LDLコレステロール値が高いだけではアテローム性動脈硬化は起こらない その2

以前の記事「LDLコレステロール値が高いだけではアテローム性動脈硬化は起こらない その1」では、LOX-1という受容体が酸化LDLを動脈壁に取り込むのに重要な役割を果たし、LOX-1が活性化されると、内皮機能障害、単球接着、酸化ストレスの増加、泡沫細胞形成、血管平滑筋増殖、および血小板活性化などが起こり、これらの一連のことが、炎症誘発性であり、血栓形成促進状態になり、プラーク形成およびその進行をもたらすことを書きました。

LOX-1は様々なものにより活性化します。今回の記事ではHDLによりLOX-1が活性化することを書きたいと思います。HDLコレステロールは善玉だと思っている人はHDLがアテローム性動脈硬化症に大きな役割を果たすと考えられるLOX-1を活性化するのはおかしいのではないかと思うかもしれません。しかし、HDLにも質があります。変性したHDLは有害な悪玉HDLと考えられます。

 

健康な人のHDLと冠動脈疾患患者からのHDLを比較した研究では、冠動脈疾患のHDLは健康な人のHDLに比べて、脂質過酸化生成物のひとつで、脂質過酸化の主要なマーカーとして用いられているマロンジアルデヒドと多く結合していたのです。冠動脈疾患患者ではPON1と呼ばれるHDL中に存在する抗酸化酵素の活性が低くなっていると考えられるのです。

以前の記事「HDLの糖化は機能障害を起こす」で書いたように、PON1の活性が低下してしまうとHDLは抗酸化作用、抗炎症作用を発揮できなくなり、機能障害を起こすと考えられます。

さらに、これらのHDLについて、血管内皮細胞に対する作用を比較すると、冠動脈疾患のHDLでは、より活性酸素産生の増加、内皮細胞への単球接着の増加、血管拡張作用のあるNOの産生抑制が認められたのです。これらの作用はLOX-1を介した作用と考えられました。(図は原文より)

上の図は、血管内皮細胞のNO産生を示しています。健康な人ではNO産生が増加していますが、安定冠動脈疾患(sCAD)、急性冠症候群(ACS)ではNO産生は低下しています。

つまり、変性をしたHDLがLOX-1を活性化し、それを介して血管内皮障害を促進すると考えられるのです。冠動脈疾患では機能障害を起こした変性したHDLが多く存在し、LOX-1によって血管内皮障害や血管拡張障害を起こしてしまっているのです。

上の図は内皮の活性酸素の産生を示しています。健康な人のHDLが最も少なく、安定冠動脈疾患(sCAD)、急性冠症候群(ACS)では活性酸素の産生が多くなっています。

HDLは善玉だと一般的には考えられていますが、PON1の活性が低下してしまった変性したHDLは悪玉であり、LOX-1を介して、活性酸素産生の増加、内皮細胞への単球接着の増加、血管拡張作用のあるNOの産生抑制などを起こしてしまうのです。

PON1は冠動脈疾患では健康な人の約1.5倍、糖尿病では約2倍糖化して、PON1の活性は糖化すると約60%減、糖酸化すると活性は80%以上減となります。つまり、糖質過剰摂取により高血糖を起こせば、PON1の活性は大きく低下し、HDLが変性して機能障害を起こすと考えられるのです。

HDLは数だけでなく、質が重要なのです。

糖質過剰症候群 心血管疾患

「Mechanisms underlying adverse effects of HDL on eNOS-activating pathways in patients with coronary artery disease」

「冠動脈疾患患者のeNOS活性化経路に対するHDLの有害作用の根底にあるメカニズム」(原文はここ

5 thoughts on “LDLコレステロール値が高いだけではアテローム性動脈硬化は起こらない その2

  1. 糖質過剰摂取が、(誰が名付けたか)善玉のHDLも悪玉に変性させてしまうのですね。

    ところで先生、タバタトレーニングされるそうですが、その際もやはり運動後の糖質摂取はされないのでしょうか? 
    と言うのは、江部先生ブログに以下の記載があり、
    「スポーツと血糖値。<ブドウ糖-グリコ-ゲン>システムと<脂肪酸-ケトン体>システム。 」
    ほとんどのスポーツ(テニス、サッカー、中距離・長距離走など)においては
    主たるエネルギー源は<脂肪酸-ケトン体です。
    しかし、最高強度の運動(100m競争など)だけは
    <ブドウ糖-グリコーゲン>システムが主たるエネルギー源として利用されます。

    高強度のトレーニング後は糖質を摂取しても血糖値は一定時間(期間)上がらないということで
    それは良いのですが、気になるのは高強度トレーニング後に糖質を摂取しないと逆に筋力が低下してしまうなどの弊害が有るのか?という事です。

    先生の知見をお聞かせいただければ幸いです。

    1. 鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。

      タバタ程度で筋肉が増加したり低下したりすることはあまりないと思います。どちらかというとタバタは心肺機能に対して効果があるのではないでしょうか?
      ところで、「高強度のトレーニング後は糖質を摂取しても血糖値は一定時間上がらない」というのは私の記事にありましたか?
      私は高強度のトレーニング後でも血糖値は上がると思っています。個人差はあると思いますが。
      以前の記事「運動により分泌が抑えられていたインスリンは運動終了直後に増加する」で書いたように
      高強度の運動前のスポーツドリンクの影響で、運動中血糖値は下がりますが、運動後はすぐに血糖値が上がり、インスリンも跳ね上がります。
      運動後に糖質を摂っても同じようになると思います。(「食事の前の運動により血糖値低下効果はあるのか?」も参照してください。)
      まあ、そもそも糖質制限で筋肉は低下しません。検索いただきありがとうございます。(記事が多くなりすぎて、自分自身でも自分の記事を検索することが大変です。)

  2. お忙しい中申し訳ありませんでした。

    以前の先生のブロクを検索して、上記の疑問も解消致しました。

    高強度の運動でも、敢えてその前後に糖質を摂らなくても大丈夫そうですね。
    (トレーニングの効果的にもそうだし、糖質を摂らないと筋肉が減るような事もないですね)

  3. はじめまして。健康オタクの中年オヤジです。
    私の健康に関する原則は3つ
    1. 健康や寿命は知能や身体能力同様、遺伝的要素が大きい
    2. 体質は人それぞれ、千差万別であり基準を設けて当てはめることに意味はない
    3. 身体については未知の部分が大半でコンセンサスはころころ変わるので医師や研究者の言うことは信用しない
    以上から「自分のカラダは自分で知り、自分で管理する」ということに尽きます。
    私は糖質も塩も油脂も好きなだけ摂っています。
    43歳ですが体重とウエストを20代の頃と同水準に保ち体脂肪率も10%前後です。
    健康診断はHeA1cが6.0%、LDLが135mg/dlと「基準値」からはやや高めですがまったく気にしていません。
    TGが50mg/dl以下、血圧が115-70であり、頸部エコー検査でプラークがないことを確認しているためです。
    加えて食欲は旺盛、1日2回スルっと出る快便が私の健康のバロメーターです。
    個人的に血管と腸がきれいであれば健康は担保されるのではないかと感じています。
    ちなみにジョギングをしていて一度、フルマラソンに出場しサブ3.5を達成しました。
    但し、ゴールした後の排尿の色を見てもう二度とこんな不健康なことはしないと決めました。

    1. 中林さん、コメントありがとうございます。

      素晴らしい健康3原則だと思います。
      しかし、最初のマラソンでサブ3.5なのにもう走らないなんて、もったいないですね?

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