中途半端な糖質制限では中途半端な結果になる その2

先日、ある研究会の講演を聴きました。ペインクリニック領域の講演でしたが、「痛みの原因は酸化、糖化、血行動態の低下にある」というもので、非常に興味があり、どんな話になるか楽しみにしていました。フリースタイルリブレを使って色々なことがわかり、血糖値スパイク、インスリン過剰分泌が良くない、というところまでは良かったのですが、なぜかその先生は低血糖の方ばかり話が行ってしまいます。血糖値スパイクの後、インスリンが出過ぎて低血糖になる。いわゆる機能性低血糖(講演内では違う言葉を使っていましたが)が頻繁に認められる。それにより心臓の動きが低下し、血流が低下して、痛みが発生する。糖化によっても赤血球が連銭形成(赤血球が繋がってしまう状態)を起こす、漢方で言うところの瘀血(おけつ)を起こして、血流が悪くなる。だから、血糖値とインスリン分泌を安定させるために、食事1日3回と間食、夜食合わせて6回食事を摂る。1日最低でも130gの糖質を摂取する。糖質制限は絶対ダメ。脳のエネルギーはブドウ糖だけ。糖質を摂らないと脳がやられる。低血糖になれば心臓の動きも悪くなる。糖質がなければ人間は生きていけない(つまり私はすでに死んでいる?)。70過ぎの大御所というような先生で、様々な肩書がありますが、がっくりしてしまいました。知識のアップデートができているところとできていないところが大きすぎて。

糖化は高血糖で起きるのに、食後高血糖に注目するより、その後の低血糖ばかりに注目し、酸化ストレスも高血糖で起きるのに、酸化の話はほとんどありませんでした。インスリン過剰分泌による低血糖と、ケトン体がたっぷり出ている低血糖は全く意味が違いますが、そのことはご存じないのか、敢えて触れないのか?

1日6回も食事をしたら、糖質量を上手く配分すれば血糖値スパイクはほとんどなくなるかもしれませんが、寝ているとき以外はずっとインスリン分泌がダラダラ続いてしまうでしょう。

もちろん、血糖値スパイクが無くなることは良いことであるので、このような食事でも改善するのかもしれません。

ところで、かなり以前の記事ですが「中途半端な糖質制限では中途半端な結果になる その1」では、いわゆる「ロカボ」という中途半端な糖質制限では結果も中途半端だということを書きました。「ロカボ」は糖質過剰摂取に警鐘を鳴らし、糖質摂取量の減少に貢献していると思います。様々な食品のパッケージに「ロカボ」という字やマークが見られるようになりました。しかし、「ロカボ」という言葉が独り歩きして、本当にそれが糖質制限?と思うような糖質量のものまで存在しています。

「その1」でロカボを行った研究で、3年間でHbA1cは8から7.5までしか低下していません。今回の研究ではどうでしょうか?

今回のロカボ研究は、評価プログラムをLOCABOチャレンジと名付けました。ロカボの目標炭水化物摂取量は1食あたり20〜40gです。さらに、1日あたりプラスで10gの炭水化物を摂取することが許されるため、炭水化物の総摂取量の目標は70〜130g/日です。

対象は、交代制勤務で、定期的な食事や運動の習慣を維持するのが困難(完全な決めつけですが)なタクシー運転手やコンビニエンスストアのスタッフで、抗糖尿病薬および抗高脂血症薬を飲んでいない、メタボまたは肥満(過体重)の101人です。

12週間のロカボの結果です。もちろん、本当に糖質の摂取量を順守しているかどうかは不明です。自己申告ですから。(表は原文より改変)

ベースライン研究終了時
血液検査(n = 101)
HbA1c(%)5.7(5.4–6.0)5.6(5.4–5.9)
総コレステロール(mg/dL)203(182–222)198(168–219)
LDLコレステロール(mg/dL)106(93–126)106(86–129)
HDLコレステロール(mg/dL)48(38–61)47(39–59)
中性脂肪(mg/dL)178(117–278)157(114–236)
体重(n = 46)
体重(kg)82.5(72.8–88.0)79.7(71.9–85.9)
BMI27.3(25.9–28.8)26.9(24.8–28.6)
睡眠研究(n = 39)
無呼吸低呼吸指数24.1(10.6–40.9)17.1(8.2–28.8)
最低SpO2(%)84(78–88)84(79–88)
深い睡眠の割合(%)17.0(15.4–22.7)19.1(15.2–24.0)

12週間で有意に改善したのは、体重とBMIと無呼吸低呼吸指数(AHI)です。AHIは次の表のように5未満が正常です。15~30は中等度です。

軽症5 ≦ AHI <15
中等症15 ≦ AHI < 30
重症30 ≦ AHI
ロカボで改善はしましたが、中程度から脱していません。

体重は平均で2.8kgの減少ですし、BMIは0.4しか変化していません。ちゃんと糖質制限をすれば恐らく1か月もかからずに達成できる数値ですね。

有意差も得られていませんが、HDLは変化していませんし、中性脂肪の減少も非常に少ないですね。12週間後でも中性脂肪/HDL比は3.3です。危険ですね。

ベースラインで異常が認められた人をサブグループとして分析しています。異常というのは次の通りです。

HbA1c ≧6.0%または≧5.6%、総コレステロール≧200mg/dL、LDLコレステロール≧120 mg/dL、HDLコレステロール<40 mg/dL、中性脂肪≧150 mg/dL、BMI≧25 kg/m2、AHI score≧5、最低SpO2<90%、深い睡眠の割合<13%です。

