糖質制限は非アルコール性脂肪肝を劇的に改善する

糖質制限は血糖値が安定したり、HbA1cが低下したり、体重が減ったりするだけではありません。2型糖尿病の人が1年間糖質制限をすると非アルコール性脂肪肝が劇的に改善します。

非アルコール性脂肪肝は以前の記事「脂肪肝はただの肥満の症状ではない」で書いたように、そのまま経過すると、肝線維症、肝がん、肝不全へとなってしまう可能性が高くなります。

当然ですが、2型糖尿病には非アルコール性脂肪肝が併発することは珍しくありません。HbA1cが8.5以上の糖尿病では70%ほどの人が非アルコール性脂肪肝だという報告もあります。

今回の研究では2型糖尿病の人に糖質制限を1年間継続し、1年後の脂肪肝などの状態を分析しています。糖質制限を行った262人と標準的な糖尿病治療を受けた87人の患者を比較しています。両グループ合わせて330人は非アルコール性脂肪肝疾患と考えられ、69人は肝線維症の可能性は低いと考えられました。(図は原文より、表は原文より改変)

下の表はベースライン時および糖質制限群および標準治療群の1年後における代謝、肝臓関連および非侵襲的マーカーの平均変化です。NAFLD肝脂肪スコアが-6.40より大きいと脂肪肝の可能性が非常に高く、NAFLD線維症スコアが-1.455未満であるとほぼ確実に肝線維症を除外できます。つまり、NAFLD肝脂肪スコアは数値が大きくなるほど脂肪肝の可能性が高く、悪い方向になります。NAFLD線維症スコアはマイナスの数値が大きくなるほど肝線維症の可能性が低くなり、良い方向になるということです。

 ベースライン1年後変化量
全体
非侵襲性バイオマーカー   
 NAFLD肝脂肪スコア   
 糖質制限3.261.30−1.95
 標準治療3.253.710.47
 糖質制限 対 標準治療(差)0.01−2.41 
 NAFLD線維症スコア   
 糖質制限−0.32−0.97−0.65
 標準治療−0.45−0.190.26
 糖質制限 対 標準治療(差)0.13−0.78 
肝臓関連検査   
 アルブミン(g/dL)   
 糖質制限4.434.510.08
 標準治療4.424.42−0.01
 糖質制限 対 標準治療(差)0.010.09 
 血小板(×10 9   
 糖質制限250.52227.60−22.92
 標準治療252.96241.87−11.09
 糖質制限 対 標準治療(差)-2.44−14.27 
異常なALT(GPT)の人
非侵襲性バイオマーカー   
 NAFLD肝脂肪スコア   
 糖質制限3.961.46−2.50
 標準治療4.444.530.09
 糖質制限 対 標準治療(差)−0.48−3.06 
 NAFLD線維症スコア   
 糖質制限−0.43−1.14−0.71
 標準治療−0.62−0.350.26
 糖質制限 対 標準治療(差)0.19−0.79 
代謝パラメータ  
 HbA1c(%)   
 糖質制限7.506.16−1.35
 標準治療7.107.320.22
 糖質制限 対 標準治療(差)0.41−1.16 
 空腹時血糖値(mg/dL)   
 糖質制限158.34124.05−34.29
 標準治療139.79152.1312.34
 糖質制限 対 標準治療(差)18.55−28.09 
 空腹時インスリン(m/UL)   
 糖質制限30.1618.01−12.15
 標準治療32.1530.01−2.14
 糖質制限 対 標準治療(差)−1.99−12.00 
 HOMA-IR   
 糖質制限9.575.18−4.38
 標準治療11.5113.732.22
 糖質制限 対 標準治療(差)-1.95

