処方薬が減ると高齢者の摂食量が増加

以前の記事「多剤併用どうにかならないか?」でも書いたように、本当に患者のみなさんは、ものすごい種類の薬を併用しています。私はときに「こんなに飲んでいては、薬だけでお腹いっぱいですね」と言っていますが、本人としては医師が飲めと言ったものを自己判断ではやめられないということなのでしょう。そして、問題は多くの人が理由もよくわからず、本当に長期に服用が必要なのかも考えず、言われるがまま薬を飲み続けていることです。

薬をやめることで何らかの症状が改善したり、消失したりすることは珍しくありません。歩行もおぼつかないような人が、薬を可能な限りやめたことで、見た目にも10歳以上も若く見え、スタスタと歩けるようになったこともあります。

つまり、年齢とともに確かに様々な症状が出てくることはありますが、それに対して薬をいくつも飲んでいると、その相互作用や副作用で、別の症状が出てくることがあるのです。その別の症状にまた薬で対処すれば、泥沼化していきます。

今回の研究では、多剤併用(ポリファーマシー)により、栄養摂取量が減っている可能性を示唆しています。対象は回復期リハビリ病棟に入院した日本人の65歳以上で、入院時に6剤以上が処方されていた脳卒中患者849人のうち、サルコペニア(筋肉量や筋力が低下した状態)と判定された91人です。平均年齢81.0歳で、低栄養リスクスコア(GNRI)は中央値91でした。

低栄養リスクスコア(GNRI)は血清アルブミン値と体重から計算するもので、82未満は重度栄養リスク、82以上92未満は中等度栄養リスク、92以上98未満が軽度栄養リスク、98を超えるものが栄養リスクなしです。

つまり、低栄養状態の患者が多くを占めていたことになります。

入院時の処方薬の数は中央値が8剤であり、退院時の処方薬数が入院時よりも減っていた減薬群が39人、非減薬群が52人でした。減薬群の入院時の処方数が9剤で退院時までの変化は-2剤でした。非減薬群は入院時7剤で退院時までの変化は+1剤でした。(頓用薬、点眼薬、湿布などは除外しています。)

エネルギー摂取量は中央値28.0kcal/kg/日、タンパク質摂取量は中央値で1.1g/kg/日でした。

減薬群の退院時のエネルギー摂取量の中央値は30.5に増加しました。多変量回帰分析を行った結果、入院から退院までの処方薬数の変化と、退院時の摂取エネルギー量や摂取タンパク質量との間に有意に負の相関関係があることが明らかになりました。

つまり、内服薬が減ると摂取エネルギーおよび摂取タンパク質量が増加していたのです。ただ、握力などの改善は認められず、サルコペニアは改善しませんでした。高齢者が一度失った筋肉や筋力を取り戻すには、相当なリハビリが必要なのかもしれません。

薬の服用は栄養状態に影響を与える可能性があります。ただでさえ食事量が減っている高齢者が、内服薬で食欲を低下させたり、栄養吸収が悪くなったりする可能性があります。

本当に高齢者のPPI(プロトンポンプ阻害薬)は必要でしょうか?スタチンは必要でしょうか?それほど多くの高血圧の薬は必要でしょうか?高齢者の中には血圧の薬をずっと飲んでいて、収縮期血圧が100前後まで低下している人も珍しくありません。高齢者の眠剤はそれほど必要でしょうか?睡眠習慣を改善せずに眠剤がずっと処方されている人も珍しくありません。

止められる薬はいっぱいあります。食事や生活を改善し、ウォーキング程度でも良いので運動をすれば、不必要な薬はどんどん増えます。医療や薬に頼れば、泥沼にはまります。

まずは糖質制限でしょう。

 

「Deprescribing Leads to Improved Energy Intake among Hospitalized Older Sarcopenic Adults with Polypharmacy after Stroke」

「処方中止は脳卒中後の多剤併用で入院している高齢者のサルコペニアのエネルギー摂取量を改善する」(原文はここ

4 thoughts on “処方薬が減ると高齢者の摂食量が増加

  1. 「こんなに飲んでいては、薬だけでお腹いっぱいですね」
    医療を受ける側からなかなか言い出しにくいことを、
    医師の方からこういう率直なご意見をいただけると、スッキリします。

    1. 鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。

      なかなか難しいかもしれませんが、ちゃんと医療を受ける側から説明を求めるべきです。
      この薬は本当に必要なのか、いつまで必要なのか、止められるにはどうすれば良いか、長期的な影響はどうかなど。
      そうすれば、少しは多剤併用の薬の数が減らせると思います。
      自分の体に入れるものなので、受け身になってはダメでしょう。

  2. 医師を前にして言うのも何ですが、医師は「学校の勉強」(記憶力勝負の受験勉強)ができる人であって、それ以上でもそれ以下でもないと私は思っています。
    医師や弁護士と接したことがありますが、私の関心事に限定すれば、明らかに私の方が法律上の知識、医療や健康上の知識が上でした。
    何が言いたいかと言うと、自分のことは自分の頭で考えて、自分で調べて、自分で判断し、行動を起こすべきだということです。
    今のワクチン接種の問題にしてもそうです。
    接種しなければいけない世論が形成されていますが、本当にそうなのか?
    自分で考えて判断し、行動している人がどれだけいるのか甚だ疑問です。

    1. 遠州のからっ風さん、コメントありがとうございます。

      仰る通り、一般的に医師は健康上の知識が豊富ではありません。自分の専門分野のみであることは少なくないと思います。
      医師は健康のプロではありませんから。
      医師という肩書だけでその人を信じる人は、自分のことを自分自身の課題としていない方であり、判断を人に任せてしまっているのだと思います。
      仰る通り、何が正しいか、自分のことは自分で調べて、自分で判断し、行動を起こすべきだと、私も思います。

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