LDLやHDLは免疫システムの一部である その2

以前の記事「LDLやHDLは免疫システムの一部である その1」では、LDLやHDLなどのリポタンパク質は免疫システムとしての働きがあることを書きました。

アテローム性動脈硬化症を引き起こす原因と考えられている、酸化LDLや酸化を起こしやすいいLDLであるsdLDL(小さな危険なLDL)も、実は免疫システムの一部として働くために変化しているのではないかと考えられます。

実験的には酸化LDLの酸化成分の1つは、感染での好中球の内皮細胞への接着を阻害し、毒素による組織損傷の保護的役割を果たすことが示されています。さらにLDLは細菌細胞と直接結合する能力があるようです。

酸化LDLはLOX-1という受容体を増加させます。(LOX-1については「LDLコレステロール値が高いだけではアテローム性動脈硬化は起こらない その1」「その2」参照)感染がLDLの酸化を増加させ、酸化LDLが原因となる病原体の食作用を促進することが示されています。

実際に心臓の冠動脈のアテロームの中に細菌のDNAが検出されています。(その論文はここ

感染による炎症の初期の代謝変化は、VLDLの増加と中性脂肪の増加を示します。動物実験上では感染が起きるとエネルギー源について変化が起こり、筋肉などはグルコースを優先してエネルギーにすることにより、肝臓や免疫系に脂肪酸を回しているように見えます。

さらにLDLやHDLは感染で減少していきます。感染時、LDLのクリアランスを減少させ、より長い時間血中を循環し、病原体とくっついたLDLなどが取り込まれ、食作用を受けることにより減少するのかもしれません。

実際に、エイズの患者ではコントロールと比較して中性脂肪が増加し、LDLコレステロールやHDLコレステロールは減少し、小さなLDLが多いtypeBの割合は2.5倍増加しているのです。(その論文はここ)(LDLのtypeAとtypeBについてはここ参照)長い時間LDLが循環しているからsdLDLが増加するのか、sdLDLを増加させて循環時間を長くしているのか、どちらかはわかりませんが、私は後者だと思います。

つまり、感染に対して、またその時の炎症に対して、LDLを小さくし、酸化させやすくすることで、病原体との反応や食作用を促進させ、抗感染作用を示す可能性があると思います。

そうすると、感染時のこのような変化は非常に糖質過剰摂取時と似ています。糖質過剰摂取により中性脂肪は増加し、HDLは低下します。糖質制限でLDLが増加する人もかなりいるので、同一人物であれば糖質過剰摂取の方がLDLは低下する可能性もあります。糖質過剰摂取はさらにsdLDLを増加させます。

人類は進化の過程で糖質過剰摂取を行うことは全くなく、想定していませんでした。糖質過剰摂取に対する防御機構は持っていない状態で現代の人類は存在しています。そして急にやってきた糖質過剰に対して人類の体のメカニズムは、糖質過剰摂取が炎症を起こすので、感染時と同様の対応をしていると考えられます。人体は感染の炎症も高血糖の炎症も区別がつきません。

そうすると、どうして糖質過剰症候群でアテローム性動脈硬化症が起こり、心血管疾患が多くなるかが理解できると思います。

脂質代謝はエネルギー的な側面と免疫的な側面を併せ持っていると考えられます。小さな危険なLDLも酸化LDLも実は感染に対する防御機構であって、病原体を除去する働きを担っているのではないかと思います。そして、血中から素早く病原体を除去し、一時的に血管の内膜に保存しておき、病原性が無くなった後にゆっくりと処理しているのではないかと思います。

しかし、現代では毎日頻回に高血糖になり、何度も感染しているような反応を起こしてしまいます。それが少しずつ積り積もって、アテローム性動脈硬化症が進行すると考えられるのです。

糖質制限は非常に有効だと思います。

 

「Plasma lipoproteins are important components of the immune system」

「血漿リポタンパク質は免疫系の重要な成分である」(原文はここ

「Effects of infection and inflammation on lipid and lipoprotein metabolism: mechanisms and consequences to the host」

「感染および炎症が脂質およびリポタンパク質の代謝に及ぼす影響:メカニズムと宿主への影響」(原文はここ

One thought on “LDLやHDLは免疫システムの一部である その2

  1. アテローム性動脈硬化症という現象も、視点の違いひとつで、
    「血管を詰まらせる絶対的な害悪」から、
    「様々な炎症による不具合を修復しようとしている一過程」と、評価が変わるのですね。

    炎症の元凶である感染症や糖質過剰摂取などを防ぐことの方が第一で、
    「脂質異常症」へのコレステロールを下げる薬などの安易な?処方は、逆に免疫力などの身体機能を邪魔してしまうこともあり得ますね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です