いまだに世の中では糖質過剰摂取が普通の食事です。一方、糖尿病の診断に行うOGTT(経口ブドウ糖負荷試験)は糖質過剰摂取が前提の検査です。だから、糖質制限をしている人が急にこの検査を受けると恐らく多くの人が糖尿病と診断されてしまうかもしれません。
検査前に長期に糖質摂取が少ないと、負荷後血糖が高値となるため検査実施前の3日間は炭水化物を150g以上含む食事を摂ることが必要だとされています。
実際には1日の炭水化物量だけではなく、前日の検査前最後の食事での糖質量も大きく影響するようです。
今回は症例報告です。
20歳の健康な女性で、身体的に活発な大学生であるボランティア、BMIが20.7 、糖尿病の個人的および家族的な病歴はありませんでした。12時間の絶食後、空腹時血糖値は60mg/dLでした。75gのOGTTでブドウ糖負荷の1時間後血糖値は153mg/dL、2時間値は200mg/dLでした。
2時間値が200なので糖尿病と診断される懸念がありました。前日の食事は、フライドポテトを含むファーストフードレストランで高炭水化物の朝食と昼食を食べたと報告しました。夕食は、卵、七面鳥のベーコン、トーストにのせたアボカド、8オンスのオレンジジュース(正味炭水化物50グラム未満)でした。
異常なOGTTの一週間後、もう一度OGTTを受けました。OGTT前に3日間、最低150gの炭水化物を食べるように指示されました。1回の食事あたり50gを超える炭水化物摂取を確認しました。そうすると空腹時で71mg/dLでありOGTT2時間値は75mg/dL、HbA1cは5.0でした。GAD65抗体は陰性でした。
古い研究では、炭水化物を5日間20gに制限すると耐糖能が低下することが認められています。さらに、1日の炭水化物量が150gを超えていても、直前の食事の炭水化物量が少ないと、ブドウ糖負荷後の血糖値が大きく上昇することも確かめられています。(ここ参照)インスリン分泌絶対量が低下するわけではなく、インスリン抵抗性が増加することによるものだと思います。
75gOGTTを施行し、負荷後30分の血中インスリン増加量を、血糖値の増加量で除した値であるinsulinogenic index(インスリンインデックス)は、食後のインスリン追加分泌の初期分泌能の指標となります。直前の炭水化物量が少ないと、このインスリンインデックスが低下します。絶食後、すい臓は急激に増加した糖質量に対して1回目はその血糖値の増加に見合ったインスリン分泌をしているつもりでも、効き目が悪い、つまりインスリン抵抗性が増加してしまっていると思われます。
これはいわゆる「セカンドミール現象」と同様です。絶食後は耐糖能が悪く、その次の食事ではインスリンの効き目が良くなるのは当然の生理現象なのでしょう。
妊婦さんのOGTTでも同様に、直前の食事が影響するという報告があり、直前の糖質量を減らしてしまうと誤診を招く可能性があります。(ここ参照)
では直前に糖質をしっかりと摂取したときのOGTTと糖質制限をしたときのOGTTはどちらが本当なんでしょう。どちらも人間の生理的な反応なのでどちらも本当ですが、意味を考える必要があるでしょう。
OGTTの意味は糖尿病かどうかを調べることではなく、本当は「まだ75gという大量の糖質に対応する余力があるかどうか?」でしょう。直前に糖質をしっかりと摂取したときのOGTTが正常だった場合は、普段から糖質過剰摂取を続け、あまり休みなく(絶食時間を少なくしたり、直前にたっぷりと糖質を摂る)糖質を摂取し続ければ、筋肉などの末梢が受け入れ準備が整っていて、インスリン分泌もまだ減っておらず、インスリンの反応がまだ良い状態。直前に糖質をしっかりと摂取したときのOGTTが異常値だった場合は、普段からの糖質過剰摂取に対して筋肉などのインスリン抵抗性が高くなっているか、インスリンの分泌が減少しているか、そのどちらも起きているか、ということになります。