バイオマーカーベースライン研究の終わり
血液検査
HbA1c(%)(≧6.0)(n = 34)6.7(6.0–7.6)5.8(5.5–6.3)
HbA1c(%)(≧5.6)(n = 60)6.0(5.7–6.8)5.6(5.5–6.0)
総コレステロール(mg/dL)(≧200)(n = 54)220(206–230)209(192–225)
LDLコレステロール(mg/dL)(≧120)(n = 31)133(125–149)120(102–136)
HDLコレステロール(mg/dL)(<40)(n = 31)35(30–38)40(33–44)
中性脂肪(mg/dL)(≧150)(n = 57)242(191–367)190(134–285)
体重(BMI> 25)(n = 37)
体重(kg)85.0(80.5–89.7)83.0(77.2–87.0)
BMI28.0(26.7–30.4)27.2(25.7–28.7)
睡眠研究
無呼吸低呼吸指数(≧5)(n = 34)25.1(13.9–41.6)17.2(11.8–28.8)
最低SpO2(%)(<90)(n = 34)84(78–86)84(79–88)
深い睡眠の割合(%)(<13)(n = 7)10.4(0–12.2)18.2(13.0–22.2)

そうすると、もともと異常を認めた人では、全体の平均よりは改善が大きくなり、ほとんどの項目で有意差をもって改善しています。HbA1cはかなり低下していますが、それ以外の項目の変化はそれほど多くありません。中性脂肪も50以上低下はしているのですが、まだ190もあります。中性脂肪/HDL比は6.9→4.75です。かなり12週間後でも危険な状態です。これだけ中途半端に糖質を摂取していると中性脂肪は大きくは低下しないのですね。

データの信ぴょう性もありますが、3か月と非常に短い期間ではあるので、この程度の改善とも言えます。ただインスリン抵抗性がメインのHbA1cの増加だと思われるので、中程度の糖質制限でもHbA1cは低下するようです。しかし、それ以外のパラメータを考えると、やはり中途半端な糖質制限では結果も中途半端でしかないようです。糖質制限をやらないよりは良いけれど、この程度の糖質制限でケトン体は産生されているのかどうかは不明です。糖質制限で糖質も少なくなりますが、中途半端なために脂質も十分にエネルギーにできないのでしょう。かなり苦しい状態だと思います。

健康な人で、様々なパラメータの異常がない場合はロカボでも良いとは思います。しかし、日本人としてはかなりの過体重、肥満ですし、睡眠時無呼吸も伴っている状態ですし、中性脂肪がかなり高く、HDLが低いので、ロカボよりもちゃんと糖質制限をやった方が良いと思いますが。

当然、糖尿病または前糖尿病ではロカボはお勧めできません。

糖質過剰症候群

「Changes in Body Weight, Dysglycemia, and Dyslipidemia After Moderately Low-Carbohydrate Diet Education (LOCABO Challenge Program) Among Workers in Japan」

「日本の労働者における適度な低炭水化物ダイエット教育(LOCABOチャレンジプログラム)後の体重、血糖異常、脂質異常症の変化」(原文はここ

コメント

  1. 鈴木 武彦 より:

    社会の迷惑「専門○○」ですね。

  2. Crazy Japanese より:

    いつも楽しく先生のコメントを拝見させて頂いてます。
    私はもうかれこれ5~6年糖質は取らないように心がけています。
    飴1個も舐めません。穀類は体に悪いと思って全く取りません。
    現在71歳でフルタイムで働いています。
    髪は黒々フサフサ、齲歯なし、何の内臓疾患もなし、
    睡眠も完璧で、起床時はさわやかです。
    アメリカ人作家の小説も原書で難なく読めます。
    糖質は体に全く必要ないと実感しています。

    Crazy Japanese

    • Dr.Shimizu より:

      Crazy Japaneseさん、コメントありがとうございます。

      71歳で非常に良い状態で素晴らしいですね。
      70前後だと糖質制限をしている人と糖質過剰摂取者では大きな差が付きそうですね。

  3. 西村 典彦 より:

    私は、糖質制限を実践する上でケトン体の産生を非常に重視しています。
    時々、リブレのケトン体電極で簡易測定していますが、一日のMAXが1.2mmol/Lを超えると非常に体が楽になり歩く際にも足取りが軽く感じられます。
    さらに常時、0.6mmol~1.0mmol/L以上をキープすると精神的にも前向きになり、不安感などが消えていくのが感じられます(以前、不安障害あり)。
    それにはやはり、しっかりと糖質を制限することと、脂質を多めに摂取することが必要になります。
    中途半端な糖質制限では、糖質制限も脂質の摂取量も中途半端で結局、カロリー制限になってしまっているのではないでしょうか。

    • Dr.Shimizu より:

      西村 典彦さん、コメントありがとうございます。

      やはりケトン体が重要だと私も思います。
      糖質制限が上手くいかない人は、中途半端な制限の人が多いのかもしれませんね。