ケトランはカーボローディングならぬTGローディング

以前の記事「筋肉内の脂肪の量とインスリン抵抗性」で筋肉内には脂肪が存在していて筋肉内の脂肪がインスリン抵抗性を起こしている原因の一つとというよりも、その脂肪を酸化する能力の方が関連しており、重要であると思われるということを書きました。

高脂肪食で筋肉の脂肪を蓄えることを、カーボローディングならぬ「TGローディング」と勝手に名付けます。TGは中性脂肪のことです。ケトラン(ケトン体ランニング)ではこの筋肉の中の脂肪が非常に重要な役割を果たすのではないかと考えています。(ケトランについては「ケトン体ランニング「ケトラン」、試行錯誤の人体実験」などを参照)

私はレース前にもちろんカーボローディングはしません。クロテッドクリームや卵、チーズなどでTGローディングを意識しています。

拙著「運動するときスポーツドリンクを飲んではいけない」を最初に書いたときには筋肉内の脂肪蓄積について触れていたのですが、読む方が混乱するのではないかと思い、省くことにしました。

筋肉の中でタイプ1の筋線維(遅筋)に最も多くの脂肪を含んでいます。いわゆる持久系の筋肉です。

下の写真はアスリートの筋肉を電子顕微鏡で見た写真です。(写真はこの論文より)

 

 

もう一枚別の論文の写真です。

fiまたはmf:筋原線維 li:脂肪滴 mi:ミトコンドリア gl:グリコーゲン cap:毛細血管

写真のように筋肉内にはっきりと脂肪が確認できます。

この筋肉内脂肪はフルマラソンやウルトラマラソンの後には著明に減少、または枯渇すると言われています。つまり、エネルギーとして使用されたと考えられます。非常に強度の高い運動では筋肉内グリコーゲンがエネルギーとして使用されるのと同様に、持久系の運動では筋肉内脂肪がエネルギー源になるのです。

運動後に減少した筋肉の脂肪は高脂肪食を摂ることにより回復します。55%の高脂肪食で30時間後にベースライン以上に戻った一方で、15%の低脂肪食では30時間後でも筋肉の脂肪が回復しないという報告もあります。10%の低脂肪食では70時間後でもベースラインに戻らないという報告もあります。典型的な食事の24%の脂肪を含む食事であっても48時間後にはまだ回復しないという報告もあります。(図は原文より)

 

上の図は運動後の食事による筋肉の脂肪の違いを表しています。高炭水化物食は筋肉の脂肪量は低下したり上昇したり様々です。しかし、人間の代謝を考えた場合、高炭水化物で脂肪量が増えたのは高血糖になり、ブドウ糖がインスリンにより大量に筋肉に取り込まれ、それが脂肪に変換されたものではないかと思います。このようなブドウ糖からできた脂肪はインスリン抵抗性のもとになる可能性があります。それは、そのような食事はインスリンが過剰分泌されるので、脂肪をエネルギーにしにくい状態だからです。

一方低炭水化物の食事の場合、程度の差こそあれ筋肉の脂肪は増加しています。ただ食事なしの絶食であっても脂肪が増加していることを考えると、やはり問題は糖質の量ではないかと考えられます。筋肉脂肪を増加させるにはインスリン分泌を抑制することが重要であることを示唆しています。

筋肉の脂肪がパフォーマンスにどのように影響するかはまだはっきりわからないところがあります。しかし、ケトランではかなりのエネルギーを脂肪から得ており、マラソンレース後にかなり脂肪が低下することを考えると、TGローディング、運動後の補充は非常に重要ではないかと思います。長期に糖質制限をした場合の筋肉内脂肪の役割、パフォーマンスへの影響などに付いてはまだわかっていないというのが実情ではあります。

上の写真の研究では、鍛えられたアスリートで、高脂肪食(低糖質食ではありません)と低脂肪食を5週間行い比較しています。その図は下です。

 

上の図の左のグラフが筋肉内の脂肪量です。右のグラフがグリコーゲンです。バーは左から、ベースライン、高脂肪食、低脂肪食です。高脂肪食で筋肉脂肪が約2倍になり、ミトコンドリアとグリコーゲンの量には差がありませんでした。また、パフォーマンスには影響しなかったという結果になっています。

エリートの持久系のアスリートではコントロール群と比較して2.5倍もの筋肉内脂肪を蓄えているという報告もあります。脂肪は太るからという理由で避けているアスリートが、糖質をいっぱい摂ってグリコーゲンを増やすことが本当に良いことなのかどうかもやはり疑問です。グリコーゲンばかり意識しなくても脂肪が良い働きをしてくれる可能性は非常に高いのではと思います。しかし、筋肉の脂肪をしっかり利用するのはインスリンが出ないように気をつけなければなりません。レース直前までの糖質摂取は脂肪利用に逆効果です。

また、糖質制限をしているアスリートでは糖質を制限しているにもかかわらず、通常の食事のアスリートと比べて蓄えているグリコーゲン量も同様で、運動後の回復の程度も同様だという報告があります。糖質をたっぷり摂ることだけがグリコーゲンを蓄えるのではないということです。

運動を全くしなくてもTGローディングにより筋肉の脂肪は増加します。しかし、それを燃やすことなく、ただ蓄積するだけでは以前の記事に書いたように、インスリン抵抗性を起こすだけです。糖質制限であれば積極的に脂肪をエネルギーに変えていきますので、インスリン感受性が良くなります。

高血糖、高インスリン血症を招き、炎症を促進するカーボローディングと比較するとTGローディングは非常に安全です。カーボローディングからそろそろ離脱しましょう。

 

 

「Muscle triglyceride and glycogen in endurance exercise: implications for performance」

「持久運動における筋肉中性脂肪とグリコーゲン:パフォーマンスへの影響」(原文はここ

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