コレステロールを低下させることにより、いまだに心血管疾患を予防できると思っている人がいます。コレステロール悪玉説が様々な治療のガイドラインのベースになっているのですが、ちゃんとしたエビデンスはあるのでしょうか?
2004年の臨床試験規制の発表後に報告されたコレステロール低下のランダム化比較試験をすべて見てみると、LDLコレステロールを低下させることの有益性の証拠は認めていません。
29の研究のうち2つだけが死亡率への有益性を示しました。そして、ほぼ3分の2は心臓血管疾患への有益性を認めませんでした。下の表を見てください。(表は原文より改変)
年 | 介入 | 研究期間 | コレステロール低下 | 死亡率への有益性 | 心血管疾患への有益性 |
---|---|---|---|---|---|
2005年 | アトルバスタチン20mg /日 | 4.3 年 | 39%-43%LDL | ー | なし(P = 0.08) |
2005年 | アトルバスタチン10mg / 日または80mg / 日 | 4.9年 | 24%LDL | なし(HR1.01; 95%CI、0.85-1.19) | あり(HR 0.78; 95%CI、0.69-0.89) |
2005年 | アトルバスタチン80mg / 日またはシンバスタチン20mg / d | 4.8年 | 20%LDL | なし(HR 0.98; 95%CI、0.85-1.13) | なし(HR 0.89; 95%CI、0.78-1.01) |
2005年 | フェノフィブラート200mg /日 | 6年 | 12%LDL | なし(HR1.1; 95%CI、0.95-1.29) | なし(HR 0.89; 95%CI、0.75-1.05) |
2005年 | アトルバスタチン20mg /日 | 4年 | 42%LDL | なし(RR 0.93; 95%CI、0.79-1.08) | なし(RR 0.92; 95%CI、0.77-1.10) |
2006年 | アトルバスタチン10mg /日 | 4年 | 29%LDL | なし | なし(HR 0.9; 95%CI、0.73-1.12) |
2006年 | アトルバスタチン80mg /日 | 4.9年 | 43%LDL | なし(HR 1.0; 95%CI、0.82-1.21) | あり(HR 0.84; 95%CI、0.71-0.99) |
2006年 | 低脂肪食 | 8.1年 | 7%LDL | なし(HR 1.01,95%CI、0.81-1.27) | なし(HR 0.97; 95%CI、0.9-1.06) |
2006年 | プラバスタチン10-20mg /日 | 5.3年 | 15%LDL | なし(HR 0.72; 95%CI、0.51-1.01) | あり(HR 0.67; 95%CI、0.49-0.91) |
2007年 | トルセトラピブ | 2.2 年 | 25%LDL | なし(HR 1.58; 95%CI、1.14-2.19) | なし(HR 1.25; 95%CI、1.09-1.44) |
2007年 | ロスバスタチン10mg /日 | 33ヶ月 | 45%LDL | なし(HR 0.95; 95%CI、0.86-1.05) | なし(HR 0.92; 95%CI、0.83-1.02) |
2008年 | シンバスタチン40mg +エゼチミブ10mg / 日 | 4.4年 | 50%LDL | なし(HR1.04; 95%CI、0.79-1.36) | なし(HR 0.96; 95%CI、0.83-1.12) |
2008年 | ロスバスタチン10mg /日 | 3.9年 | 27%〜32%LDL | なし(RR 1.00; 95%CI、0.90-1.22) | なし(HR1.01; 95%CI、0.91-1.11) |
2008年 | ロスバスタチン20mg /日 | 1.9年 | 49%LDL | なし(HR 0.81; 95%CI、0.63-1.04) | あり(HR 0.55; 95%CI、0.43-0.69) |
2009年 | ロスバスタチン10mg /日 | 3.8 年 | 43%LDL | なし(HR 0.96; 95%CI、0.86-1.07) | なし(HR 0.96; 95%CI、0.84-1.11) |
2010年 | シンバスタチン80または20mg / 日 | 6.7年 | 0.35mmol / L LDL | なし(RR 0.99; 95%CI、0.91-1.09) | なし(RR 0.94; 95%CI、0.88-1.01) |
2011年 | ナイアシンER 1.5-2.0g / 日 | 3年 | 16%LDL | なし(HR1.16; 95%CI、0.87-1.56) | なし(HR1.02; 95%CI、0.87-1.21) |
2011年 | シンバスタチン20mg / 日 +エゼチミブ10mg / 日 | 4.9年 | 31%LDL | なし(RR 1.01; 95%CI、0.75-1.35)CHD死亡 | あり(RR 0.83; 95%CI、0.74-0.94) |