しかし、直前に糖質制限の食事をした場合には、人間本来の姿に近い食事をした後の検査なので、生理的なインスリン抵抗性が高まっていて、通常インスリンの反応が低下していても不思議ではありません。さらに絶食では血糖値を上げるホルモンがいっぱい出ている状態ですから血糖値が上がりやすくなるのも当然です。病的意味があるかどうかさえ評価できません。75gという異常な量の糖質を摂取しているのは現代の人間だけであり、進化の過程ではあり得ない状況です。糖質制限をしている人が急に75gも糖質を摂取して対応できなかったとしても、異常とは言えないどころか、むしろその方が正常だと思います。
OGTTは糖質過剰摂取の人が、その後も糖質過剰摂取を続けることを前提にした検査でしょう。直前の糖質摂取量(恐らく絶食時間の長さも関係すると思います)によって結果が変化してしまう、欠陥のある検査なのです。糖質制限をするのであれば、あまり意味のない検査でしょう。
糖質制限が世の中に拡大してきている現在、OGTTは時代遅れの検査なのかもしれません。他の検査で置き換えるべきでしょう。
恐らく、OGTTを行う医師は糖質制限だけでなく、直前の食事の糖質量が結果に大きな影響を与えることを忘れている、または知らない可能性があります。もしも万が一この検査を受けなければならない場合には、結果をできる限り良くしたいなら、我慢してたっぷりの糖質を絶食の指示のギリギリの時間に摂取すべきでしょう。でも体のためにはやらない方が良い検査です。「糖尿病」という診断名が欲しいなら別ですが。
「Carbohydrate Intake Prior to Oral Glucose Tolerance Testing」
「経口ブドウ糖負荷試験前の炭水化物摂取量」(原文はここ)
江部先生のブログでも常々、インスリンは必須だけれど必要以上の分泌は
悪影響があるとのこと。
せっかく低インスリン分泌で平常運転の体に無理やり糖質を大量投与して、
「ほら、反応悪いよ」と言ってるような感じですね。
鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。
OGTTはできる限り受けない方が良いですね。毒を飲ませて、それでどれほど有害な反応があるかを見る検査ですから。
OGTTにはもう一つ疑問があります。
体重が100kgを超えるような人も50kgもないような人でも同じ75gを摂取するのですが、体格が倍以上違うのに同じ量を摂取する事は結果に影響がないのでしょうか。
西村 典彦さん、コメントありがとうございます。
仰る通り、以前の記事「OGTT(経口ブドウ糖負荷試験)はかなり適当な検査」で書いたように、
本来なら体重や体表面積での補正が必要です。専門医たちは知っていて見て見ぬふりなのでしょうか?
体を張って受けるような検査ではないのかもしれませんね。
先生はキプチョゲは短命だと思われますか?
https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/blog/bl/pneAjJR3gn/bp/pRln1dLjoM/
彼のOGTTの値、さらにレース中を含めた24時間の血糖値(できたらインスリン値も)を知りたいところですね。
どんな値が出るか想像できますか?
もし世界記録と命、トレードオフの関係にあるのならば、世界記録や五輪二連覇を手放しで賞賛してよいものなのかためらってしまいます。
それでも記録を更新し続け勝ち続ける彼は、糖に対する特異遺伝子を持っているのか?、あるいは現役でいる限り大丈夫なのか?興味は尽きません。
まーさん、コメントありがとうございます。
腸をトレーニングして、糖質のトランスポーターの数が増え、糖質の吸収力が高まっている可能性があるというのには私は否定的です。
私はキプチョゲ選手はハイブリッドの程度がすごいのだと思います。糖質も脂質もエネルギーにできる力が非常に優れているのではないかと想像しています。
確かに血糖値変動などわかったらおもしろいですね。
アスリートは健康のために運動しているわけではありません。健康か記録かは本人の課題です。