日本のスポーツ界ですが、子供の頃から行われている「食いトレ」という名の「虐待」「パワハラ」を今こそ何としても根絶すべきだと思います。

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コメント

  1. choruten より:

    初めまして。
    9か月ほど前に、清水先生の著書を手に取ったことがきっかけで糖質制限を始めた者です。まだまだ糖質制限については勉強中ですが、先生自身もアスリートということもあり、スポーツに関する記事は特に興味深く拝読しております。

    私自身もランナーでして、フルマラソンは2時間20~30分台で走りますが、40歳でサブ20を目指したいと思い立ち、競技力の向上につながりそうな情報や理論を模索していた時に先生の著書と出会ったと記憶しています。(ちなみに、先生も出走されていた今年の洞爺湖マラソンも走り、2時間30分台でした。)

    今回の記事もそうですが、女子アスリートの食事制限なども、私自身もやもやしていたことをズバッと言われておられるのを拝見し、うれしくてメールいたしました。

    私自身、中学時代から陸上の長距離に打ち込み、アメリカの大学でスポーツ生理学などを学んできたバックグラウンドがありますが、その視点からいうと、日本の指導者のレベルというものは低すぎると言わざるをえません。
    本来、生理学や解剖学、栄養学などの学問を理解することは、スポーツの指導者としてスタートラインです。にもかかわらず、日本の場合、学生時代や現役時にスポーツにのみ打ち込み実績を残した選手が、指導者に必要な知識を得ることなくその立場についているのがほとんどのように思われます。経験はあっても、論理的に他の選手に何かを伝えることはできるとは思えません。昔から、「一流選手は良い指導者にはなれない」とスポーツ界で耳にしますが、こんなものはジンクスなどではなく必然だ、と私などは思っています。

    まともな指導もできないので、結局、体重を減らせば(増やせば)記録は上がる(もちろん裏付けも、体系立った方法論もなく)といったことを、半ば強制的に選手に行わせる。女子の高校駅伝の強豪校では、練習後に一人一人、コーチの目の前で体重計に乗らされる、といった記事を新聞か何かで目にした時は、れっきとしたセクハラなんじゃないかとすら憤りすら覚えたことを覚えています。それでつぶれた選手は使い捨て。運良く残り、成績を残した選手が、自分が受けた指導法が正しい指導と思い込み同じことを繰り返す。日本のスポーツ界では、このようなばかげた負のサイクルが数十年と続いてきて、いまなお続いていることは、一スポーツ愛好者として残念でならないですし、非常にやきもきします。

    解決への糸口としてひとつは、選手以前に指導者を教育することでしょうが、難しいながらも、その動きが活発になること期待するばかりです。
    微力ながら私にできることとして、自分の体で糖質制限の効果を実証し(n=1ですが)、マラソンのパラダイムシフトをアピールできたらと思います。

    私も道内在住ですので、先生の講演会などが開催されることを楽しみにしております。
    長文失礼しました。

    • Dr.Shimizu より:

      chorutenさん、コメントありがとうございます。

      フルマラソンは2時間20~30分台素晴らしいですね。恐れ入ります。
      それにしても、本当に日本のスポーツの世界は悲惨だと思います。理論が無さすぎです。
      指導者は自分では勉強するつもりもないでしょうから、指導者の資格制度などを整備すべきです。
      スポーツ庁が動けばいいのですが、期待薄でしょう。

      道内在住ということなので、どこかでお会いできれば良いですね。糖質制限でマラソン、良い結果が出ると良いですね。