2013年 | PUFAまたはSFA食 | 39ヶ月 | 7.8%総コレステロール | なし(HR 1.62; 95%CI、1.00-2.64) | なし(HR 1.70; 95%CI、1.03-2.80) |
2014 | ナイアシンER 2g / 日 +ラロピプラント40mg / 日 | 3.9年 | 16%LDL | なし(RtR1.09; 95%CI、0.99-1.21) | なし(RtR 0.96; 95%CI、0.90-1.03) |
2015年 | エゼチミブ10mg /日 | 7年 | 24%LDL | なし(HR 0.99; 95%CI、0.91-1.07) | あり(HR 0.94; 95%CI、0.89-0.99) |
2016年 | PUFAまたはSFA食 | 41-56か月 | 13%総コレステロール | なし(HR1.2; 95%CI、1.14-1.32) | ー |
2016年 | ロスバスタチン10mg /日 | 5.6年 | 26%LDL | なし(HR 0.93; 95%CI、0.80-1.08) | あり(HR 0.76; 95%CI、0.64-0.91) |
2017年 | エバセプチブ130mg /日 | 26ヶ月 | 37%LDL | あり(HR 0.84; 95%CI、0.70-1.00) | なし(HR1.01; 95%CI、0.91-1.11) |
2017年 | エゼチミブ10mg /日 | 3.9年 | 15%LDL | なし(HR 0.70; 95%CI、0.47-1.04) | なし(HR 0.89; 95%CI、0.76-1.04) |
2017年 | エボロクマブ140mg 2週間毎または420mg /日 | 2.2 年 | 59%LDL | なし(HR1.04; 95%CI、0.91-1.19) | あり(HR 0.85; 95%CI、0.79-0.92) |
2017年 | アナセラピブ100mg /日 | 4.1 年 | 41%LDL | なし(P = .46) | あり(RR 0.91; 95%CI、0.85-0.97) |
2018年 | 強化と標準用量スタチン | 60ヶ月 | 26%LDL | なし(HR 1.21; 95%CI、0.77-1.91) | なし(HR 0.84; 95%CI、0.67-1.07) |
2018年 | アリロクマブ75-150 mg 2週間毎 | 2.8 年 | 55%LDL | あり(HR 0.85,95%CI、0.73-0.98) | あり(HR 0.85; 95%CI、0.78-0.93) |
LDLコレステロールがアテローム性動脈硬化性動脈硬化症のプラークの成分であることは確かです。しかし、LDLコレステロールが原因だという証拠はありません。LDLコレステロールが原因であるという主張により、LDLコレステロールを低下させることが心血管疾患を予防になるということが正当化されています。そして強固な証拠もなくスタチンが使われています。
しかし、上のようにエビデンスは矛盾した結果を示しています。そうであるならば、そろそろ、コレステロール悪玉説をやめるべきです。スタチンは様々な副作用があるにもかかわらず、矛盾した証拠を無視して、むやみに不必要な人に処方されています。
以前の記事「家族性高コレステロール血症から考える 高LDLコレステロールは心血管疾患の原因ではない その1」「その2」などにも書いたように、家族性高コレステロール血症の人でさえ、コレステロールを低下させる恩恵はほとんどありません。
「LDLコレステロールは本当に動脈の血管内腔から血管内皮を通って、アテローム性動脈硬化を起こすのか? その9 別のコレステロールの運び屋」でも書いたように、コレステロールを運ぶのもLDLだけではありません。そして、凝固系の問題が大きくかかわっていると考えられ、単純なLDLコレステロール低下療法で解決できるような問題ではないと思われます。
「非常に低いLDLコレステロールは死亡率や心疾患リスク低下に関連していない」で書いたように、LDLコレステロール値の関連性は非常に低い可能性の方が高いのです。
LDLの中で危険なLDLと考えられているsdLDLはHDLや中性脂肪値とのかかわりの方が大きく、さらにHDLや中性脂肪値は糖質摂取との関連も大きいのです。(「糖質制限とLDLコレステロール上昇」など参照)
副作用に苦しむスタチンよりも糖質制限の方がリスクもなく、効果も大きいと思います。
「A Reappraisal of the Lipid Hypothesis」
「脂質仮説の再評価」(原文はここ)
先生のブログいつも拝見し、自分の糖質制限の確信の拠り所としています。
この投稿の最後の部分に「スタチンをむやみに不必要な人に処方されている」
とありますが、各所ブログ内の先生の見解ではスタチンを必要とする病状、
症状はないと述べていると思いますが、あえてスタチンを必要とする人とは
どのような病状とお考えでしょうか
T.Iさん、コメントありがとうございます。
絶対的な必要性のある人はいないと思います。
糖質制限をせずに、LDL低下を心の拠り所にしたい人には相対的に必要なのかもしれません。