−8.56

 
 中性脂肪(mg/dL)   
 糖質制限197.54162.59−34.95
 標準治療232.18267.2935.11
 糖質制限 対 標準治療(差)−34.64−104.70 
 コレステロール(mg/dL)   
 糖質制限181.58197.1315.55
 標準治療178.91182.693.78
 糖質制限 対 標準治療(差)2.67±7.8214.44 
 HDLコレステロール(mg/dL)   
 糖質制限41.6750.188.51
 標準治療36.6033.45−3.15
 糖質制限 対 標準治療(差)5.0716.73 
 LDLコレステロール(mg/dL)   
 糖質制限100.31117.1616.86
 標準治療98.1290.22−7.90
 糖質制限 対 標準治療(差)2.1926.94 
肝臓関連検査
ALT(GPT)(U/L)   
 糖質制限37.0023.55−13.44
 標準治療37.8638.040.18
 糖質制限 対 標準治療(差)−0.86−14.49 
AST(GOT)(U/L)   
 糖質制限27.1119.77−7.34
 標準治療27.6928.550.86
 糖質制限 対 標準治療(差)−0.59−8.78 
ALP(U/L)   
 糖質制限74.0764.53−9.55
 標準治療79.7981.021.23
 糖質制限 対 標準治療(差)−5.72−16.49 
 アルブミン(g/dL)   
 糖質制限4.504.560.06
 標準治療4.524.48−0.04
 糖質制限 対 標準治療(差)−0.020.08 
 血小板(×10 9   
 糖質制限247.45225.87−21.57
 標準治療249.46240.78−8.69
 糖質制限 対 標準治療(差)−2.02−14.90 
腎機能検査
 クレアチニン(mg/dL)   
 糖質制限0.860.82−0.05
 標準治療0.830.83−0.01
 糖質制限 対 標準治療(差)0.03−0.01 
eGFR(CKD-EPI)   
 糖質制限81.5383.321.79
 標準治療82.2681.72−0.54
 糖質制限 対 標準治療(差)−0.731.60 
その他のパラメーター
CRP(mg/dL)   
 糖質制限6.854.51−2.34
 標準治療9.419.840.43
 糖質制限 対 標準治療(差)−2.56−5.33 
β-ヒドロキシ酪酸(ケトン体)(mmol/L)   
 糖質制限0.170.260.09
 標準治療0.150.12−0.03
 糖質制限 対 標準治療(差)0.020.14 

項目が多すぎてわかりにくいとは思いますが、糖質制限と標準治療を比較すると、標準治療ではほとんど全てのパラメーターが変化していないか、またはわずかに悪化しています。しかし、糖質制限ではほとんど全てのパラメーターが改善しています。

肝脂肪スコア、肝線維症スコア共に大きく改善し、当然ですがHbA1c、空腹時血糖、空腹時インスリン、HOMA-IRも全てかなりの改善です。

糖質制限では中性脂肪は大きく低下しています。ただ、コレステロールは上昇しています。総コレステロールは上昇しますが、HDLコレステロールも上昇、LDLコレステロールも上昇です。標準治療ではHDLコレステロール、LDLコレステロールとも低下しています。つまり、糖質制限ではコレステロールはHDLコレステロールもLDLコレステロールもどちらも上昇することの方が多いということです。HDLコレステロールは上昇すると喜ぶ人も多いですが、LDLコレステロールについては洗脳が行きわたっているので、上昇すると不安になる方もいるでしょう。しかし、中性脂肪が大きく低下し、HDLコレステロールが上昇している状態でのLDLコレステロールは心配する必要は無いと思います。

(「LDLコレステロール値は役に立たない」「LDLコレステロールを低下させることの有益性の証拠はない!」「小さな危険なLDLの割合を推測するには?」「コレステロールを恐れ過ぎてはいけない LDLコレステロール値が低いほど死亡率が上がる!」など参照)

このような糖質制限で起きるコレステロールや中性脂肪の変化を理解しておかないと、無用な不安が起こり、スタチン大好き医師からは脅される結果になります。

その他、肝機能や腎機能、炎症所見など糖質制限では全て改善方向です。差は少ないですが、糖質制限では有意に重要なアルブミンが増加し、血小板は少なくなっています。

変数糖質制限標準治療
ベースライン1年ベースライン1年
全体n = 262n = 87
 異常なALT(GPT) 人数(%)153(58)60(23)38(44)35(40)
 NAFLD肝脂肪スコア 
 >-0.640 人数(%)250(95)197(75)80(92)79(91)
 NAFLD線維症スコア 
 <-1.455 人数(%)46(18)87(33)23(26)22(25)
ベースライン時の異常なALT(GPT)n = 153n = 38
 NAFLD肝脂肪スコア    
 >-0.640 人数(%)151(99)117(76)35(92)37(97)
 NAFLD線維症スコア    
 <-1.455 人数(%)30(20)56(37)11(29)11(29)

