立ち上がり、歩こう

安静は不健康です。座ってばかりいる、寝てばかりいる状態は人間の体に悪影響をもたらす可能性があります。

今回の研究では、平均年齢21歳、BMI22.6の健康な18人を対象に、3つの身体活動を4日間続けてもらいました。食事はいつも通りを維持してもらいます。(図は原文より、表は原文より改変)

上の図は3つの活動パターンです。左が座りっぱなし、真ん中が1時間の運動(サイクリング)、右が最小活動です。座りっぱなしでは1日14時間座り、1時間歩き、1時間立ち、8時間睡眠または仰臥位で過ごすように指示されました。運動群では座りっぱなしの座位でいる時間のうち1時間をサイクリングに費やします。その運動強度はエネルギー消費量を450kcal増加させる程度に設定され、心拍数は52±3拍/分増加しました。最小強度の活動群では、座位の時間のうち4時間をゆったりとしたペースでの歩行と、2時間を立位に置き換えるように指示されました。つまり1日の起きている時間の半分程度を最小強度で活動することになります。そのエネルギー消費量は1時間のサイクリングと同じ450kcal増加させる設定です。

座りっぱなし運動最小強度の活動
毎日のエネルギー摂取量(kcal)1539(427)1477(352)1394(292)
タンパク質(g)61.1(14.8)59.7(13.5)55.6(13.4)
脂肪(g)54.5(14.7)50.2(19.6)50.1(12.2)
炭水化物(g)199.0(68.9)196.7(48.9)180.0(51.2)
毎日のエネルギー消費量(kcal)1934(88)2407(100)2486(121)
座っている時間(時間)13.6(1.2)12.7(1.7)7.4(1.3)
っている時間(時間)0.99(0.50)1.08(0.48)3.08(0.88)
運動時間ではない活動時間(時間)0.81(0.29)1.01(0.26)4.85(0.63)
睡眠時間(時間)8.58(0.74)8.17(1.37)8.65(0.93)
歩数/日4324(1485)6049(1402)27590(3724)
中性脂肪(mmol/l)0.90(0.26)0.85(0.35)0.70(0.23)
総コレステロール(mmol/l)4.20(0.67)4.11(0.60)3.96(0.50)
HDLコレステロール(mmol/l)1.26(0.34)1.27(0.28)1.30(0.30)
非HDLコレステロール(mmol/l)2.94(0.47)2.84(0.57)2.65(0.48)
LDLコレステロール(mmol/l)2.53(0.51)2.45(0.57)2.34(0.49)
インスリン感受性指数20.4(8.2)22.8(9.9)26.3(11.7)
空腹時血糖(mmol/ml)4.6(0.4)4.5(0.3)4.5(0.4)
空腹時インスリン (mU/ml)11.5(9.0)9.4(4.4)8.5(4.0)
血糖曲線下面積 (mmol min/ml)715.7(135.7)765.8(115.9)754.9(141.8)
インスリン曲線下面積  (mUmin/ml)7752.0(3015.4)8320.4(5383.7)6727.3(4329.4)
C-ペプチド曲線下面積  (nmolmin/l)217.4(76.6)219.2(67.4)193.0(63.7)

上の表は様々なパラメータです。エネルギー摂取量はかなり少ないので、過少申告でしょう。ただどれも同じ条件なので無視して構わないと思います。エネルギー消費量は座りっぱなしよりも運動群と最小活動群でおよそ500kcal増加していました。やはり最小活動群が歩数は最も多く、座っている時間もデザイン通り最少でした。最小活動群で最も中性脂肪値が低下し、インスリン感受性も最も高くなり、空腹時のインスリンも低下傾向でした。血糖値の変動はなく、インスリンの曲線下面積は最小活動群が有意に低下しました。

上の図は、OGTTでのインスリンや血糖値などの推移です。先ほど書いたようにインスリンのみ有意差があり、最小活動群が有意に低下していました。

1日1時間中程度の運動することでは、座りっぱなしの時間を帳消しにはできないようです。恐らく、もう少し強度の高い運動をするか、もう少し長くするかが必要でしょう。運動しないのであれば、1日の中で半分程度の時間を、非常に弱い強度で良いので活動することは非常に重要なのかもしれません。

新型コロナウイルスを恐れるあまり、多くの人が長い間、外に出ず、リモートワークや自宅で過ごす時間が増加しました。動かないことは様々な影響をもたらしたと思います。感染よりももっと恐ろしい状況が起きていることもあります。

やっと、本当は大して怖くもないウイルスだと気づく人が増加し、外出する人も増加しました。人間の体は動かさない臓器に栄養を配分することは少なくなり、逆にその臓器を減少させるような代謝になるでしょう。つまり動かないと骨が弱り、筋肉が低下するのです。一度低下すると、特に高齢者は元に戻すことが非常に難しくなります。(「とにかく可能な限り動きましょう」「高齢者は安静にしすぎると、筋肉の回復が難しくなる」「動かないことによる筋肉の減少はタンパク質の摂取だけでは防げない」「筋肉の低下を年齢のせいにしてはいけない」「フレイルにならないために自分で自分の体に責任を持つ」など参照)

運動にこだわる必要はなく、ウォーキングで良いのです。立っているだけでも意味があるのです。ただ、心肺機能などのことを考えれば、やはり少し呼吸上がる、心拍数が上がる程度の運動は必要でしょう。安静は有害です。とにかく動きましょう。運動は健康のためです。

 

「Minimal intensity physical activity (standing and walking) of longer duration improves insulin action and plasma lipids more than shorter periods of moderate to vigorous exercise (cycling) in sedentary subjects when energy expenditure is comparable」

「より長い持続時間の最小強度の身体活動(立位および歩行)は、エネルギー消費が同等である場合、座りがちな人における短い中程度から激しい運動(サイクリング)よりもインスリン作用および血漿脂質を改善する」(原文はここ

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