以前の記事「術前の糖質を含んだ水分は止めるべきかもしれない その1」「その2」「その3」「その4」では、術前の糖質を含んだ水分補給で得られるメリットはほとんどないのに、もしかしたら乳がんの予後を悪化させる可能性があることを書きました。
糖質ががんのエサであることを考えると、当然なのかもしれません。ではケトン食は乳がんの治療にどのような影響を及ぼすでしょうか?
今回の研究では、少なくとも12週間化学療法を受ける18歳から70歳までの、局所進行性および転移性乳がん患者を対象としました。合計80人の患者がランダムに12週間のケトン食または対照群に割り当てられました。(最終的には30人ずつになりました。)
化学療法の完了時に、局所進行性の患者は手術を受け、病期(ステージ)が再計算されました。また、転移のある患者の奏効率を評価しました。(図は原文より)
上の図はそれぞれのグループのベースラインの特徴です。ややコントロールで転移性、ステージ4が多いですね。
ケトン食群は中鎖脂肪酸(MCT)ベースのケトン食で炭水化物6%、タンパク質19%、MCT20%、および脂質55%で構成されるていました。食事の遵守は、血中のβヒドロキシ酪酸レベルと食事摂取量の評価を通じて検証されました。治療的ケトーシスは、βヒドロキシ酪酸> 0.3mmol/Lとして定義されました。
対照群の食事は、炭水化物55%、タンパク質15%、脂質30%の標準的な食事療法に従いました。
上の図は実際の食事の3日間の平均値です。ケトン食では脂質100gオーバーですね。炭水化物は22gです。エネルギー量は1,263kcalと少ないです。当然コントロールは12週間後でもちょっとエネルギーが減少した程度で変化ありません。
対照群と比較してケトン食群ではTNF-αは12週間の治療後に有意に減少し、IL-10は増加しました。TNF-αは代表的な炎症性サイトカインであり、IL-10は抗炎症性、抑制性サイトカインです。
ケトン食群では、対照群と比較してインスリンが低くなりました。
上の図は腫瘍のサイズです。ケトン食群では、ベースラインでは平均して54mmだったものが12週間後には27mmと半減でした。コントロールでは40mmが34mmとわずかな減少にとどまりました。腫瘍の減少量は27mm対6mmと、コントロールと比較してケトン食で有意に縮小しました。
上の図は病期(ステージ)です。ベースラインではケトン食群ではステージ2が14人 (46.7%) 、ステージ3が9人 (30%) 、ステージ4が7人 (23.3%) でした。ケトン食12週間でステージ4は減少しませんでしたが、ステージ3は大きく減少し10.3%になり、ステージが0~1が合わせて30%以上になりました。
コントロールではステージ2が11人 (36.7%) 、ステージ3が4人 (13.3%) 、ステージ4が15人 (50%) でした。ステージ1が増加しましたが、ステージ3と4はわずかに増加しました。
ただ、転移性の患者の奏効率は、2つのグループ間で有意差を示されませんでした。 ケトン食群では、3人の患者(骨転移、肺転移、骨転移を伴う肺転移)では進行し、2人(肝転移、骨転移を伴う肺転移)が部分的な反応を得ました。 対照群では、2人(肝転移、肝転移を伴う骨転移)の部分的反応、4人(3人の骨転移、1人の肺転移)は維持、2人(骨転移)は進行しました。
ケトン食だけでがんを消滅させることはもちろん無理です。しかし、ケトン食にはここまで大きなパワーがあります。如何に糖質過剰摂取が良くないかがわかります。糖質はがんのエサであり、インスリンは腫瘍を成長させます。
しかし、化学療法中ほとんどの病院では糖質たっぷりの入院食が提供され、外来での化学療法時でも、食事の制限などはなく、好きなもの、食べれるものを食べるように推奨されるでしょう。
ここまで抗がん剤の治療で差が出るのであれば、ほとんどの患者さんはケトン食を選択するはずです。しかし、このような情報は提供されません。
糖質は重要なエネルギー源という人がいますが、人間のほとんどの正常な細胞には重要ではありません。がん細胞にとっては重要なエネルギー源でしょう。バランスの良い食事が重要という人がいますが、いわゆるバランスの良い食事をしていてがんを発症した人がほとんどだと思います。「バランスの良い食事」が間違っているからこそ、がんになった人も多いでしょう。
これだけがんに対する多くの研究がされながら、なかなか臨床には応用されません。
がんは糖質過剰症候群です。予防も治療も、まずは糖質制限をしましょう。
「Effects of Ketogenic metabolic therapy on patients with breast cancer: A randomized controlled clinical trial」
「乳がん患者に対するケトジェニック代謝療法の効果:ランダム化比較臨床試験」(原文はここ)
自身は糖質制限しながら「バランス良い食事、なんでも食べられる物を」勧める医師も
もしかしたら多いのでは?
鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。
昼食の内容や体型から見て、私が見る限り、そこまではいないでしょう。