上の表はベースラインと1年後の異常なALT(GPT)、NAFLD肝脂肪スコアが-6.40より大きい、NAFLD線維症スコアが-1.455未満、である人の人数および割合を示しています。

そうすると、先ほどの表も合わせて考えると、標準治療では1年経っても何も変化がないことがわかります。しかし、糖質制限ではどの項目も改善している人の人数や割合が非常に多いことがわかります。圧倒的な違いです。

では、糖質制限で体重減少(%)と肝臓関連および糖尿病関連変数の変化量の1年間の関連はどうなったでしょう。

変数体重減少5%以下5%~10%

10%以上

肝臓関連パラメータ   
 ΔALT(U / L)−3.99−7.30−12.52
 Δ血小板(×10 9−20.36−25.33−23.5
 ΔALP(U / L)−4.36−9.70−11.45
代謝関連パラメータ   
 ΔHbA1c(%)−0.92-1.25−1.58
 Δ中性脂肪(mg/dL)−6.25−34.63−63.8
 Δコレステロール(mg/dL)1.34−0.1710.07
 ΔHDLコレステロール(mg/dL)−0.846.1710.41
 ΔLDLコレステロール(mg/dL)3.420.5312.41
腎機能パラメータ   
 Δクレアチニン(mg/dL)−0.023−0.008−0.065
非侵襲性バイオマーカー   
 ΔNAFLD肝脂肪スコア−0.197−1.291−2.805
 > −0.640、人数(%)46人(85%)56人(86%)95人(66%)
 ΔNAFLD線維症スコア0.055−0.351−1.014
 <-1.455、人数(%)14人(26%)14人(22%)59人(41%)
その他のパラメーター   
 ΔCRP(mg/dL)−0.506−2.831−3.970
 Δβ-ヒドロキシ酪酸(ケトン体)(mmol/L)0.0170.0610.203

上の表を見ると、やはり体重減少が大きいほど、ほとんどのパラメーターで大きな改善をしていることがわかります。

上の図はALT(GPT)が正常な人と、異常値な人の割合を示しています。薄い灰色が異常値、濃いグレーが正常なALTの人です。AとCの図は糖質制限1年後にどれくらいの割合の人のALTの値が正常であるかを表しています。BとDはベースラインでALTがすでに異常値を示していた人が1年後にどれほどの割合で正常化したかを示しています。そして、それをHbA1cの変化量で分けています。AとBの図は左端から、HbA1cの変化量が0%以下、0~0.5、0.5~1、1%以上です。CとDの図は左がHbA1cの変化量が0.5%以下、右が0.5%以上です。HbA1cの改善が0.5%を超えるだけで大きく肝機能が改善していることがわかります。

要するに、標準治療で非アルコール性脂肪肝の改善は望めないということです。標準治療は糖質を過剰に摂取するので、当然です。食事の脂質が多いことが脂肪肝を招くのではありません。糖質の過剰摂取が脂肪肝を招いているのです。糖質制限は糖尿病や血糖関連のパラメータだけでなく、心血管疾患のリスクを低下させ、肝機能や腎機能まで改善するのです。このようなほとんど全ての改善を標準治療ではできませんし、薬による治療でも非常に難しいか、または非常に多くの種類の薬を副作用を心配しながら飲み続けなくてはなりません。

しかし、脂肪肝に対する、一般の人の認識は非常に低いと思います。脂肪肝の可能性を指摘しても多くの患者さんは笑っています。恐らく「ちょっと太っていますね?」程度のことを言われたと思うのでしょう。しかも、多くの患者さんは脂肪肝をどのようにすれば改善するのかを他の病院で聞いていません。せっかく血液検査をしているのに、脂肪肝の指摘はされているのに、改善法を教えてもらっていないのです。

改善法は簡単です。糖質制限をするだけです。

「Post hoc analyses of surrogate markers of non-alcoholic fatty liver disease (NAFLD) and liver fibrosis in patients with type 2 diabetes in a digitally supported continuous care intervention: an open-label, non-randomised controlled study」

「デジタル支援連続治療介入における2型糖尿病患者における非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と肝線維症の代理マーカーの事後分析:非盲検非無作為化対照試験 」(原文はここ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です